【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船

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 教室を出る前、リスティアナは学園生達の視線を感じながら「はい」とヴィルジールに返事をして席を立つと、少し前の席に座っているコリーナやアイリーン、ティファが心配そうな視線を向けてくれる。
 リスティアナは友人達を安心させるように順に視線を向けて頷くと、外で待つヴィルジールに着いて行き、医務室を目指して歩き出した。

 歩き出して少しした頃。
 気まずい雰囲気と、リスティアナが何も言葉を発さない事にヴィルジールは視線を彷徨わせながらチラリ、とリスティアナに視線を向けて話し掛けて来た。

「──リスティアナ、すまないな授業中に。どうしても確認したい事があって」
「いいえ。お気になさらず」

 真っ直ぐ前を向き、背筋を伸ばして歩くリスティアナから視線を向けられず、今まで柔らかな表情で微笑みながら言葉を向けられていたヴィルジールは、リスティアナの他人行儀な態度に傷付いたような表情を浮かべながらちらちらとリスティアナに視線を向けながら言葉を続ける。

「その、リスティアナがする筈が無いと言う事は分かっているんだが……、双方からの説明を聞かなければいけなくて、な……」
「殿下の仰る通りですわ。公平な判断をする為にも何か問題があった者同士の話を聞くのであれば、お互いの話を聞かねばいけません」

 リスティアナは、このままどこか空き教室に案内されるのだろうか、と考えていたのだが、どうやらヴィルジールが向かっている先に嫌な予感が立ち始める。

(──まさか、医務室に連れて行くおつもりかしら……? ナタリア嬢がいるのに……?)

 何か問題が起きた者同士を対面させる事は問題解決に置いて悪手ではないだろうか、とリスティアナが考えていると、視界に医務室が見えてリスティアナはそこで足を止めた。

 突然足を止めたリスティアナに怪訝そうに眉を下げたヴィルジールは、「リスティアナ?」と先に進むように促すがリスティアナはしっかりとヴィルジールに視線を合わせたまま唇を開く。

「──殿下、まさか医務室に行かれるおつもりですか?」
「あ、ああ。双方から話を聞かねば……それは先程話したし、リスティアナも納得してくれただろう?」
「それならば、あの部屋には既にナタリア嬢はいらっしゃらない、と言う事で宜しいでしょうか? 問題が起きた者同士を対面させるには時期尚早かと思われますが……」

 しっかりと自分の腹の上で両手を組み、しゃきっと背筋を伸ばして意見を述べるリスティアナは美しく、ヴィルジールはぼうっ、と見惚れながら「だが」と声を上げる。

「ナ、ナタリア嬢がどうしてもリスティアナも同席して欲しい、と……。私と、その他の人間の前で態度を変えていないと言う姿をちゃんと確認したい、と……。も、勿論私はナタリア嬢をしっかりと説得したのだ……! リスティアナは人によって態度を変えるような人間では無いと話したのだが、どうしても納得してくれなくてな……。興奮すると、体に悪いので彼女の要求を飲むしかなかった……」
「──なんと、まぁ……」

 「情けない」と言う言葉を、リスティアナは既のところで何とか飲み込むと、口を噤む。
 王族に対して大変不敬な物言いをしてしまう所だった、とリスティアナがちらりとヴィルジールに視線を向けるが、ヴィルジール自身も慌てて学園にやって来てまだ事態が飲み込めていないのだろう。
 ほとほと参った、と言うような態度を隠し切れておらず、リスティアナが失言しそうになった事には全くもって気付いていない。

「──分かりましたわ。それでは、ナタリア嬢の元へ参ります」
「あ、ああすまない、ありがとうリスティアナ……!」

 ほっとしたように眉を下げて笑うヴィルジールに、リスティアナは再び真っ直ぐ前に視線を戻すと足を動かした。





「──ナタリア嬢、入るよ」

 コンコン、とノックをした後にヴィルジールが声を掛けて扉を開ける。
 開けられた扉の奥には、何台かベッドがありその内の一台にナタリアはくたり、と力無く横になっていた。

 リスティアナはくるり、と室内に視線を向けて医務室の一番奥にあるベッドのカーテンが閉まっている事に気が付くと不思議そうに首を傾げる。

「ん、? ああ、大丈夫だよリスティアナ。室内には我々しかいない」
「──あら、そうですのね?」

 リスティアナの反応に何が言いたいのか分かったのだろう。
 ヴィルジールがリスティアナの視線を追うと、リスティアナを安心させるように言葉を掛ける。

 長年、婚約者であった二人の無言の会話のような物に嫌な気持ちになったナタリアは、顔を歪めると「殿下!」と声を上げた。

「リスティアナ嬢にも来て頂いたのですから、早くお話を致しましょう……? お話が終わったら、王城の部屋に戻ってと良い、と医務室の先生から言われました、早く帰りましょう……?」
「あ、ああ。ナタリア嬢分かった、分かったからあまり興奮しないようにしてくれ。──リスティアナ、申し訳ないがこちらに来てくれ」
「ええ……分かりましたわ殿下……」

 リスティアナは、こっそりと二人に気付かれない程度に溜息を吐き出すとナタリアとヴィルジールの向かいに用意された椅子に向かって足を踏み出した。
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