【完結】龍神の生贄

高瀬船

文字の大きさ
上 下
17 / 64

十七話

しおりを挟む

 かくりよの里を出て、一日。
 帝都までの道のりをどう向かうのだろうと緋色が考えていると尋は「鉄道で向かうぞ」と説明してくれた。

 緋色の住んでいたかくりよの里は閉ざされた里だ。
 里長や、朱音程の地位を持つ者であれば里の外に出る機会もあるが里で生まれ育った人間は外界を殆ど知らない。
 女性であれば、外の家に必要とされれば嫁いで行く事もあるが殆どの人間が里の中で一生を終える。
 だから里の者達は今、どれだけ文明が進んでいるのかははっきりと分かっていない。
 里で名無しとして過ごしていた緋色も例に漏れず、外の世界はこの時初めて見た。



 ガタガタと揺れる汽車に乗りながら、緋色は窓から身を乗り出す。

「──おい、緋色。あまり乗り出さないように。落ちるぞ」
「す、すみません籘原様……っ。初めて見る物ばかりで楽しくて……」

 危ないから中に戻りなさい、と言う尋の言葉に従い、緋色が自分の席にしっかりと腰を落ち着かせると尋は呆れたように笑う。

「寝台列車も初めてだもんな……。帝都に到着すれば、緋色は初めて見る物だらけで言葉を失うかもしれん」
「今から到着するのがとっても楽しみです……!」
「だが、あまりはしゃぎ過ぎて本当に落ちるなよ……この汽車は通常の汽車と速度が桁違いだ。落ちたら一巻の終わりだからな……」
「──あ、この汽車って妖怪、が動かしているのでしたっけ?」
「正しくは違うんだけどな……まあ、でも妖怪の妖力を利用して速度を出しているから妖怪が動かしているのと大差無いか……」
「凄い……人間に協力的な妖怪もいるのですね……」
「俺の部下の芙蓉と菖蒲も妖怪だしな?」
「あっ、そうでした……! 確かにあのお二人も本当は妖怪なのですものね……」

 人間と遜色無い二人のため、緋色は芙蓉と菖蒲が妖怪だと言う事をすっかり失念してしまっていた。
 常に人型を保っているし、髪の色は白蛇と紫蛇のため本来の姿と同じ不思議な髪色をしているが、それ以外は人と殆ど同じだ。

「里では……妖怪は絶対悪だと聞いていたので……不思議な気分です……」
「妖怪にも色々な種類が居るからな……。比較的妖怪は人間に協力的な奴が多い。危険なのは……言葉が通じない魔獣や、人間を餌として見ている妖魔だな」

 それ以外も、もっと気を付けるべき存在はいるが、と尋は言葉を濁す。
 今尋が上げた種類以外にもいるのだろうか、と緋色はじっと尋を見詰めるが笑って誤魔化されてしまう。

「まあ……それは追々、な……。一先ず帝都の籘原邸に到着したら緋色の霊力の種類、を確認しよう。どんな力があって、緋色にはどんな事が出来るのか……自分の力をしっかりと把握するのが大事だ」
「分かり、ました……。何だか未だに信じられません……。今まで全く霊力が無い、と言われていたのに……」
「分かりにくいかもしれないが、緋色の体からは確かに霊力が漏れ出ている。力ある人間であれば緋色の霊力が察知出来ると思うんだがなぁ……。芙蓉や菖蒲も分かりにくい、と言っていたし緋色の力は他者には感じ取りにくいのかもしれんな」

 尋の言葉を聞いて、緋色は自分の手のひらを見詰める。

 霊力が無いからと里ではずっと「名無し」として生きて来た。
 それなのに、実際は霊力がある、と言われて混乱してしまうのも無理は無い。
 尋から霊力があると言われはしたものの、緋色には自分の霊力を感じ取る事が出来ず、半信半疑だ。

「霊力にも種類? のような物があるのですね……。初めて知りました」
「ああ。基本的には攻守・そして呪の三種類だな」

 ガタガタと揺れる汽車の中、尋は霊力の事を全く知らない緋色にも分かりやすく説明をしてくれる。

 霊力には攻・守・呪と言う三種類があり、「攻」は字の通り攻撃に適した霊力だ。

「俺や、芙蓉がそうだな……。俺は自分の霊力を短刀に纏わせて飛ばしたり、刀に纏わせて相手を斬ったりする。芙蓉は自分自身を霊力で纏い、身体能力を底上げしている」
「……! 色々な戦い方、があるのですね……」
「ああ。人の数だけ使い方はあると思った方がいい」

 そして、次に説明してくれたのは「守」。
 こちらも字の通り、守備や守りに特化した霊力だ。

「守の霊力は……そうだな……結界を張り、自分の身を守ったり特定の場所を守ったり。あとは相手の攻撃を防ぐ事も出来るな」
「何だか、守の霊力はとても強いような気がします……」
「強力な物を使用するのは霊力を大幅に使う。無敵、と言う訳じゃない」

 そして、最後に「呪」の霊力。

「これは……少し特殊でな……。呪は菖蒲も使う。特定の相手を呪ったり……罠を仕掛けたりする事が出来る。……かくりよの里で、緋色は土砂崩れに合っただろう? あれは門真朱音の呪の力だ」
「──っ、災害まで……意のままに出来ると言う事ですか……っ」
「ある種の呪は使い過ぎれば自身の体を蝕む。自分の霊力をしっかり把握しておかなければ破滅する危険性がある力だ」
「──……っ」

 緋色は尋の説明にごくりと喉を鳴らして再び自分の手のひらを見詰める。

 自分にはいったいどんな霊力が宿っているのか。
 しっかりと自分の力を把握しないとこの先大変な事になりそうだ。

「緋色。そんなに深刻に構えなくて大丈夫だ。籘原は霊力の扱いに秀でた家。しっかり緋色の霊力を調べて安定させるから安心してくれ」
「──っ、ありがとうございます……! よろしくお願いします!」

 尋の言葉に緋色は深々と頭を下げてお礼を述べる。

 東北の地から、帝都まであと二十時間掛からず到着するだろう。
 尋は窓の外を流れる景色に視線を移した。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

継母ですが、娘を立派な公主に育てます~後宮の事件はご内密に~

絹乃
キャラ文芸
母である皇后を喪った4歳の蒼海(ツァンハイ)皇女。未来視のできる皇女の養育者は見つからない。妃嬪の一人である玲華(リンホア)は皇女の継母となることを誓う。しかし玲華の兄が不穏な動きをする。そして玲華の元にやって来たのは、侍女に扮した麗しの青年、凌星(リンシー)だった。凌星は皇子であり、未来を語る蒼海の監視と玲華の兄の様子を探るために派遣された。玲華が得意の側寫術(プロファイリング)を駆使し、娘や凌星と共に兄の陰謀を阻止する継母後宮ミステリー。※表紙は、てんぱる様のフリー素材をお借りしています。

捨てられ更衣は、皇国の守護神様の花嫁。 〜毎日モフモフ生活は幸せです!〜

伊桜らな
キャラ文芸
皇国の皇帝に嫁いだ身分の低い妃・更衣の咲良(さよ)は、生まれつき耳の聞こえない姫だったがそれを隠して後宮入りしたため大人しくつまらない妃と言われていた。帝のお渡りもなく、このまま寂しく暮らしていくのだと思っていた咲良だったが皇国四神の一人・守護神である西の領主の元へ下賜されることになる。  下賜される当日、迎えにきたのは領主代理人だったがなぜかもふもふの白い虎だった。

私の家族はハイスペックです! 落ちこぼれ転生末姫ですが溺愛されつつ世界救っちゃいます!

りーさん
ファンタジー
 ある日、突然生まれ変わっていた。理由はわからないけど、私は末っ子のお姫さまになったらしい。 でも、このお姫さま、なんか放置気味!?と思っていたら、お兄さんやお姉さん、お父さんやお母さんのスペックが高すぎるのが原因みたい。 こうなったら、こうなったでがんばる!放置されてるんなら、なにしてもいいよね! のんびりマイペースをモットーに、私は好きに生きようと思ったんだけど、実は私は、重要な使命で転生していて、それを遂行するために神器までもらってしまいました!でも、私は私で楽しく暮らしたいと思います!

雇われ側妃は邪魔者のいなくなった後宮で高らかに笑う

ちゃっぷ
キャラ文芸
多少嫁ぎ遅れてはいるものの、宰相をしている父親のもとで平和に暮らしていた女性。 煌(ファン)国の皇帝は大変な女好きで、政治は宰相と皇弟に丸投げして後宮に入り浸り、お気に入りの側妃/上級妃たちに囲まれて過ごしていたが……彼女には関係ないこと。 そう思っていたのに父親から「皇帝に上級妃を排除したいと相談された。お前に後宮に入って邪魔者を排除してもらいたい」と頼まれる。 彼女は『上級妃を排除した後の後宮を自分にくれること』を条件に、雇われ側妃として後宮に入る。 そして、皇帝から自分を楽しませる女/遊姫(ヨウチェン)という名を与えられる。 しかし突然上級妃として後宮に入る遊姫のことを上級妃たちが良く思うはずもなく、彼女に幼稚な嫌がらせをしてきた。 自分を害する人間が大嫌いで、やられたらやり返す主義の遊姫は……必ず邪魔者を惨めに、後宮から追放することを決意する。

伊賀忍者に転生して、親孝行する。

風猫(ふーにゃん)
キャラ文芸
 俺、朝霧疾風(ハヤテ)は、事故で亡くなった両親の通夜の晩、旧家の実家にある古い祠の前で、曽祖父の声を聞いた。親孝行をしたかったという俺の願いを叶えるために、戦国時代へ転移させてくれるという。そこには、亡くなった両親が待っていると。果たして、親孝行をしたいという願いは叶うのだろうか。  戦国時代の風習と文化を紐解きながら、歴史上の人物との邂逅もあります。

絶世の美女の侍女になりました。

秋月一花
キャラ文芸
 十三歳の朱亞(シュア)は、自分を育ててくれた祖父が亡くなったことをきっかけに住んでいた村から旅に出た。  旅の道中、皇帝陛下が美女を後宮に招くために港町に向かっていることを知った朱亞は、好奇心を抑えられず一目見てみたいと港町へ目的地を決めた。  山の中を歩いていると、雨の匂いを感じ取り近くにあった山小屋で雨宿りをすることにした。山小屋で雨が止むのを待っていると、ふと人の声が聞こえてびしょ濡れになってしまった女性を招き入れる。  女性の名は桜綾(ヨウリン)。彼女こそが、皇帝陛下が自ら迎えに行った絶世の美女であった。  しかし、彼女は後宮に行きたくない様子。  ところが皇帝陛下が山小屋で彼女を見つけてしまい、一緒にいた朱亞まで巻き込まれる形で後宮に向かうことになった。  後宮で知っている人がいないから、朱亞を侍女にしたいという願いを皇帝陛下は承諾してしまい、朱亞も桜綾の侍女として後宮で暮らすことになってしまった。  祖父からの教えをきっちりと受け継いでいる朱亞と、絶世の美女である桜綾が後宮でいろいろなことを解決したりする物語。

処理中です...