あなたの事はもういりませんからどうぞお好きになさって?

高瀬船

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第百三十話

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「──ミリアベルっ!」

ぐらり、と体が傾きその場で力を失ったかのように床へと倒れ込みそうになったミリアベルに気付いたノルトは、急いでミリアベルへと駆け寄り倒れそうになったミリアベルの体を受け止める。

「ミリアベル……っ、どうした……?大丈夫か……っ!?」

慌ててミリアベルの顔を覗き込んだノルトは、ミリアベルの顔色の悪さにぎょっとする。
ノルトの後からネウスや、ランドロフが心配して二人の近くに駆け寄って来るのを気配で感じるが、ノルトは自分の不甲斐なさに頭を抱えたいような気持ちになる。

「ノルト……!どうした、ミリアベルは大丈夫か!?」
「ノルト──?」

ネウスとランドロフの声にノルトはゆっくりと二人に振り向くと、ミリアベルの状態を告げる。

「──あぁ。ミリアベル嬢は魔力切れだ……」
「魔力切れ!?ミリアベルの魔力は膨大だろう、何でそんな事になってる?」

ネウスの不思議そうな言葉に、ノルトは言葉を続ける。

「──聖魔法がどれほど魔力を消費するかははっきりと分からないが……、ミリアベル嬢は教会の侵入の際から今の今まで魔法を使用しっぱなしだっただろう……軍法会議で集まった見物人を守る為にも高位魔法を使用していたし、大司教が呼び寄せた魔物のような物達を倒す為にも高位魔法を連発してた……。それをずっと続けていたんだ……いくらミリアベル嬢の保有魔力量が多くともこれでは魔力切れを起こす……」

ノルトは、ミリアベルへと視線を移すと血の気が失せ、真っ白になってしまっているミリアベルの頬をそっと温めるように何度も自分の手のひらで撫でる。

魔力切れは体内にある自分の保有魔力量が二割程を切ると発生する現象だ。

完全に魔力を消費してしまって枯渇してしまうと最悪の場合生死に関わる。

枯渇するまで使い続ける前に、大半がこのように意識を失い強制的に体を休息させるが、それでも再度無茶を行い、大規模な魔法を使用すればその術者は命の危険に晒される。

「──魔力量が豊富だからと言って、ミリアベル嬢の様子を注視していなかった俺の失態だな……。フィオネスタ伯爵にも危険には晒さないと宣ったくせに……結果はこれだ……」
「ノルト、一先ずフィオネスタ嬢を部屋に送ってやれ。目が覚めたら私にも教えてくれ。ここまで酷使してしまった謝罪をしたい」

ランドロフの心配げに揺れた声音に、ノルトはこくりと頷くとミリアベルを抱え直して部屋を出て行こうとする。
扉へと足を向けて動かした際に、ネウスも着いて来るだろうと思っていたが、ネウスはミリアベルとノルトを見送るような様子でノルトは訝しげに唇を開いた。

「ネウス……?どうした、来ないのか?」
「ん、ああ。少しランドロフに用事がある。話が終わったら俺もそっちに向かうから先に行っててくれ」

ひらり、と片手を上げるネウスにノルトは首を傾げるが今はミリアベルを早くベッドに寝かせてやらねばならない。
ノルトが「分かった」とネウスへ返事をして扉を出る瞬間、ネウスの揶揄うような声が聞こえた。

「意識が無いからって、手を出すなよ!」
「──お前と一緒にするな!」









ランドロフ達と別れて、ノルトはミリアベルに与えられた部屋へと到着すると、城の女性使用人を捕まえて部屋に同室してもらうようにした。

未婚の男女が室内、しかも女性の客室に姿を消した等噂になってしまったら傷が付くのは女性であるミリアベルだ。
以前までは人の目を避けてお互い行き来したり、訓練部屋で落ち合ったりしていたが、女性に与えられた客室へその女性を抱いたまま入室するのはいただけない。

しかも今は城内にも人の姿が多い日中。
そして、軍法会議で自分達は目立つ行動をしてしまった為、周囲からの視線も自然と集まる。

(──まあ、一番はミリアベル嬢が視線を集めているんだが……)

いつの間に知れ渡ってしまっていたのだろう。
聖魔法のかなりの使い手だと言う事が見物人から広まり、城内の者へも広まり、ノルト自身ここに向かう道すがらちらちらと人の視線が多く自分達に突き刺さるのを感じていた。

「スティシアーノ卿、ベッドの用意が出来ましたので……」
「──え、ああ。ありがとう」

女性使用人が整えてくれたベッドに、ミリアベルをそっと横たわらせて、しっかりと首元まで掛け布を引き上げる。

呼吸をしているかしていないか分からない程、細くゆっくりと呼吸をしているミリアベルにノルトは心配になり、何度も息をしているか確認してしまう。

使用人が用意してくれた飲み物で喉を潤しながら、ノルトは何度もミリアベルの額を自分の手のひらで優しく撫で続けた。












場所は変わり、ノルトが出ていったランドロフの部屋。

二人が出ていったのを視線で追いながら、ランドロフはネウスに声を掛ける。

「──それで、私に用とは何だろうか、ネウス殿」

ランドロフの言葉に、ネウスは顔だけをランドロフのいる方向へ振り向かせると唇の端を吊り上げてにたり、と笑う。

「ああ。人間に魔道具に詳しい奴はいるか?一番詳しい奴を紹介して欲しいんだよ」

そいつと、うちのロザンナで共同開発してもらいたい物がある、と愉しそうに瞳を細めて笑うネウスに、ぞっとした美しさを改めて感じてランドロフは無意識に自分の腕を摩った。
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