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1巻
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◇◆◇
婚約の破棄を宣言されてしまった。
両家で話し合い、対応を考える前に、一方的に。
ベスタの根回しのせいで、自分はブレスレットなど盗んでいないといくら訴えた所で、全校生徒がミリアベルが犯人なのだと思っているのは覆せない。
まして、自分は昨日教師等に告げずに早退してしまったのだ。
勝手に学院を出てしまったので公的機関に証拠として出せるだけの情報がない。
御者が証言してくれても、彼はフィオネスタ伯爵家の人間なので有効ではないだろう。
そして、争う場合、相手はアランドワ侯爵家である。
決定的な証拠がない場合、貴族社会では言ったもの勝ちとなってしまうため、高位貴族の方が強い。
物的証拠を用意できないフィオネスタ伯爵家は、泣き寝入りするしかないだろう。
「悔しい……っ、どうして……っ」
ミリアベルはうつむき、ぎゅうっと自分の唇を噛み締める。
婚約は個人の問題ではない。お互いの家が関わる大事な契約だ。
それを一方的に反故にして、そして大勢の前で相手に冤罪を吹っ掛けて辱める行為が許されるのだろうか。
ミリアベルは拳を握り締めると、伯爵家の馬車に再び乗り込み、伯爵邸に戻った。
ごとごとと揺れる馬車の中で、ミリアベルはこの先に起こり得る事柄について考えをまとめる。
……ベスタ様はきっと私が犯罪を行った、とフィオネスタ伯爵家を糾弾するつもりだわ。
そして、そのような家の者とは結婚できないと婚約破棄を改めて宣言するでしょう。
その主張が通ってしまったら、賠償金を支払う破目になるし、伯爵家に迷惑を掛けてしまう。
どうにか冤罪を晴らせないかしら……
考えに耽っている内に伯爵邸に到着していたようで、ミリアベルは馬車から降りた。
この時間帯であれば、父は書斎で仕事をしているだろう。
このような時間に戻って来たミリアベルに驚く使用人たちに早退した事を伝えつつ、書斎へ向かう。
「──お父様」
こんこん、とノックをして父親に声をかけた。
こんな時間にミリアベルがいる事を疑問に思ったのだろう、少し間を空けて父親の声が聞こえた。
「……入りなさい」
「失礼いたします」
扉を開け、入室するとミリアベルの父親であるリバード・フィオネスタが執務机に向かっていた。
「こんな時間にどうしたんだ? ミリアベル。まだ学院にいる時間だろうに……」
リバードは訝しげな顔で立ち上がり、ミリアベルをソファに促す。
「お父様……。急ぎご報告しなければならない事がございます。そのために勝手ながら学院を早退して戻って参りました」
「……ひとまず聞こうか」
二人は室内のソファに向かい合せに腰を下ろした。
すっと息を吸い、ミリアベルは先ほどの件の説明を始めた。
「本日、ベスタ・アランドワ様から私との婚約を破棄する、と宣言されました」
「──は?」
リバードはぽかん、と口を開けて呆気に取られたかのような声を出した。
「ちょ、ちょっと待ちなさい……。何を突然……」
「そう、なのです……。本当に突然の事で。ベスタ様は他に想う女性がいらっしゃいまして、その方の持ち物を昨日私が盗んだのだ、と仰いました。否定したのですが、中々ご納得いただけず……」
リバードは眉間を揉み込むようにして親指でぐりぐりと刺激する。
リバードの様子から、ベスタの話はフィオネスタ伯爵家に正式な知らせとして告げられていない、完全にベスタの暴走である事がわかる。
「……わかった。アランドワ侯爵家に確認しよう。私が対応するから、安心しなさい」
「ありがとうございます、お父様……!」
ミリアベルはほっと安堵の息を吐き出すと、お礼を言って書斎を後にした。
そっと扉に背中を預け、自分の胸元に手をやる。
制服の胸ポケットには、ベスタからもらったリボンが入ったままだ。
リボンを取り出し、きゅうっと握り締める。
数秒後、ぱっと顔を上げると自分の部屋に向かって歩き出した。
「学院を早退してしまったから、授業の復習をしなくては……!」
気持ちを切り替えるように、ミリアベルはあえて明るい声を出した。
自室に戻り、鞄から魔法学の教材を取り出す。
今は、勉強に集中したい。
何かをしていないと、先ほどベスタに向けられた冷たい視線や、蔑むような態度を思い出し、気持ちが沈みそうだ。
ミリアベルは教材の中から目当ての教材を見つけると、椅子に座りそれを開く。
魔法学は特殊な教科だ。理論を学んでも実践できるとは限らないため、実習に一日参加できなかった事が後々命取りとなるのだ。
魔法の仕組みや性質について基本的な事が記載されている教材を確認しながら、自分の手元に五つの元素魔法を順に呼び出す。
「やっぱり、火と水は適性があるけれど、他の雷、土、風は適性がないみたいね……」
交互に指先に小さい炎と水の玉を作り出して、ミリアベルはその魔力を霧散させる。
ごく稀に、幼少期に受けた属性の適性確認の後に新たに適性が目覚める事もあるらしいが、自分はそうではないようだ。
「風魔法が使えると、便利なのだけれど……」
生活する上で便利な事はもちろん、元素魔法の適性種類によって、就ける職種が変わる。
使用者が多い火と水以外の属性が備わっていれば、狭き門である王立魔道士団に入団する事も可能なのだ。
とはいえ属性を持っているだけではなく、難易度が高い三属性同時展開や、希少な光・聖魔法が使用できる事が入団条件なので、王立魔道士団はかなり少数のエリートで構成されている。
要人の警護や、魔物や魔獣の討伐が主な仕事内容で、魔法が使用できれば入る事が可能な魔法騎士団とは待遇も、権限も大きく異なる。
ミリアベルはそんな大それた所に入れるとは思っていないが、二属性同時展開が可能だった。
あと一つ同時に展開できればかなり優遇される仕事に就く事ができるのに、と落胆する。
二属性同時展開ですら制御するのが難しいのだ。あと一属性など、贅沢を言ってもどうしようもない。
仕方なく、教材の次のページを捲り真面目に勉学に励む。
しばらくして、ミリアベルは自分の手のひらから漏れ出る眩い光に驚き、か細い悲鳴を上げた。
部屋の中は閃光に照らされ、庭師が驚きで腰を抜かすほど明るく輝いていた。
「ひゃあっ! 何!?」
教材の通りに手順を守って魔法を発動しただけだったのに。
部屋を包んだ眩い光は、一瞬の後に消失した。
自分の身に何が起きたかわからず放心していると、慌ただしく近付いてくる足音が聞こえた。
「ミリアベル!? 何事だ!」
バタン! と派手な音を立てて、リバードを先頭に、母親と弟が駆け付けたのだ。
「お父様──私にも良くわからないのです。この教材の手順通りに魔法を発動してみたら、先ほどのような事になってしまって……」
リバードは目を白黒させているミリアベルに近付くと、開かれたままの教材に視線を落とす。そしてミリアベルが指差している箇所を目にした瞬間、驚きに後ずさった。
あなた? 父上? と妻と息子に声をかけられ、リバードは大丈夫だ、と言うように片手を上げると自分の額に手を突いて項垂れる。
先ほど、ミリアベルから婚約について話があったと思ったら、今度はこのようなありえない事態が起こるとは……
思考を必死に制御して、リバードはぽつりと呟いた。
「ひとまず……、陛下と聖教会に届出をしておこう……」
ミリアベルが開いていた教材のページには、「光・聖魔法」の説明が載っていた。
◇◆◇
翌日。
興奮冷めやらぬフィオネスタ伯爵家では、リバードが朝からバタバタと忙しく動いていた。
リバードは忙しなく使用人たちに指示を飛ばしながら外出の準備をしている。
国王との謁見に聖教会への訪問と、今日は慌ただしくなりそうである。
「今日の仕事は全てキャンセルを! あと、それからこの手紙を必ずアランドワ侯爵家に届けるように! 行ってくる!」
いつも落ち着いて朗らかなリバードがここまで慌てている姿は見た事がない。
ミリアベルは両手を見下ろしながら、まだ夢現の気分だ。
「姉様、まだ信じられないのですか? そんなに不思議そうに手のひらを見て」
「ラッセル……」
ミリアベルは四歳年下の弟に困ったように微笑むと「ええ、そうね」と呟いた。
「自分が治癒魔法を使えるなんて……何だか現実味がないわ……。それに、学院も休んでしまったし……」
「でも、昨日しっかりと見せてくださったじゃないですか。姉様は確かに治癒魔法の使い手ですよ! 学院は、父上も休みなさい、と仰っていたので大丈夫ですよ」
にこにこと嬉しそうなラッセルに、ミリアベルも笑いかける。
実際、昨日は何度か治癒魔法を発動した。
大きな怪我を負った者はいないので、料理中に怪我をしてしまった料理人を呼び出し、刃物でうっすらと傷付けてしまった傷跡に治癒魔法を発動した。
そうしたら、傷跡がすうっと消え、料理人も「ぴりぴりした痛みがなくなりました!」と声を上げて驚いていたのだ。
しかし、治癒魔法は外傷の他、肉体的な疲れや精神的な痛みも癒すと言われているが、それは昨日何度やっても成功しなかった。
肉体疲労だけでも癒せれば良かったのだが、力加減が難しく、上手くできなかった。
その件も含めて、父親は本日国王と、治癒魔法──光・聖魔法を管轄している聖教会本部に報告に行ったのだ。
ミリアベルは普通の元素魔法しか使えなかったはずだが、一体いつから光・聖魔法を使えるようになっていたのか。
治癒魔法が使えるようになれば、もしかしたら学院に在籍したまま、討伐について行く事もあるかもしれない。
魔物や魔獣は恐ろしいが、直接戦うのは騎士団や魔道士団に所属している人たちだ。
彼らが怪我をした際に、治癒魔法の使い手が彼らの傷を癒す。
恐怖心は拭えないものの、人の役に立てるのであれば喜んで参加しよう、とミリアベルは考えた。
リバードが戻って来たのはその日の昼過ぎであった。
だが、行きは一人であったリバードが帰りは誰かを伴っていた。
出迎えたミリアベルを始め、母親と弟はキョトンとした。
「こちらにいらっしゃるのはノルト・スティシアーノ卿だ。スティシアーノ公爵家のご嫡男で、この国の王立魔道士団の団長を務めていらっしゃる」
「初めまして。私はノルト・スティシアーノと申します。若輩ながら王立魔道士団の団長を務めさせていただいております。……本日は突然の訪問にもかかわらず、迎え入れてくださり感謝申し上げます。私が本日こちらに来たのは、ミリアベル嬢の光・聖魔法の途中覚醒が理由です」
目の前の男──ノルトが名乗り、にっこりと微笑む。
ミリアベルと母親のティシナはさぁっと血の気が引くのを感じた。
まさか公爵家の人間がやってくるとは思わず、もてなしの用意などまったくしていない。
「た、大変申し訳ございません……っスティシアーノ公爵家の方とは気付かず、ろくなお出迎えもせずに……っ」
「──ちょ、待ってくれ。頭なんて下げなくていい……! 突然の訪問に準備ができていないのは当たり前だ、驚かせてしまってこちらこそ申し訳ない」
困ったような笑みを浮かべるノルトは、王立魔道士団の濃紺と金色の飾りが入った団服をきっちりと着こなしている。金の髪が太陽の光に反射してキラキラと輝き、空の色を映したような瞳は澄んでおりとても美しい。
ミリアベルもティシナもぼうっと呆けてしまったが、慌てて邸内に案内した。
◇◆◇
ノルト・スティシアーノ。
筆頭公爵家の嫡男で、史上最年少で王立魔道士団の団長に就任し、要人警護よりも魔物や魔獣の討伐に力を注いでいる人物である。
建国から続く由緒あるスティシアーノ公爵家は、一族内で最大の魔力量を保有する者が後継となる決まりだ。
ノルトも生まれた時から膨大な魔力を有していて、幼少より魔法学を学び、魔力を制御する方法を当時この国で一番力のある魔法剣士に教わった。
幼い頃から自己研鑽を積んだお陰か、十五歳で三属性同時展開を成し遂げ、昨年二十一歳の時には五元素魔法を操る偉業を成し遂げている。
全ての元素魔法に目覚めた昨年、彼は過去誰も成し得た事がない四属性同時展開を成功させた。
その事は社交界でも大きな話題になり、ミリアベルも鮮明に覚えている。
見目麗しく、家柄も公爵家の嫡男。
その枠に留まらず元素魔法の四属性同時展開を成し遂げ、エリート集団である王立魔道士団の団長に上り詰めた、最早偉人と言える人物が自分の家にいるなんて、現実感が湧かない。
なぜそんな伝説級の人物が自分の目の前にいるのだろうか。
ミリアベルは、伯爵邸の客室でソファに腰を下ろしているノルトをちらりと見る。
すると、視線に気付いたノルトが微笑みながら首を傾げて、慌てて「し、失礼いたしました!」と視線を逸らす。
「──? ミリアベル、それにティシナ。スティシアーノ卿は国王陛下の勅命により、ミリアベルに魔力制御の訓練をしてくださるのだ」
「魔力、制御……ですか?」
ミリアベルは聞き慣れない言葉に不思議そうな表情を浮かべる。
ノルトが、ミリアベルに説明するために口を開いた。
「本日、フィオネスタ伯爵からミリアベル・フィオネスタ嬢が光・聖魔法を発動したという報告があった。その後直ぐに陛下から光・聖魔法の途中覚醒者を保護するようにと命がくだされたんだ。光・聖魔法の途中覚醒者は魔力暴走を起こしやすい。暴走を他国に知られたり、反王政派の貴族に知られたりしたら君の身が危険だからね」
「魔力暴走……!?」
「そんなに怖がらなくて大丈夫だ。それを起こさせないために、私が来た。これからは学院ではなく、私から魔法制御を学べばいい」
「え──っ」
先ほどから聞き慣れない言葉が次から次へと出てきて、ミリアベルは素っ頓狂な声を上げた。
魔力暴走も、魔力制御も、初耳である。
光・聖魔法の途中覚醒者は魔力暴走を起こしやすいなんて全く知らなかった。
学院の教材にもそんなことは記載されておらず、ミリアベルは昨日治癒魔法を何度も発動した事を思い出し、ゾッとする。
それに、学院に通う必要がない?
そうすると学院の卒業資格を得られず、将来困るのではないか。
不安そうな表情を見せるミリアベルを安心させるように、ノルトは言葉を続ける。
「そもそも光・聖魔法の使用者には国から特別な待遇と、身分が与えられる。国内でもこの魔法の使用者は五十名もいないから、身柄の安全は保証されるし、まあ、その……戦地への同行の際も命に危険が及ばないように護られるから心配はいらない」
「そ、それならば、なぜ今奇跡の乙女は学院に通っているのですか?」
「奇跡の乙女? ──ああ、あれか。フローラモ子爵家の末っ子の令嬢だな。彼女は幼少期の適性確認で光・聖魔法の属性が判明していて、暴走の恐れはないからだ。学院に通うよりも魔法制御を優先するのは、途中覚醒者のみだよ。魔力暴走を起こす可能性があるため、魔力の制御の仕方と発動の仕組みを学ばないといけない」
「──そう、だったのですね……」
だから、奇跡の乙女であるティアラは学院に通えているのか。
ミリアベルは納得してぽつりと言葉を零した。
だが、ティシナは先ほどノルトが口にした言葉が引っ掛かったのだろう。
心配そうに眉を下げてノルトに尋ねる。
「あの、スティシアーノ卿……よろしいでしょうか?」
「──? ええ、どうぞ」
ティシナが恐る恐る、といった様子でノルトに話しかけると、ノルトは笑顔を浮かべたまま頷いた。
「ありがとうございます。……その、先ほどスティシアーノ卿は戦地と仰いましたが……それはいったい……?」
ティシナは不安そうに、隣に座っているミリアベルの手をきゅう、と握る。
ミリアベルは今までそのような荒事とは無縁の場所で暮らしてきた。
それが、光・聖魔法が途中覚醒したからと言って、いきなり戦地に行かされるのか。
心の準備など全くできていない状況でそのような場所に連れ出されたら、何か起きた時に取り返しのつかない事になるのでは、とティシナは不安になったのだ。
「その件に関しては順を追って説明しましょうか、……フィオネスタ伯爵夫人。――伯爵も、よろしいか?」
「ええ、お願いいたします。スティシアーノ卿」
リバードはこくりと頷き、ノルトは姿勢を正して口を開いた。
「先ほどお話した通り……ミリアベル嬢の保護と、魔力制御に関しましては私が付きっきりでお教えいたしますので心配には及びません。そのため、今後は学院で学ぶ必要はございません。魔法学は私が、通常のマナーや教養に関しては公爵家の講師が担当いたしますので、学院に通うのと同じ水準の学びをお約束します」
ノルトの言葉に、ティシナはこくこく、と頷く。
「そして……魔力制御を問題なく行えるようになった後は恐らく……近い内に討伐任務へ同行していただく事となります」
「──えっ!」
ティシナはぎょっとしたような声を上げて、真っ青になった。
なぜうちの娘が、とカタカタと震えている。
「それが……先ほど仰っていた戦地への同行、という事なのでしょうか……そのような場所にミリアベルが参加して……大丈夫なのでしょうか」
「──伯爵夫人、ご安心ください。治癒魔法の使い手は決して前線に出る事はなく、魔物や魔獣の害の及ばない場所で治癒魔法を使用していただきます」
「そ、それでも……絶対に安全、という訳ではございませんよね……?」
ティシナは心配そうにミリアベルを見る。
──母親としては至って普通の感覚だ。
戦地や、争いに無縁な環境で育ってきた貴族の令嬢がいきなり討伐隊に同行するなんて。
しかも、魔力制御を覚えたら近い内に。
そこまで現地は切羽詰まった状況なのだろうか。
「あなた……あなたは聞いていたのですか……?」
「──ああ……本日、陛下と謁見した際に討伐に同行する件は聞いている……」
「ミリアベルが……討伐に……」
顔色を悪くしたティシナを心配し、リバードがそっと支える。
「確実に安全です、と嘘をお伝えする訳にはいきませんが、ミリアベル嬢は私が指揮をする王立魔道士団と行動を共にしていただく予定です。常に私が側におりますのでご安心ください。傷一つ付けないとお約束しましょう」
ノルトが常にミリアベルの側にいてくれる。
その言葉を聞いて、ミリアベルの両親は安堵の息を零す。
この国の最強の魔道士であり、騎士でもあるノルトが側にいてくれるなら、ミリアベルの身の安全は確保されたも同然である。
「──陛下は、近々異常事態を宣言いたします。それまでに、ミリアベル嬢には魔力制御を覚えていただきたい。急ではございますが、本日より我が公爵邸に移り、私と魔力制御の修練に励んでほしいのです。──そのために、ご家族への説明と、許可を頂戴しに参りました」
ティシナはとうとう思考の限界が訪れたようだ。
ふらり、と体を揺らめかせると、そのまま力なくリバードの胸元に倒れ込んでしまった。
「──ティシナ!」
「お母様!」
母の様子を心配しつつも、ミリアベルはいっそのこと自分も気を失ってしまいたかった。
婚約の破棄を宣言されてしまった。
両家で話し合い、対応を考える前に、一方的に。
ベスタの根回しのせいで、自分はブレスレットなど盗んでいないといくら訴えた所で、全校生徒がミリアベルが犯人なのだと思っているのは覆せない。
まして、自分は昨日教師等に告げずに早退してしまったのだ。
勝手に学院を出てしまったので公的機関に証拠として出せるだけの情報がない。
御者が証言してくれても、彼はフィオネスタ伯爵家の人間なので有効ではないだろう。
そして、争う場合、相手はアランドワ侯爵家である。
決定的な証拠がない場合、貴族社会では言ったもの勝ちとなってしまうため、高位貴族の方が強い。
物的証拠を用意できないフィオネスタ伯爵家は、泣き寝入りするしかないだろう。
「悔しい……っ、どうして……っ」
ミリアベルはうつむき、ぎゅうっと自分の唇を噛み締める。
婚約は個人の問題ではない。お互いの家が関わる大事な契約だ。
それを一方的に反故にして、そして大勢の前で相手に冤罪を吹っ掛けて辱める行為が許されるのだろうか。
ミリアベルは拳を握り締めると、伯爵家の馬車に再び乗り込み、伯爵邸に戻った。
ごとごとと揺れる馬車の中で、ミリアベルはこの先に起こり得る事柄について考えをまとめる。
……ベスタ様はきっと私が犯罪を行った、とフィオネスタ伯爵家を糾弾するつもりだわ。
そして、そのような家の者とは結婚できないと婚約破棄を改めて宣言するでしょう。
その主張が通ってしまったら、賠償金を支払う破目になるし、伯爵家に迷惑を掛けてしまう。
どうにか冤罪を晴らせないかしら……
考えに耽っている内に伯爵邸に到着していたようで、ミリアベルは馬車から降りた。
この時間帯であれば、父は書斎で仕事をしているだろう。
このような時間に戻って来たミリアベルに驚く使用人たちに早退した事を伝えつつ、書斎へ向かう。
「──お父様」
こんこん、とノックをして父親に声をかけた。
こんな時間にミリアベルがいる事を疑問に思ったのだろう、少し間を空けて父親の声が聞こえた。
「……入りなさい」
「失礼いたします」
扉を開け、入室するとミリアベルの父親であるリバード・フィオネスタが執務机に向かっていた。
「こんな時間にどうしたんだ? ミリアベル。まだ学院にいる時間だろうに……」
リバードは訝しげな顔で立ち上がり、ミリアベルをソファに促す。
「お父様……。急ぎご報告しなければならない事がございます。そのために勝手ながら学院を早退して戻って参りました」
「……ひとまず聞こうか」
二人は室内のソファに向かい合せに腰を下ろした。
すっと息を吸い、ミリアベルは先ほどの件の説明を始めた。
「本日、ベスタ・アランドワ様から私との婚約を破棄する、と宣言されました」
「──は?」
リバードはぽかん、と口を開けて呆気に取られたかのような声を出した。
「ちょ、ちょっと待ちなさい……。何を突然……」
「そう、なのです……。本当に突然の事で。ベスタ様は他に想う女性がいらっしゃいまして、その方の持ち物を昨日私が盗んだのだ、と仰いました。否定したのですが、中々ご納得いただけず……」
リバードは眉間を揉み込むようにして親指でぐりぐりと刺激する。
リバードの様子から、ベスタの話はフィオネスタ伯爵家に正式な知らせとして告げられていない、完全にベスタの暴走である事がわかる。
「……わかった。アランドワ侯爵家に確認しよう。私が対応するから、安心しなさい」
「ありがとうございます、お父様……!」
ミリアベルはほっと安堵の息を吐き出すと、お礼を言って書斎を後にした。
そっと扉に背中を預け、自分の胸元に手をやる。
制服の胸ポケットには、ベスタからもらったリボンが入ったままだ。
リボンを取り出し、きゅうっと握り締める。
数秒後、ぱっと顔を上げると自分の部屋に向かって歩き出した。
「学院を早退してしまったから、授業の復習をしなくては……!」
気持ちを切り替えるように、ミリアベルはあえて明るい声を出した。
自室に戻り、鞄から魔法学の教材を取り出す。
今は、勉強に集中したい。
何かをしていないと、先ほどベスタに向けられた冷たい視線や、蔑むような態度を思い出し、気持ちが沈みそうだ。
ミリアベルは教材の中から目当ての教材を見つけると、椅子に座りそれを開く。
魔法学は特殊な教科だ。理論を学んでも実践できるとは限らないため、実習に一日参加できなかった事が後々命取りとなるのだ。
魔法の仕組みや性質について基本的な事が記載されている教材を確認しながら、自分の手元に五つの元素魔法を順に呼び出す。
「やっぱり、火と水は適性があるけれど、他の雷、土、風は適性がないみたいね……」
交互に指先に小さい炎と水の玉を作り出して、ミリアベルはその魔力を霧散させる。
ごく稀に、幼少期に受けた属性の適性確認の後に新たに適性が目覚める事もあるらしいが、自分はそうではないようだ。
「風魔法が使えると、便利なのだけれど……」
生活する上で便利な事はもちろん、元素魔法の適性種類によって、就ける職種が変わる。
使用者が多い火と水以外の属性が備わっていれば、狭き門である王立魔道士団に入団する事も可能なのだ。
とはいえ属性を持っているだけではなく、難易度が高い三属性同時展開や、希少な光・聖魔法が使用できる事が入団条件なので、王立魔道士団はかなり少数のエリートで構成されている。
要人の警護や、魔物や魔獣の討伐が主な仕事内容で、魔法が使用できれば入る事が可能な魔法騎士団とは待遇も、権限も大きく異なる。
ミリアベルはそんな大それた所に入れるとは思っていないが、二属性同時展開が可能だった。
あと一つ同時に展開できればかなり優遇される仕事に就く事ができるのに、と落胆する。
二属性同時展開ですら制御するのが難しいのだ。あと一属性など、贅沢を言ってもどうしようもない。
仕方なく、教材の次のページを捲り真面目に勉学に励む。
しばらくして、ミリアベルは自分の手のひらから漏れ出る眩い光に驚き、か細い悲鳴を上げた。
部屋の中は閃光に照らされ、庭師が驚きで腰を抜かすほど明るく輝いていた。
「ひゃあっ! 何!?」
教材の通りに手順を守って魔法を発動しただけだったのに。
部屋を包んだ眩い光は、一瞬の後に消失した。
自分の身に何が起きたかわからず放心していると、慌ただしく近付いてくる足音が聞こえた。
「ミリアベル!? 何事だ!」
バタン! と派手な音を立てて、リバードを先頭に、母親と弟が駆け付けたのだ。
「お父様──私にも良くわからないのです。この教材の手順通りに魔法を発動してみたら、先ほどのような事になってしまって……」
リバードは目を白黒させているミリアベルに近付くと、開かれたままの教材に視線を落とす。そしてミリアベルが指差している箇所を目にした瞬間、驚きに後ずさった。
あなた? 父上? と妻と息子に声をかけられ、リバードは大丈夫だ、と言うように片手を上げると自分の額に手を突いて項垂れる。
先ほど、ミリアベルから婚約について話があったと思ったら、今度はこのようなありえない事態が起こるとは……
思考を必死に制御して、リバードはぽつりと呟いた。
「ひとまず……、陛下と聖教会に届出をしておこう……」
ミリアベルが開いていた教材のページには、「光・聖魔法」の説明が載っていた。
◇◆◇
翌日。
興奮冷めやらぬフィオネスタ伯爵家では、リバードが朝からバタバタと忙しく動いていた。
リバードは忙しなく使用人たちに指示を飛ばしながら外出の準備をしている。
国王との謁見に聖教会への訪問と、今日は慌ただしくなりそうである。
「今日の仕事は全てキャンセルを! あと、それからこの手紙を必ずアランドワ侯爵家に届けるように! 行ってくる!」
いつも落ち着いて朗らかなリバードがここまで慌てている姿は見た事がない。
ミリアベルは両手を見下ろしながら、まだ夢現の気分だ。
「姉様、まだ信じられないのですか? そんなに不思議そうに手のひらを見て」
「ラッセル……」
ミリアベルは四歳年下の弟に困ったように微笑むと「ええ、そうね」と呟いた。
「自分が治癒魔法を使えるなんて……何だか現実味がないわ……。それに、学院も休んでしまったし……」
「でも、昨日しっかりと見せてくださったじゃないですか。姉様は確かに治癒魔法の使い手ですよ! 学院は、父上も休みなさい、と仰っていたので大丈夫ですよ」
にこにこと嬉しそうなラッセルに、ミリアベルも笑いかける。
実際、昨日は何度か治癒魔法を発動した。
大きな怪我を負った者はいないので、料理中に怪我をしてしまった料理人を呼び出し、刃物でうっすらと傷付けてしまった傷跡に治癒魔法を発動した。
そうしたら、傷跡がすうっと消え、料理人も「ぴりぴりした痛みがなくなりました!」と声を上げて驚いていたのだ。
しかし、治癒魔法は外傷の他、肉体的な疲れや精神的な痛みも癒すと言われているが、それは昨日何度やっても成功しなかった。
肉体疲労だけでも癒せれば良かったのだが、力加減が難しく、上手くできなかった。
その件も含めて、父親は本日国王と、治癒魔法──光・聖魔法を管轄している聖教会本部に報告に行ったのだ。
ミリアベルは普通の元素魔法しか使えなかったはずだが、一体いつから光・聖魔法を使えるようになっていたのか。
治癒魔法が使えるようになれば、もしかしたら学院に在籍したまま、討伐について行く事もあるかもしれない。
魔物や魔獣は恐ろしいが、直接戦うのは騎士団や魔道士団に所属している人たちだ。
彼らが怪我をした際に、治癒魔法の使い手が彼らの傷を癒す。
恐怖心は拭えないものの、人の役に立てるのであれば喜んで参加しよう、とミリアベルは考えた。
リバードが戻って来たのはその日の昼過ぎであった。
だが、行きは一人であったリバードが帰りは誰かを伴っていた。
出迎えたミリアベルを始め、母親と弟はキョトンとした。
「こちらにいらっしゃるのはノルト・スティシアーノ卿だ。スティシアーノ公爵家のご嫡男で、この国の王立魔道士団の団長を務めていらっしゃる」
「初めまして。私はノルト・スティシアーノと申します。若輩ながら王立魔道士団の団長を務めさせていただいております。……本日は突然の訪問にもかかわらず、迎え入れてくださり感謝申し上げます。私が本日こちらに来たのは、ミリアベル嬢の光・聖魔法の途中覚醒が理由です」
目の前の男──ノルトが名乗り、にっこりと微笑む。
ミリアベルと母親のティシナはさぁっと血の気が引くのを感じた。
まさか公爵家の人間がやってくるとは思わず、もてなしの用意などまったくしていない。
「た、大変申し訳ございません……っスティシアーノ公爵家の方とは気付かず、ろくなお出迎えもせずに……っ」
「──ちょ、待ってくれ。頭なんて下げなくていい……! 突然の訪問に準備ができていないのは当たり前だ、驚かせてしまってこちらこそ申し訳ない」
困ったような笑みを浮かべるノルトは、王立魔道士団の濃紺と金色の飾りが入った団服をきっちりと着こなしている。金の髪が太陽の光に反射してキラキラと輝き、空の色を映したような瞳は澄んでおりとても美しい。
ミリアベルもティシナもぼうっと呆けてしまったが、慌てて邸内に案内した。
◇◆◇
ノルト・スティシアーノ。
筆頭公爵家の嫡男で、史上最年少で王立魔道士団の団長に就任し、要人警護よりも魔物や魔獣の討伐に力を注いでいる人物である。
建国から続く由緒あるスティシアーノ公爵家は、一族内で最大の魔力量を保有する者が後継となる決まりだ。
ノルトも生まれた時から膨大な魔力を有していて、幼少より魔法学を学び、魔力を制御する方法を当時この国で一番力のある魔法剣士に教わった。
幼い頃から自己研鑽を積んだお陰か、十五歳で三属性同時展開を成し遂げ、昨年二十一歳の時には五元素魔法を操る偉業を成し遂げている。
全ての元素魔法に目覚めた昨年、彼は過去誰も成し得た事がない四属性同時展開を成功させた。
その事は社交界でも大きな話題になり、ミリアベルも鮮明に覚えている。
見目麗しく、家柄も公爵家の嫡男。
その枠に留まらず元素魔法の四属性同時展開を成し遂げ、エリート集団である王立魔道士団の団長に上り詰めた、最早偉人と言える人物が自分の家にいるなんて、現実感が湧かない。
なぜそんな伝説級の人物が自分の目の前にいるのだろうか。
ミリアベルは、伯爵邸の客室でソファに腰を下ろしているノルトをちらりと見る。
すると、視線に気付いたノルトが微笑みながら首を傾げて、慌てて「し、失礼いたしました!」と視線を逸らす。
「──? ミリアベル、それにティシナ。スティシアーノ卿は国王陛下の勅命により、ミリアベルに魔力制御の訓練をしてくださるのだ」
「魔力、制御……ですか?」
ミリアベルは聞き慣れない言葉に不思議そうな表情を浮かべる。
ノルトが、ミリアベルに説明するために口を開いた。
「本日、フィオネスタ伯爵からミリアベル・フィオネスタ嬢が光・聖魔法を発動したという報告があった。その後直ぐに陛下から光・聖魔法の途中覚醒者を保護するようにと命がくだされたんだ。光・聖魔法の途中覚醒者は魔力暴走を起こしやすい。暴走を他国に知られたり、反王政派の貴族に知られたりしたら君の身が危険だからね」
「魔力暴走……!?」
「そんなに怖がらなくて大丈夫だ。それを起こさせないために、私が来た。これからは学院ではなく、私から魔法制御を学べばいい」
「え──っ」
先ほどから聞き慣れない言葉が次から次へと出てきて、ミリアベルは素っ頓狂な声を上げた。
魔力暴走も、魔力制御も、初耳である。
光・聖魔法の途中覚醒者は魔力暴走を起こしやすいなんて全く知らなかった。
学院の教材にもそんなことは記載されておらず、ミリアベルは昨日治癒魔法を何度も発動した事を思い出し、ゾッとする。
それに、学院に通う必要がない?
そうすると学院の卒業資格を得られず、将来困るのではないか。
不安そうな表情を見せるミリアベルを安心させるように、ノルトは言葉を続ける。
「そもそも光・聖魔法の使用者には国から特別な待遇と、身分が与えられる。国内でもこの魔法の使用者は五十名もいないから、身柄の安全は保証されるし、まあ、その……戦地への同行の際も命に危険が及ばないように護られるから心配はいらない」
「そ、それならば、なぜ今奇跡の乙女は学院に通っているのですか?」
「奇跡の乙女? ──ああ、あれか。フローラモ子爵家の末っ子の令嬢だな。彼女は幼少期の適性確認で光・聖魔法の属性が判明していて、暴走の恐れはないからだ。学院に通うよりも魔法制御を優先するのは、途中覚醒者のみだよ。魔力暴走を起こす可能性があるため、魔力の制御の仕方と発動の仕組みを学ばないといけない」
「──そう、だったのですね……」
だから、奇跡の乙女であるティアラは学院に通えているのか。
ミリアベルは納得してぽつりと言葉を零した。
だが、ティシナは先ほどノルトが口にした言葉が引っ掛かったのだろう。
心配そうに眉を下げてノルトに尋ねる。
「あの、スティシアーノ卿……よろしいでしょうか?」
「──? ええ、どうぞ」
ティシナが恐る恐る、といった様子でノルトに話しかけると、ノルトは笑顔を浮かべたまま頷いた。
「ありがとうございます。……その、先ほどスティシアーノ卿は戦地と仰いましたが……それはいったい……?」
ティシナは不安そうに、隣に座っているミリアベルの手をきゅう、と握る。
ミリアベルは今までそのような荒事とは無縁の場所で暮らしてきた。
それが、光・聖魔法が途中覚醒したからと言って、いきなり戦地に行かされるのか。
心の準備など全くできていない状況でそのような場所に連れ出されたら、何か起きた時に取り返しのつかない事になるのでは、とティシナは不安になったのだ。
「その件に関しては順を追って説明しましょうか、……フィオネスタ伯爵夫人。――伯爵も、よろしいか?」
「ええ、お願いいたします。スティシアーノ卿」
リバードはこくりと頷き、ノルトは姿勢を正して口を開いた。
「先ほどお話した通り……ミリアベル嬢の保護と、魔力制御に関しましては私が付きっきりでお教えいたしますので心配には及びません。そのため、今後は学院で学ぶ必要はございません。魔法学は私が、通常のマナーや教養に関しては公爵家の講師が担当いたしますので、学院に通うのと同じ水準の学びをお約束します」
ノルトの言葉に、ティシナはこくこく、と頷く。
「そして……魔力制御を問題なく行えるようになった後は恐らく……近い内に討伐任務へ同行していただく事となります」
「──えっ!」
ティシナはぎょっとしたような声を上げて、真っ青になった。
なぜうちの娘が、とカタカタと震えている。
「それが……先ほど仰っていた戦地への同行、という事なのでしょうか……そのような場所にミリアベルが参加して……大丈夫なのでしょうか」
「──伯爵夫人、ご安心ください。治癒魔法の使い手は決して前線に出る事はなく、魔物や魔獣の害の及ばない場所で治癒魔法を使用していただきます」
「そ、それでも……絶対に安全、という訳ではございませんよね……?」
ティシナは心配そうにミリアベルを見る。
──母親としては至って普通の感覚だ。
戦地や、争いに無縁な環境で育ってきた貴族の令嬢がいきなり討伐隊に同行するなんて。
しかも、魔力制御を覚えたら近い内に。
そこまで現地は切羽詰まった状況なのだろうか。
「あなた……あなたは聞いていたのですか……?」
「──ああ……本日、陛下と謁見した際に討伐に同行する件は聞いている……」
「ミリアベルが……討伐に……」
顔色を悪くしたティシナを心配し、リバードがそっと支える。
「確実に安全です、と嘘をお伝えする訳にはいきませんが、ミリアベル嬢は私が指揮をする王立魔道士団と行動を共にしていただく予定です。常に私が側におりますのでご安心ください。傷一つ付けないとお約束しましょう」
ノルトが常にミリアベルの側にいてくれる。
その言葉を聞いて、ミリアベルの両親は安堵の息を零す。
この国の最強の魔道士であり、騎士でもあるノルトが側にいてくれるなら、ミリアベルの身の安全は確保されたも同然である。
「──陛下は、近々異常事態を宣言いたします。それまでに、ミリアベル嬢には魔力制御を覚えていただきたい。急ではございますが、本日より我が公爵邸に移り、私と魔力制御の修練に励んでほしいのです。──そのために、ご家族への説明と、許可を頂戴しに参りました」
ティシナはとうとう思考の限界が訪れたようだ。
ふらり、と体を揺らめかせると、そのまま力なくリバードの胸元に倒れ込んでしまった。
「──ティシナ!」
「お母様!」
母の様子を心配しつつも、ミリアベルはいっそのこと自分も気を失ってしまいたかった。
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