【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船

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 リスティアナの父親──オースティン・メイブルムは深く溜息を吐き出した後、ヴィルジールが出て行った部屋の扉を憎々しげに睨み付けた。

「──模擬戦闘訓練に行っていたと言うのに、なんと言う事を……」

 呆れて物も言えない、といったように緩く首を振るとオースティンは自分の目元を手のひらで覆った。

 ヴィルジールが話した通り、模擬戦闘訓練の場で怪我人の手当を行う医療班として参加していた貴族の令嬢と懇意になり、体の関係を持ったと言うのであれば何と愚かな事だろうか。

 オースティンは部屋の扉の側に控えていた執事に調べ物を頼む為に声を掛けた。





 リスティアナがヴィルジールに婚約の解消を申し出られて二日後。
 学園へ向かったリスティアナを見送った後、父親であるオースティンは先日執事に頼んだ調べ物の報告書に目を通していた。

「──殿下のお相手の令嬢は、リスティアナと同じ学園の生徒なのか……!?」

 オースティンは報告書に記載されている文字を急いで追って行く。

 ヴィルジールが妊娠させてしまった令嬢は、リスティアナと同じ貴族学園に通う令嬢で、名前はナタリア・マロー。マロー子爵家の令嬢で、年齢はヴィルジールの一つ下、リスティアナの一つ上の十八歳と言う事だった。
 学園の卒業試験──資格を取る為に医療班として模擬戦闘訓練に参加し、そこで怪我を負ったヴィルジールを手当てする事で何度も顔を合わせる内に、と言う事らしかった。

 平和な日常に慣れていた人間が、戦闘訓練で非日常の世界に放り出され、極限の生活の中でお互いに気持ちが芽生えてしまったのだろう。

「──いや、本当に芽生えたのか……」

 オースティンはぽつり、と呟いた自分の言葉に不安になりリスティアナが署名をした婚約解消の書類を取り出すと、急いでその書類を完成させる為に侯爵家当主である自分の名前も署名する。

「これを、ヴィルジール殿下宛に急ぎ届けてくれ」
「かしこまりました、旦那様」

 執務室に控えていた執事に書き上げた書類を渡すと、婚約解消の手続きを早めてしまった方が良いだろうとオースティンは考える。

「──一時の感情の昂りで婚約者が居ながら他の女性に手を出す者には、娘を幸せになど出来ん……。殿下が正気に戻る前に手続きを済ませねば……」

 ぽつりと呟いたオースティンの言葉は、誰も居ない執務室に静かに響いた。







 時は少しだけ戻り、リスティアナが学園に到着して馬車から降りた時。

 リスティアナは、沈む気持ちを何とか自分の中で折り合いを付けて学園へと登園していた。
 学園が休みの二日間、あれだけ涙を流したのだ。ヴィルジールへの想いも、涙と共に流して少し心の中がスッキリとしている。

 いつものように学園の建物内へと進んでいたリスティアナは、後方からざわり、と人々のざわめく気配を感じてついつい無意識に振り向いてしまった。

「──……っ、」

 振り向いた先に、目にした光景にリスティアナはひゅっ、と息を飲み込む。

 リスティアナの視線の先にいるこの学園の生徒達は、何故? と言うような戸惑いや困惑の籠った視線でその光景を見て、そしてリスティアナの姿を見付けると気まずげに視線を向けて来たり、好奇の目で見て来たりと、視線に遠慮が無い。

 リスティアナの視線の先では、王家の紋章が付いた豪奢な馬車から、ヴィルジールが姿を表し、次いで馬車から姿を表した令嬢に慈しむような視線を向けて手を差し出している。

 王太子であるヴィルジールの婚約者であるメイブルム侯爵家のリスティアナは、顔立ちの美しさや家柄の良さでとても目立つ存在である。
 婚約者のヴィルジールとも関係は良好であった為、貴族の子息や令嬢からは羨ましそうに、憧れの視線を向けられていた。

 だが、それが今。
 リスティアナに向けられる視線は困惑や、戸惑い、そして好奇の視線に変化しており、リスティアナはその視線に晒され続ける事が耐えられなくなり、踵を返すと急いで学園の建物の中へと入って行った。
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