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第百二十九話
しおりを挟む「王太子達を──……?」
ミリアベルがランドロフへ向かって聞き返すと、ランドロフは視線を下げて今の兄達の状態を説明する。
「ああ。……私を大司教から遠ざけようとしていた兄上達もゆっくりと徐々に洗脳されていってしまったようだ。長い期間を掛けて洗脳された場合は、完全に他人の魔力を排除する事が可能か、それとも不可能かどうか……見て貰いたい」
「分かりました。私で宜しければご協力させて頂きます」
ミリアベルがこくり、と頷くのを確認したランドロフはほっとしたように表情を緩めた。
そして、ランドロフは「こっちに連れて来ている」と告げるとミリアベル達を部屋の端へと連れて行くと、扉に手を掛けた。
隣にある部屋と続き部屋になっているらしく、元々鍵は掛かっていなかったのだろう。
ドアノブを握ると、ランドロフが扉を開けて中へとミリアベル達を促す。
扉が開けられ、中へと足を踏み入れたミリアベルはベッドに寝かされ眠っている二人の王子にゆっくりと近付いて行く。
「王太子達は意識が……?」
ノルトの言葉にランドロフは苦しそうに表情を歪めると唇を開いた。
「いや……魔道具で眠らせている。奇跡の乙女をネウス殿が引き取ってから彼女の魔力を混入出来なくなったせいか、精神状態が悪化して来てしまってな……それからはあまり王城内の者に姿を見せないように体調を崩していると言って隠している……。どうだ、フィオネスタ嬢……?」
「そう、ですね……。確かに何か澱み?のような物が王太子達に混ざっているような気がします……。ネウス様、分かりますか?」
ミリアベルは魔力の流れを見る事が出来るネウスに視線を向けると、側まで近付いて来ていたネウスが王太子達の体をじっと黙って見つめる。
「──そうだな……。その澱みっつーもんは俺には分からねぇが……。確かに他人の魔力が混ざっているのは確認出来る……。ミリアベルが言う澱みっつーのは禁術や邪法に近い物なんじゃねぇか?」
人の理から反した物を察知する能力があるのではないか、とネウスに言われてミリアベルはそうなのだろうか、と考え込む。
確かに、国王陛下が既にこの世の者ではない事に気付いたのも自分だ。
魔の者であるネウスやロザンナは直ぐに気付く事は出来なかった。
聖魔法を使う者特有の感知能力みたいな物が備わっているのだろうか、とミリアベルが考えていると、ノルトが躊躇いがちに話し掛けてくる。
「どうだ、ミリアベル嬢……?王太子達のこの状態はどうにか出来そうか……?」
「そう、ですね……。魔力を混入させるだけならこの澱みは発生しなかった筈です……。けれど、澱みが発生していると言う事は禁術か邪法も大司教は使用している……聖魔法の浄化作用のある魔法と、精神干渉を解消する魔法を試しに掛けてみます」
ミリアベルはそう言うと、ランドロフに視線で「いいか」と問う。
その視線にランドロフは深く頷くと、その返答を得たミリアベルは繊細な魔力構築をして行く。
禁術や邪法で理から外れた干渉を受けているのであれば、その澱みを浄化してしまえばいい。
そして、王太子達自分自身が戦えるように精神干渉を弱め、手助けしてあげればいい。
王族は元々保有魔力量が多い。
その為、少しでも自分で戦えるだけの力を取り戻せれば自分の魔力で不要物を押さえ付ける事が出来るだろう。
「王太子に掛けます……!」
ミリアベルの宣言の後、魔法を発動すると眩い光が王太子へと収束して行く。
続けてもう片方の魔法もミリアベルは発動するとそのまま再度王太子へと掛ける。
「──?変化、は無さそうだな……」
ネウスの言葉通り、ミリアベルが魔法を発動した後も王太子と第二王子はぴくりとも動く気配が無く、顔色も悪いままだ。
ミリアベルは失敗しただろうか?とひやりとしながら、もう一度同じように王太子へと再度魔法の発動を繰り返す。
すると、先程の澱みが一瞬揺らいだような気がして、ミリアベルはあっ、と声を出すと瞳を見開く。
「──解消出来たか?」
「あ、いえ、すみませんっ。解消は出来ていないのですが、少し澱みの進行?濃度?が薄まったような気がして……」
明るいランドロフの声音に、ミリアベルは慌てて唇を開くと状態を説明する。
「澱みが強く、深く根を張っているような状態だと思います。根気よく何度もお二人に魔法を掛け続ければ洗脳が解消されて、澱みも無くなるかもしれません……」
「──本当か……!」
掛け続ければ元の体に戻れる可能性がある。そうすれば、王太子や第二王子も助かる。
僅かに見えてきた希望に、ランドロフは破顔してミリアベルの両手を自分の手のひらで包み込むと、何度もお礼を告げた。
「ありがとう……!本当にありがとうフィオネスタ嬢……!これからも、兄上達の為に聖魔法を掛けて貰ってもいいだろうか!?」
「は、はいっ!それは勿論、ご協力致します!」
ぶんぶんと握った手を嬉しそうに振るランドロフに、戸惑いながらミリアベルが了承の返事を返すと、「もういいだろう」とノルトがランドロフの腕を掴む。
「──ミリアベル嬢に触りすぎだ……」
「ああ、すまない。嬉しすぎてつい」
にこにこと悪びれもなく軽い調子で笑うランドロフに、些か不機嫌そうな表情のノルトに、ミリアベルは頬を染めるとそっとノルトから視線を逸らす。
ノルトからぱっと視線を外し、ミリアベルに再度ランドロフが視線を向けると明るい表情で唇を開いた。
「ミリアベル嬢、申し訳ないが今後も定期的に兄上達に聖魔法を掛けに来てくれると助かる!」
「──っ!分かりました!」
ランドロフの言葉に、ミリアベルが勢い良く頷いた瞬間。
ぐらり、と視界が揺れた。
「──あっ、」
真っ暗になる視界に、ぷつりと意識が無くなる瞬間、ミリアベルは自分の名前を焦って呼ぶノルトの声を聞いた。
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