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連載
第百二十六話
しおりを挟むミリアベルとノルトの複合魔法が魔獣や大型獣に突き刺さり、そして魔法が突き刺さったものはそのまま炭となり崩れ落ちる。
「ミリアベル嬢、もう一度だ」
「──分かりました」
ノルトの声に頷き、ミリアベルが再度同じように魔法を発動すると先程と同じくノルトがミリアベルの魔法に自分の魔法を乗せて放つ。
どんどんと目の前で炭となって行く魔獣達を見つめながら、ミリアベルはふと大司教へと視線を向ける。
ノルトが最初に転移の魔道具を破壊した事で増援はもう呼べないだろう。
他に大司教が隠しているような手はないか、と探ろうとしたが魔法騎士団のラディアンにしっかりと拘束され、手には魔力封じの枷も嵌っている。
魔法を使う事が出来なければあの状態から抜け出す事は出来ないだろう。
そう考えてミリアベルが安堵の表情を浮かべた時、ふと大司教の血走った瞳と視線が交わった。
「──っ、」
妬み、嫉み、憎悪、執着、渇望、殺意、それらが全て混じったような激しい感情が瞳の中に渦巻いていて、ミリアベルはぞっと背筋を震わせる。
ミリアベルの視線に気付いたノルトは直ぐさま自分の体をミリアベルと大司教の間に滑り込ませるとミリアベルに声を掛ける。
「ミリアベル嬢、ありがとう。君の防御結界のお陰で見物人達にも怪我人は出ていないし、ランドロフ殿下も無事だ」
「──え、あ、いいえ!とんでもないです!」
「あっちも殆ど処理が終わったみたいだな」
ノルトが視線を向けると、転移させられた魔獣の殆どが団員達やネウス、ロザンナ達に倒されている。
視界の奥で、最後の魔獣がネウスの蹴りによって吹っ飛ばされ、胴体に穴の空いた魔獣はそのまま絶命したのか動かなくなった。
「──大司教の元へ行こう」
ノルトはそう呟くと、ミリアベルの手を取りそのまま前方へと歩いて行く。
柵の手前でネウスも合流すると、そのままノルトとネウスは柵を乗り越え、その場で戸惑うミリアベルに向かって手を伸ばすとひょい、と抱き上げて元々ノルトが居た場所へとそのまま進んでいく。
ミリアベル達がその場に揃ったのを確認すると、前方で護衛騎士と近衛騎士に守られていたランドロフが歩いて来る。
「大司教──いや、イルムド・アルガムフィア。やってくれたな。我が国の国民達、貴族達の命までもを奪うつもりだったとは」
ランドロフが怒りを滲ませた声音でイルムドへ視線を向けると、イルムドは取り押さえられた体制のまま、呪詛を放つような悍ましい声音で言葉を発した。
「このまま皆、命を落としていれば良かったものの……。お前達のような存在価値の無い人間等リスティアーナの糧になってしまえば良かったのだ……っ」
この国の第二王妃の名を軽々しく呼び捨てにしたイルムドの言葉に、それまで端に身柄を拘束されていた国王陛下の体がぴくり、と反応する。
その様子を、ランドロフは苦しそうな表情でちらりと見やるとイルムドに向かって唇を開く。
「我が国の第二王妃……リスティアーナ妃を甦らせる等と甘言で惑わし、悍ましい方法で国王陛下を操り、国民の命を蔑ろにしたな」
「──それの何が悪い?リスティアーナは元々私の物だった。私だけのリスティアーナだったのを、そこの男が奪い去ったのだ。私の物を取り戻そうとして何が悪い?」
「──だから、国王陛下も弑逆したのか」
ランドロフの言葉に、再度周囲がざわめく。
魔法騎士団や、近衛騎士団の者達は勿論、黙って成り行きを見守っていた見物人達が驚きの声を上げる。
先程まで目の前で動いていたのは間違いなく国王陛下その人なのに、その国王陛下が既にこの世の者では無いというランドロフの言葉に混乱が広がっていく。
「だからこそ、イルムド・アルガムフィア。お前は我が王族にも深い憎しみを抱き、根絶やしにしようとしたのだな。私を殺そうとしたが兄上達に邪魔をされた為に兄上達にも手をかけた」
「ああ……そうだな……。国王陛下の次に殺したかったのは貴方だ、ランドロフ殿下。私の愛するリスティアーナが望まぬ子を産んだ。だからそれを無かった事にしようとした、それの何が悪い?邪魔をしようとした者を排除しようとするのが何故悪い?視界に入る目障りな虫を叩き潰すのと同じ事だ。目障りな存在を殺したって、虫を殺したって我々人間は特に罪に問われないでしょう、それと何が違う?」
本当に分からない、と言った表情で言葉を紡ぐイルムドに最早話しは通じない、と判断したランドロフはミリアベルに視線を向けると「拘束を」と一言呟いた。
ラディアンの拘束ではなく、聖魔法でもって完全に動きを封じ込めろと言う意味のそれにミリアベルは聖魔法の拘束魔法をイルムドに発動する。
光り輝く鎖が現れ、イルムドをしっかりと身動き出来ないように拘束すると、それまで拘束していたラディアンがミリアベルに向かって感謝するような仕草をする。
ラディアンにミリアベルが小さく頷くと、それまでランドロフに向いていたイルムドの顔がぐるん、とミリアベルに振り返る。
「──女……!その魔力を私のリスティアーナの為に使え!聖魔法の力があれば、お前の魔力があればリスティアーナを甦らせる事が出来る!この場に居る全員を殺せ!命を奪い、お前の血と魔力を使えばリスティアーナが甦る!」
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