【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船

文字の大きさ
上 下
10 / 78

10

しおりを挟む

 突然泣き始めてしまったナタリアに、リスティアナが困り果てていると、この騒ぎを聞き付けてやってきたのだろう。

 急いでこの学園の教師がやって来た。

「──ナタリア・マロー嬢……! 座り込んではいけませんよ、立って下さい……!」
「う……っ、うぅ……っ」

 大慌てで地面に座り込んでしまっているナタリアに手を貸し、即座に立たせる教師に、コリーナは怒りを滲ませた声音で声を掛けた。

「ヒューイット先生、このご令嬢にキツく注意をしておいて下さいますか。ご令嬢は、私達──いえ、リスティアナ嬢にこの噴水の中に入り、書類を取りに行け、と仰ったのですわ。由緒あるメイブルム侯爵家の人間に、風邪を引いてでも取りにいけ、と」

 コリーナの言葉に、ヒューイットは驚き息を飲むと、やんわりとナタリアに向かって唇を開いた。

「──ナタリア・マロー嬢。噴水の水は冷たく、体が凍えてしまうのです。それを女性であるご令嬢に、しかも……その、高位貴族であるリスティアナ嬢にそのお願いをすると言うのはいただけません」
「な、何でですか……っ、だって殿下は色々な人に手助けをしてもらいなさい、って仰ってました、リスティアナ嬢はとてとお優しいとお聞きしたので、お願いしたのです、それなのにすげなく断られ……っ、私がどれ程悲しく、怖かったか……っ」

 ナタリアは声を震わせ咽び泣く。
 ナタリアの声はとても大きく、庭園に集まっている学園生達の耳にも入ってしまっており、高位貴族である人間がそのような事をする筈が無い、と学園生達は承知ではあるが、咽び泣くナタリアに同情する者も中にはいるのだろう。
 可哀想に、と言うような視線をナタリアへ向ける者も中には居る。

 手を貸してくれるヒューイットにナタリアは縋り付くと、ぐすぐすと鼻を啜りながら涙を拭い、怯えるような視線をリスティアナへと向けた。

 そのナタリアの態度に、何も悪い事はしていないにも関わらずその場の雰囲気でリスティアナ達四人がナタリア一人を取り囲み、悪態を着いていると言うような雰囲気に飲み込まれてしまう前に、リスティアナは唇を開いた。

「──ナタリア嬢。そもそも、噴水に飛んでしまった書類を誰かに中にまで入って取って来るように頼む事その物が間違っているのです。ヒューイット先生が仰ったように、我々は女性です。男性と違い、体力も、筋力も無い我々が噴水に入る事がそもそも大変ですし、水の抵抗と着込んでいる服で中々足を進める事が出来ませんわ。始めから男性か、教師を呼ぶなりなさいなさい」

 リスティアナの言葉は最もだ。
 その証拠に、ナタリアに手を貸していたヒューイットや、近場に居る学園生達もうんうんと頷いている。

 だが、それでも尚ナタリアは納得が行かないのだろう。
 涙で濡れた瞳を悲壮感に滲ませて、尚も果敢にリスティアナに向かって震える唇を開いた。

「そ、それならば……っ、そう始めから助言をして頂ければ良かったのですっ。その後に、リスティアナ嬢達が誰かを呼びに行って下されば良かったのに──っ!」
「……なっ、」

 呆れて開いた口が塞がらない、とは正にこの事か。
 リスティアナはナタリアの言葉に呆れ果て、これ以上の会話は諦めた。

 このような令嬢を選んだヴィルジールに愛想も尽きる。
 会話が成り立たぬ人間と、どうやって愛情を育んだのだろうか、とリスティアナは王族に対してとても失礼な事を考えるが、遠くに気をやっていたリスティアナの耳に、ヒューイットの焦ったような声が入り込んだ。

「ナ、ナタリア嬢……っ、気を確かに! 興奮しては体に悪いっ」
「え、何事ですの……?」

 リスティアナとコリーナがそちらの方向へ視線を向けると、興奮していたナタリアの体がふらり、と傾きその場にへたり込んだ。

「リ、リスティアナ嬢、コリーナ嬢! 申し訳ございませんがここで失礼致します……!」
「え、ええ……。分かりましたわ……」

 くたり、と体から力が抜けたナタリアの体を支えてヒューイットが医務室に向かう後ろ姿を、呆気にとられながらリスティアナ達は見送った。



「と、とんだ災難ですわ……」

 呆然とナタリアとヒューイットが去って行く後ろ姿を見詰めながら、コリーナがぼそり、と呟く。
 コリーナの言葉に同意なのだろう、アイリーンとティファも「全くですわ」と声を揃えて言葉を返している。

「あ、あのような……言葉は悪いですが、難癖? と言うのでしょうか……、あのような難癖を付けられて、授業の邪魔をされ……。リスティアナ、貴女大変ね……」
「え、ええ……。何だか私のせいで巻き込んでしまって申し訳ないわ……。コリーナ、アイリーン嬢、ティファ嬢、ごめんなさいね?」

 困ったように眉を下げるリスティアナに、コリーナは「気にしていないわ」と言い、アイリーンとティファは「とんでもございませんわ!」と両手と首をぶんぶかと振る姿に、リスティアナはついついふふ、と笑ってしまった。




 そして、ナタリアとの一件があった少し後。
 午前の授業の最中に「それ」は起こった。

「──リスティアナ、ちょっと話を聞きたい事があってね。少しいいだろうか」
「──殿下、?」

 リスティアナが授業を受けている教室に、ヴィルジールが姿を表し、緊張した面持ちでリスティアナを呼び出して医務室へと連れて行った。
しおりを挟む
感想 236

あなたにおすすめの小説

【完結】最初から私のことを邪魔者扱いしていましたよね? それなら婚約破棄は喜ぶべきことではありませんか?

かとるり
恋愛
ザイオンは婚約したその日のうちにシェリーに伝えた。 不本意な婚約であること、そして憧れの女性について。 シェリーはいつか必ず婚約破棄すると誓った。

【完結】恋は、終わったのです

楽歩
恋愛
幼い頃に決められた婚約者、セオドアと共に歩む未来。それは決定事項だった。しかし、いつしか冷たい現実が訪れ、彼の隣には別の令嬢の笑顔が輝くようになる。 今のような関係になったのは、いつからだったのだろう。 『分からないだろうな、お前のようなでかくて、エマのように可愛げのない女には』 身長を追い越してしまった時からだろうか。  それとも、特進クラスに私だけが入った時だろうか。 あるいは――あの子に出会った時からだろうか。 ――それでも、リディアは平然を装い続ける。胸に秘めた思いを隠しながら。

【完結】愛されることがないのは理解できましたが、最愛の人として紹介された存在が見えないのですが?

かとるり
恋愛
「リリアン、お前を愛することはない」 婚約が決まったばかりだというのに、ハーシェル王子は公爵令嬢リリアンにそう告げた。 リリアンはハーシェル王子の考えを受け入れたが、数日後、ハーシェル王子は驚くべき事を言い出したのだ。 「リリアン、紹介したい者がいる。エルザだ」 ハーシェル王子の視線は誰もいないはずの空間に向けられていた。 少なくともリリアンには誰かがいるようには見えなかった。

手放したくない理由

ねむたん
恋愛
公爵令嬢エリスと王太子アドリアンの婚約は、互いに「務め」として受け入れたものだった。貴族として、国のために結ばれる。 しかし、王太子が何かと幼馴染のレイナを優先し、社交界でも「王太子妃にふさわしいのは彼女では?」と囁かれる中、エリスは淡々と「それならば、私は不要では?」と考える。そして、自ら婚約解消を申し出る。 話し合いの場で、王妃が「辛い思いをさせてしまってごめんなさいね」と声をかけるが、エリスは本当にまったく辛くなかったため、きょとんとする。その様子を見た周囲は困惑し、 「……王太子への愛は芽生えていなかったのですか?」 と問うが、エリスは「愛?」と首を傾げる。 同時に、婚約解消に動揺したアドリアンにも、側近たちが「殿下はレイナ嬢に恋をしていたのでは?」と問いかける。しかし、彼もまた「恋……?」と首を傾げる。 大人たちは、その光景を見て、教育の偏りを大いに後悔することになる。

【完結】騙された? 貴方の仰る通りにしただけですが

ユユ
恋愛
10歳の時に婚約した彼は 今 更私に婚約破棄を告げる。 ふ〜ん。 いいわ。破棄ね。 喜んで破棄を受け入れる令嬢は 本来の姿を取り戻す。 * 作り話です。 * 完結済みの作品を一話ずつ掲載します。 * 暇つぶしにどうぞ。

最愛の人は私のことは愛していない

haruno
恋愛
婚約すれば幸せになれるのだと思っていた。 しかしそれは間違いだった。 愛する人は私を嫌い、婚約は失敗だったと告げた。

【完結】断罪された悪役令嬢は、全てを捨てる事にした

miniko
恋愛
悪役令嬢に生まれ変わったのだと気付いた時、私は既に王太子の婚約者になった後だった。 婚約回避は手遅れだったが、思いの外、彼と円満な関係を築く。 (ゲーム通りになるとは限らないのかも) ・・・とか思ってたら、学園入学後に状況は激変。 周囲に疎まれる様になり、まんまと卒業パーティーで断罪&婚約破棄のテンプレ展開。 馬鹿馬鹿しい。こんな国、こっちから捨ててやろう。 冤罪を晴らして、意気揚々と単身で出国しようとするのだが、ある人物に捕まって・・・。 強制力と言う名の運命に翻弄される私は、幸せになれるのか!? ※感想欄はネタバレあり/なし の振り分けをしていません。本編より先にお読みになる場合はご注意ください。

婚約破棄を望むなら〜私の愛した人はあなたじゃありません〜

みおな
恋愛
 王家主催のパーティーにて、私の婚約者がやらかした。 「お前との婚約を破棄する!!」  私はこの馬鹿何言っているんだと思いながらも、婚約破棄を受け入れてやった。  だって、私は何ひとつ困らない。 困るのは目の前でふんぞり返っている元婚約者なのだから。

処理中です...