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第百二十八話
しおりを挟む大司教の処遇はネウスに全て一任する。
その言葉を聞き、ミリアベルは驚きに目を見開くとネウスへと視線を向けた。
「──ネウス様に、一任されるのですか…!?」
「……俺に寄越す、と言う事はどうなるかあのぼっちゃんは分かってるんだよな、ノルト?」
「ああ。このままうちの国に置いて置く事も出来ない。このまま自分の犯した罪を反省する事もなく、償う事もせずに終わりと言うのは生温いとお考えなのだろうな、ランドロフ殿下は。……それだけ、今回の件に関しては被害者が多く、その被害は王族に及んでいる」
「ただ死ぬだけでは償えねぇって事だな」
物騒な二人の会話に、ミリアベルはぞっと背筋を凍らせると左右に居る二人に戸惑いの視線を向ける。
ミリアベルの視線に気付いたネウスは、先程までの冷たい表情をすぐに引っ込めると肩を竦めて苦笑する。
「──ノルト、この話はおいおい、な。ミリアベルが怯える」
「……っ、ああ、すまないミリアベル嬢。今聞いた事は忘れてくれ」
慌ててノルトが横からミリアベルの顔を覗き込むようにして視線を合わせると安心させるように微笑む。
「忘れて、と言われましても──!」
ミリアベルが戸惑っている内に、ランドロフがこの軍法会議に参加していた見物人達に向かって唇を開く。
「──騒がせてしまい、申し訳ない。これにて、軍規違反を犯した者と罪を犯した国王陛下並びに大司教の裁きを終える……!改めて後日、国から正式な裁きを報告する為その報告を持ってこの度起きた一連の騒動の終了とする!」
ランドロフの言葉に、見物人達がざわざわと再びざわめく。
ランドロフ自身は報告が終わりこの場所にもう用がない、とでも言うように踵を返してその場から離れようと前方の出入口へと足を向けた。
「──ああ、そうだ」
そして、伝え忘れたと言うように顔だけ振り返りミリアベル達に視線を向けると唇を開く。
「ミリアベル嬢、ノルト、ネウス殿はこの後私の執務室へ来てくれ」
それだけランドロフは言い残すと、今度こそこのホールを退出して行った。
この場に残った団員達や見物人達はミリアベル達三人へと視線を向けた後に、見物人達がぱらぱらと後方の出入口から帰って行く。
これ以上この場所に居ても、もう何も起こらないだろうと判断したのだろう。
それよりも、貴族達はこの場所で得た情報を繋がりのある貴族や家族達への周知へ。
国民達はこの場所に参加していない者達へ今回の事件の顛末を話しに向かうのだろう。
これだけ大きな事件である。
それも、国王陛下が既に教会の大司教の手に掛かり命を落としている、等かなりの騒ぎになるだろう。
王都が混乱に陥る可能性も出てくる。
「──カーティス」
ノルトは、魔道士団の団員達の集まる場所に近寄りながらカーティスに声を掛けると、ノルトの呼び掛けに反応したカーティスがふと顔を上げ、近付いて来るノルトの表情を見て「げっ」と嫌そうな声を上げた。
「魔法騎士団のラディアンと協力して、王都内の混乱を収めるように。騒ぎが起きたら鎮圧してくれ」
「──まーた面倒くさい事を俺に……分かりましたよー」
ノルトの言葉にカーティスはそう答えると、片手をひらひらと振りながらラディアンの元へと向かって歩いて行く。
その後ろ姿を数秒眺めた後、ノルトはくるりと振り返ると「さて」と声を出してランドロフの元へと向かおう、とミリアベルとネウスに向かって声を掛ける。
拘束したままの軍規違反で裁かれた者達と、国王陛下、大司教を魔道士団の手の空いている者達は、ミリアベル達がランドロフとの話が終わるまで王城の地下牢へと連行して行った。
ランドロフに言われた通り、ミリアベル達はホールを出てランドロフの執務室へと向かうと、三人が来るのを迎えるようにランドロフの侍従と専属護衛達が扉の前で待っていた。
「御三方、殿下がお待ちです。このままどうぞお入りください」
侍従の男がそう言うと、扉を軽く数度ノックしてから扉を開きミリアベル達を室内へと案内する。
「──呼び立ててすまないな、三人とも」
ランドロフは入室して来た三人に視線を向けると三人の後ろに居た侍従へと片手を上げる。
すると、ランドロフの合図に反応した侍従が一礼すると、部屋から退出し、室内には完全に四人だけが残る形となる。
「いえ、とんでもございません殿下」
ミリアベルがぺこり、と頭を下げると続いてノルトとネウスが唇を開く。
「ランドロフ殿下──いや、今後は陛下、とお呼びするようになりますかね?」
「殿下いきなり王様か、すげぇ出世だな、ランドロフ」
二人の言葉に、ランドロフは苦笑すると困ったように眉を下げて笑う。
「──勘弁してくれ……。国内がこれから荒れる……先ずはそれを制せねばならない……。それよりも、私の独断で軍法会議の開催を強行してしまってすまない」
「……頭を上げて下さい、ランドロフ殿下。寧ろ、これだけ素早く行動して下さったお陰で、大司教を取り逃がす事が無かった。感謝しております」
頭を下げるランドロフに、ノルトは気にしないでくれ、と言うように首を横に振り頭を上げさせる。
実際、こうしてランドロフが強硬手段に出てくれたお陰でここまで素早く大司教や国王陛下、軍規違反者達を裁く事が出来たのは事実だ。
軍法会議の開催まで期間が開けば、更なる犠牲者を出していた可能性もある。
感謝こそすれ、責めるような気持ちは微塵もないのだ、とノルトはランドロフへと伝える。
ミリアベルもノルトの気持ちに同意し、こくこくと頷くとランドロフへ気遣うような視線を向ける。
「──ありがとう……そう言って貰えて助かる」
ランドロフはほっとしたような表情を浮かべると、そこで言葉を切り自分の前髪をくしゃり、と握る。
些か言い難いように眉を寄せ、視線を落とした後に三人──ミリアベルに言う事を決めたのだろう。
視線を上げるとしっかりとミリアベルを見つめて唇を開いた。
「──フィオネスタ嬢に頼みたい事がある……。大司教の手によって魔力を混流させられ、精神に異常を来たした兄上達が助かるかどうか、確認して貰えないだろうか?」
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