【完結】龍神の生贄

高瀬船

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二十一話

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 鷲宮、と名乗った女性は緋色を部屋の奥に案内する。
 尋も緋色の後に着いて行き、緋色の霊力確認を自分の目で確認するつもりだ。
 芙蓉と菖蒲は三人から少し離れた場所で待機しており、壁際に避けている。

 部屋の奥に行くと、鷲宮の腰辺り程の高さにある箪笥を開けて、鷲宮は箪笥の中から今回に必要な道具なのだろうか、いくつかの道具を取り出した。

「緋色様。先ずは緋色様が三種の内、どの霊力が備わっているか、確認致しましょう。三種の霊力についてはご当主様にお聞きになりましたか?」
「は、はい……! 尋さまに教えて頂きました」

 こくり、と頷く緋色に鷲宮は笑顔で頷く。

「それはようございます。では、早速こちらを握って下さいませ。攻の霊力であればこの小刀が光を放ちます」
「分かりました、……」

 すっ、と差し出された短い小刀。
 装飾も最低限の、何の変哲もない小刀だ。
 それを鷲宮から両手で受け取り、緋色は両手で握り締める。
 緋色が小刀を握り締めて数十秒。
 何も変化が起きない事に、緋色は気まずそうに鷲宮に視線を向けた。

「──ふむ……。緋色様は攻の霊力では無いようですね……。では次はこちらを……」
「は、はいっ」

 鷲宮は緋色が握っていた小刀を受け取り、今度は美しい装飾が施された手鏡を取り出して緋色に渡す。
 装飾が美しく、そちらに目を奪われていた緋色だったが、鏡が嵌め込まれているであろう場所を見て驚きに目を見開く。

 緋色が驚いた事に気付いたのだろう。
 鷲宮は「ああ」と声を出して緋色に言葉を掛けた。

「この手鏡は霊力を感知するための道具です。手鏡としての使用を必要としておりませんので、鏡は嵌め込んでおりません」
「そ、そうなのですね……」

 鷲宮の説明になるほど、と納得した緋色は受け取った手鏡を両手で持ち、じっとその鏡に触れたまま待ち続ける。
 だが、先程の小刀の時と同じように緋色の手の中の手鏡は何の反応も示さず、鷲宮は首を捻った。

「多少なりとも反応しない、とは……珍しいですね。ご当主様も攻の小刀に大きく反応が出ましたが、守の手鏡も薄ら反応を認めました……。通常は複数に反応を示す事が多いのですが……」
「……残るのは呪、だけか。緋色は呪の霊力の特化型と言う事か?」

 様子を見ていた尋が、緋色の背後からひょい、と手鏡を覗き込むようにして反応を確認した後に鷲宮に話し掛ける。

「……やっぱり、何の反応も無い状態、なのですね……」

 二人の会話に緋色がしゅん、と肩を縮こませる。
 すると慌てた尋が緋色を励ますように声を掛けた。

「大丈夫だ、緋色。珍しい事では無い。呪の特化型なのであれば、攻守に何の反応も示さないと言う事は大いに有り得る事だからな……!」
(だが、緋色が呪の霊力とは……緋色の印象と全く結びつかないな……)

 呪とは特殊な種類だ。
 使い方を間違えば、自身の身すら滅ぼす可能性がある特殊な霊力。
 他者も、自身も滅びてしまう可能性を持つ霊力であるのだが、その呪の霊力を緋色が持っているとは、と意外に感じてしまう。

「では……確認用に呪もやっておきましょうか、緋色様。こちらを両手で握って下さい」
「──は、はい!」

 鷲宮が持ち上げたのは数珠だ。
 不思議な色味を帯びた数珠が連なり、緋色の腰辺りまでの長さを持っている。
 落とさないように気をつけなければ、と緋色は慎重に数珠を受け取り、両手で握る。



 だが──。

「──え、」
「これも、か……?」

 信じられない、と言った緋色と尋の呟く声が部屋にぽつりと落ちる。

 攻と、守の霊力を確認した時と同じく、呪の確認用の数珠も緋色の手の中では全くの無反応で。
 緋色は最後の一つである呪の霊力ですら無反応な事に顔色を真っ青にしてしまう。

 緋色はやはり、名無しの自分なんかには霊力が無いのでは、と後ろ向きな考えが頭の中に浮かんで来るが、この反応を見た後でも尋は不思議そうにするだけで。

「……これにも無反応、となると……緋色の霊力は三種には対応していない、と言う事か? 今まで似たような事例はあったか?」

 気にするな、と言うように尋は緋色の肩をぽんと叩いてやった後に鷲宮に問い掛ける。
 尋の問いに、鷲宮は自分の顎に指をあてて少しだけ考える素振りを見せた。

「──いえ。今まで攻・守・呪この三種類以外の種類は確認された事がありませんね……」
「そうか。ならば緋色が初の三種以外の霊力を持つ人間、と言う事か?」
「恐らく……」

 緋色は、当たり前のように三種以外の力があると言う事で話を進める尋と鷲宮に驚く。
 普通であれば、三種の道具に全く反応が無かったのだから緋色にはやはり霊力など無いと思ってしまっても無理は無い。
 だが、尋は元より鷲宮もそうとは思っていないようで。
 当たり前のように緋色には霊力があると言う前提で話を進めている。

「緋色の霊力は特殊だろう? 漏れ出ている霊力が何か不思議な感覚だ」
「はい。ご当主様の仰る通りだと思います。もしかしたら緋色様は無意識の内にご自身の霊力を抑え込むようにしてしまっているのかもしれませんね」
「無意識、か──……」

 ふ、と尋は鷲宮との話の途中で緋色に視線を移す。
 緋色の不安そうな表情を見て、尋は目尻を下げて安心させるように微笑んだ。

「心配しなくても大丈夫だ、緋色。緋色の霊力はこの部屋に入った時から鮮明に感じ取る事が出来る。霊力無し、なんかじゃあない」
「……っ、ありがとうござい、ます……」

 緋色の不安を払拭するように優しく言葉を掛けてくれる尋に、緋色はぐっと唇を噛み締める。
 けれど、霊力があるのに道具が反応しない、と言う謎はまだ残る。

 そこで鷲宮は「そうだ」と声を出して箪笥からごそごそと何かを取り出した。

「霊力が無い、とご不安でしたら……。緋色様、一度ご自身の霊力の大きさをご自身で確認されると良いかもしれませんね」
「ああ、確かに」
「確認、が出来るのですか?」

 緋色の不安そうな問い掛けに、鷲宮は微笑んで頷く。
 そして、箪笥から取り出した丸く、透明な玉のような物を片手で持ち上げて見せた。

「こちらの道具は、その人物の霊力に反応して光る仕組みとなっております。私が実際に霊力を込めてみますので、ご覧下さい」

 鷲宮はその玉を片手に持ったまま、瞼を伏せて無言になる。
 霊力を込める、と言うのはどうやるのだろうと緋色が考えていると。

 鷲宮の手の中にあった透明の玉が急に眩い程の光を発生させて輝いた。

「──……っ!」

 あまりの眩しさに緋色は自分の手で目元を隠す。
 ちかちか、と瞼の裏で星が瞬いているような不思議な感覚がして。その感覚が落ち着いてきた頃、眩く発行していた玉の光も落ち着いたようだ。

「も、申し訳ございません緋色様。驚かせてしまいましたね……。この道具は、持った人間の霊力に反応して光ります。霊力を込めれば、このように強く発行致します。緋色様は恐らく、持つだけで玉が光りますからどうぞお試し下さい」
「そ、そうなのですね……」

 鷲宮の説明に、緋色は目を白黒させながらそれでも差し出された玉をそっと両手で受け取った。

 つるり、とした無機質な透明な玉。
 冷たくもなく、暖かくもない。
 不思議な感覚に緋色がきゅう、と玉を握った瞬間──。



 ──パンッ
 と高い衝撃音が部屋に響き、緋色の手の中にあった玉が粉々に破裂した。
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