【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船

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 ナタリアが教室へと戻ると、近くに居た学園生達がナタリアの顔色の悪さに心配そうに近付いて来た。

「ナタリア嬢? 顔色が悪いですわ。どうされました、大丈夫ですか……?」
「本当ですね、体調が悪いのでしたら無理せずお帰りになられては?」

 学園生達は、男女関係無くナタリアを心配し、早退する事を進めて来る。

 ナタリアは「でも授業があるから……」と小さく零すが、ナタリアの側に居た学園生達がヒソヒソと憶測で噂話を始める。

「──もしや、リスティアナ嬢に何か酷い事を言われたのでは?」
「ああ、メイブルム侯爵家が高位貴族だからと言って、もしかしたらナタリア嬢に酷い事を言ったり、行っているのかもしれないな」
「まあ! なんて事を……! ナタリア嬢、殿下にしっかりとお伝えして、リスティアナ嬢のメイブルム侯爵家に罰を与えて頂かないと!」

 ナタリアの周りの学園生達がありもしない事をさも真実のような口振りで声を大にして豪語する。
 ナタリア自身リスティアナからはそのような事をされた事は一切無いが、された事にしておけば人々の注目は自分自身から離れ、リスティアナに注目が集まるのでは、と考える。

(そう、ね……! そうよ、リスティアナ嬢に嫌がらせをされていると言う事にすれば、リスティアナ嬢に視線は集まるわ……。少しでも私から人の目が離れればどうでも良い……!)

 自分勝手にナタリアはそう結論付けると、学園生達が勘違いをし易いように悲しそうな表情を浮かべて俯く。

「そ、そのような事を言ってはいけないです……。私が悪いのです、リスティアナ嬢がお慕いしていた殿下と……このような事になってしまって……」
「まあ! やはり、ナタリア嬢はお辛い目に合っておられたのですね」
「これ以上我慢する必要は無いですよ。リスティアナ嬢は既に殿下との婚約を解消しているのですから、ナタリア嬢を苦しめるリスティアナ嬢を殿下に懲らしめて頂けばいいのですから……!」

「ありがとうございます、皆さん……。私は体調が優れない為、早退させて頂きます。けれど……! リスティアナ嬢ばかりを責めないで下さいね。殿下を愛していらっしゃったのです……、辛い目に合って私を恨む気持ちも分かりますから……」

 ナタリアが悲しそうに眉を下げてにこり、と微笑むと周囲の学園生達は「何と優しい……!」と声に出して、ナタリアが馬車停めまで向かうのを手伝った。

 ナタリアは、ヴィルジールに学園を早退する旨を先だって知らせを送ると、王城からの馬車を心配して着いて来てくれていた学園生達と談笑しながら待ったのだった。





 そして、ナタリアが学園を出た頃。
 丁度昼食の時間も終了し、リスティアナ達四人は午後の授業の為教室に戻って来て居た。

 教室内でリスティアナが午後の授業を行っていると、リスティアナの目の前にふ、と影が落ちる。

「──、?」

 何だろうか、とリスティアナが視線を上げると目の前には何故かリオルドが複雑な表情を浮かべて立っており、リスティアナが「スノーケア卿?」と不思議そうに声を掛けると、リオルドが唇を開いた。

「──午前中の授業の先生からリスティアナ嬢と私の提出物を返し忘れた、と言伝を受けてます。取りに来るように、との事で。午後の授業に遅れて参加する事は先生同士で話でいるみたいなのでこれから取りに行きましょう、リスティアナ嬢」
「──あら、本当ですか……? わざわざお伝え下さりありがとうございます、スノーケア卿。先生は準備室でしょうか」
「ええ、そのようですよ」

 リオルドの言葉に、リスティアナは首を傾げながら椅子から立ち上がるとリオルドと共に教室を出る為、扉の方向へと歩いて行く。

 扉を出た所で丁度午後の授業の先生と鉢合わせたが、リオルドが先程言っていた通り先生同士で話が伝わっていたのだろう。
 リスティアナとリオルドに「早めに戻って下さいね」と声を掛けるとそのまま教室内へと入って行った。

 午後の授業が始まったからか、廊下はしん、と静まり返っておりリスティアナとリオルドが廊下を歩く音が響く。
 リスティアナとリオルドは雑談混じりの会話をしながら廊下を暫く歩く。
 廊下を暫く歩いた所でリオルドは周囲を確認し、誰も居ない事が分かるや否やリスティアナに向かって唇を開いた。

「──リスティアナ嬢。先生の所に行く前に少しだけ良いですか?」
「え、? ……何かありましたのね、分かりました。直ぐそこの渡り廊下の先に丁度、外に繋がる出入口がございます。そこでしたらお話するのに丁度いいでしょう」

 渡り廊下から直接外に出る事が出来る。
 外へと出る為には階段を降りてもう一枚の扉を開けて外に出る必要があるのだが、そこは扉と扉の間に階段がある形となっており通路は硝子窓が嵌め込まれている為、その場所で会話をしていても外に漏れる可能性は殆ど無い。

 リスティアナの提案にリオルドもこくりと頷くとその階段へと続く通路の扉を開けて扉を閉めるとリスティアナはリオルドへ振り向いた。

「──それで、スノーケア卿。何か起きました?」
「ええ……。昼食が終わった後、午前中の授業の先生に呼ばれ先生の元に行く途中、最高学年の教室の近くを通ったのですが……」

 リオルドの「最高学年の教室」と言う言葉を聞いて、リスティアナはこっそりと胸中で溜息を吐き出す。
 そうだろう、と言う予測は着いていたが案の定リオルドはナタリアに関する何かを耳にしたのだろう。

「──ナタリア嬢は、体調不良で午後早退するそうですが……。その理由が、リスティアナ嬢がナタリア嬢に酷い行いをしたからだ、と最高学年の教室では噂になっていました。……その噂の広まり方がどうも早過ぎる……。その違和感を覚えた為、貴女に話しておこうと思いまして」
「まあ……。そうだったのですね、ありがとうございます。根拠の無い噂話がそれ程までに広がるのが早いと言うのはやはり些か違和感を覚えますわね……」
「──ええ。私もタナトス領の兄に隣国の動向を注視するよう伝えておきますので、リスティアナ嬢もどうぞお気を付け下さい」
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