あなたの事はもういりませんからどうぞお好きになさって?

高瀬船

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第百二十七話

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血走った瞳で、犬歯を剥き出しにして表情を歪ませてそう叫ぶイルムドにミリアベルは君の悪さを覚えて一歩後ずさる。

「──ミリアベル嬢」
「ノルト、様っ」

下がったミリアベルの体を、支えるようにして立つノルトに、ミリアベルは何とも言えない表情でノルトに視線を向ける。

壊れた人間とはまともな会話が出来そうにない。
目的の為に他がもう目に入らなくなり、ただひたすらに自分の求めている物だけを欲し、会話が儘ならない。
ミリアベルに視線を向けた後、イルムドはネウスへと視線を向けると歓喜の表情を浮かべて今度はネウスに向かって唇を開く。

「──魔の者の王よ!初めに話していた奇跡の乙女ではなくなったが、更に強大な魔力を持った女だ!魔力をある程度残してやる、この女をやるから私に操縦の魔法を寄越せ!」
「──はぁ?」

イルムドに話し掛けられた事が不快だと言うようにネウスは表情を歪めると、カツカツとイルムドに近付き、そのままイルムドの顎を蹴り上げる。

「──……っが、ッ!」
「何でお前に貰わなきゃならねぇんだよ、……ミリアベルは俺が口説く。不愉快な口を閉じろ。屑如きが俺に気安く話し掛けるなよ」

苛立ちを顕に、ネウスが尚もイルムドの顎を蹴り上げ続けていると、慌ててノルトがネウスを止めに来る。

「──待て待て!これ以上やると顎が砕ける……!喋れなくしてどうするんだ!」
「こいつが不愉快だから仕方ねぇだろ。屑に俺の事を呼ばれるなんざ虫唾が走る」

ノルトに腕を捕まれ、止められたネウスはぶすっとむくれたような表情を浮かべると、「ああそうだ」と明るい声でイルムドに話し掛ける。

「お前と、国王が欲していた"操縦"の魔法だが、死魔者アンデッドを操る事なんて出来ねぇし、死者を甦らせる何て理に反した魔法……邪法、か。そんな物はねぇぜ?」
「なん、だと……?」
「残念だったな?お前の恋しい恋しいリスティアーナは甦らないし、よしんば甦ったとしてもそれは最早リスティアーナじゃない。ただの死んだ魔の者、俺らの下僕の同族、死魔者アンデッドだ。ただの魔獣と同列の物と成り果てる。操縦魔法で得るのは簡単な意思疎通だけだ。まさか人格を与えられると思ったか?」

そんな事が出来るのはお前らが信ずる神だけだ、とネウスに吐き捨てるように告げられ、イルムドは何を言われたのか理解出来ないような表情でネウスを見つめる。
だが、そのイルムドからの視線にネウスは嘲笑うかのように口端を持ち上げてからランドロフへ視線を向ける。

「──ああ、ランドロフ。こいつの視界に映るのも気持ちわりぃ。早く終わらせろ」
「ネウス……お前は……」

ノルトが呆れたようにネウスの背中を思い切り叩くと、腕を引っ張りその場から離れさせていく。

「いってぇ……っ、何すんだよノルト……」
「お前が出てくると場が混乱する……、後でしっかりと時間をやるから、今後はランドロフ殿下にこの場を治めさせろ……!」

ノルトが小声でネウスを叱責すると、ネウスはさっさとしてくれよ、と呟きながらミリアベルの隣へと戻って行く。

「──まだミリアベル嬢を諦めてなかったのか……」

ノルトがぽつり、と呟くとランドロフがこほん、と一つ咳をして仕切り直すように懐から魔道具を取り出した。
ノルトも慌てて元居た場所に戻ると、ネウスとは反対側のミリアベルの隣へと立ち、そのまま静かに成り行きを見守る事に徹する。

ランドロフが取り出した魔道具は、ミリアベル達が教会へ侵入した際に様々な証拠を映像として記録した魔道具だ。
それを、ノルトはランドロフへ当時の状況と撮影した証拠映像をその時の状況と共に報告し渡していた。
あの中に収められた証拠映像をこの場で出せば、大司教の悪事と悍ましい禁術や邪法の試みの後が全て晒される。

(──もう、大司教は助からないだろう)

そして、長年悲願として追い求めていた第二王妃の甦りも成功する事はない。
これから先一生、大司教は恐らく生まれ育ったこの国に二度と戻る事が出来ないであろう事がノルトには察せれた。

第二王妃と言葉を交わした場所にも、思い出の場所にも行く事が出来ず、永遠に第二王妃の幻影を追い求め続ける事になるのではないか。

「──大司教、イルムド・アルガムフィアの犯した罪の証拠をここに映す。非人道的で、残虐な行為の痕があるので気分が悪くなる可能性がある者は直視しないように」

ランドロフがそう言い置くと、魔道具に魔力を流し、あの場所で得た証拠達が上空へと映し出された。



「大司教、イルムド・アルガムフィアは聖職者にも関わらず、禁忌とされている死者蘇生を成功させる為に奇跡の乙女を使い、傀儡とし、信者を増やし洗脳させ多くの人間の命を禁術、邪法の生贄としようとしていた。それだけでは飽き足らず、"実行"していたと思われる痕跡も見つかっている。そして、我が国の王族を意のままに操ろうとし、更には国王陛下に手を掛け弑逆し、王太子、第二王子である者達にも洗脳を行っていた証拠が上がっている」

ランドロフの言葉に、見物人達から小さな悲鳴のようなものがあちらこちらから上がる。
証拠を目にしてしまった者達が、余りにも悍ましい光景を視界に入れてしまい恐れ、慄いている。

「同盟を結んだ魔の者の王であるネウス殿の配下である魔獣や、魔の者への実験、改造を行った事も罪が多い……!尊い生命を悪戯に私欲の為に利用した大司教、イルムド・アルガムフィアに国外追放を命じる……!二度と我が国の土を踏む事は許さない……!」

ランドロフは、ここで一度言葉を区切るとネウスへと視線を向けた。

「そして、その身柄は同盟を結んだ魔の者の王、ネウス殿に一任する」
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