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連載
第百二十五話
しおりを挟む「──ラディアンっ!大司教をしっかり拘束しておいてくれ!」
ノルトの言葉に、強く頷いたラディアンを視界の隅に映しながらノルトは剣を腕に下げたままこれ以上魔道具から魔獣達を転移させない為に魔道具へと駆け寄ると、剣に炎の魔法を付加して魔道具を斬り付ける。
ガシャン、と不快な音を立てて魔道具が壊れた事を確認するとノルトは素早く見物人達の方へと振り返る。
見物人達は、突然現れた魔獣や大型の獣に慌てふためき、恐慌状態に陥っている。
叫び声が至る所から上がり、我先に逃げようと動き始める人間達に飛び掛かろうとしている魔獣の前に、素早く移動したネウスが魔獣の姿をした物の胴体に自分の足で思い切り蹴り付ける。
「──っ畜生!まだ居やがったのか!」
魔道士団の団員達や、魔法騎士団の団員達、近衛騎士団の団員達もそれぞれ討伐にあたるが何分向こうの数が多く、こちら側の団員達の人数が少ない。
ミリアベルは集中して練り上げていた魔力を構築し終わるとその場で勢い良く大規模な防御結界を張り巡らせる。
突然、ホール内に光り輝く壁のような物がミリアベル達が居る場所と、後方の見物人達の間に張り巡らされる。
それは、後方に居る見物人達が居る場所からホールの入口までを強固な防御魔法で覆い尽くし、物理的な攻撃を完全に防ぐ聖魔法の最高位結界である。
「──良くやってくれた、ミリアベル嬢!」
ノルトが、柵を飛び越えながらそう叫ぶと団員達に飛び掛かろうとしていた魔獣を自分の剣で斬り伏せる。
見物人達をも巻き込もうとした大司教の所業はもう誤魔化す事は出来ない。
沢山の人達の目の前で、高位貴族や国民の命までを奪おうとした罪はどう足掻こうとしても誤魔化す事はもう出来なくなった。
第三王子であるランドロフの元には、直ぐさま専属護衛や近衛騎士達が駆け付け、襲い来る魔獣達を何とか倒している事を確認したミリアベルは、次いでランドロフ達が居る場所を防御結界で守る為に聖魔法の発動準備を行う。
ミリアベルのその動きに気付いたノルトは、自分の魔道士団の団員へミリアベルを守るように指示を出す。
「お前達!ミリアベル嬢を守れ──」
「結構です!自分の身は自分で守れますので……!先ずは殲滅を……!」
ノルトのその言葉に従い、こちらに近付いて来ようとした団員達に向かってミリアベルは声を上げると、聖魔法を発動しながらもう片方の腕を振り上げると炎魔法を発動して矢のように細く長く具現化した魔法を変換すると、その複数の炎の矢を自分に向かって来ていた魔獣数体に叩き込む。
そうして、ランドロフのいる場所を防御結界で守る。
ミリアベルの様子を見たノルトは安心したように表情を和らげると、団員達に襲い掛かる魔獣を魔法で倒している。
「──ノルト様、は大丈夫そうね……!ネウス様は……」
そしてミリアベルはネウスの居る方向へ視線を向けて思わず半眼になってしまう。
「──くそが!あの野郎!俺の、下僕を!」
文句を言いながら、その怒りを魔獣のような物や大型の獣にぶつけているようでいつの間に喚び出したのか、真っ黒な剣を片手に持ち獣の顔面を踏み付けると空中に飛び上がり、上空から魔法を放ち近場に居た魔獣や大型獣を殲滅している。
「──ネウス様も大丈夫そうね……あの二人を心配するのは無意味そうだわ……」
ミリアベルはそう呟くと、団員達を抜けて自分へ向かって来る魔獣に向かって聖魔法の矢を複数出現させるとその魔獣に向かって叩き込む。
背後では、ミリアベルの発動した防御結界に守られた見物人達へ向かって獣が攻撃を仕掛けているが、ミリアベルの結界に阻まれて攻撃は全て弾かれている。
「──そうだわ、以前ノルト様と練習した攻撃を弾く聖魔法を重ねがけしたら攻撃をした獣が自動的に倒されてくれないかしら」
ミリアベルはふとそう考え付くと、そちらの方向へ向かって聖魔法を放つ。
防御結界に反射結界を重ねがけしたが、上手く出来ているだろうか。
様子を確認してみると、見物人達に向かって飛びかかった魔獣が、そのままバチン!と酷い音を立てて弾かれ、そのまま地面へとどさりと落ち動かなくなる。
「──わ……」
「明らかにあの時より威力が上がっているな、ミリアベル嬢」
「ノルト様っ」
いつの間に自分の側にやって来たのだろうか。
隣に剣を片手に握り下げたままノルトが立っており、驚いたように笑っている。
「他の方は大丈夫ですか?」
「──ああ。ロザンナ殿も参加してネウスと暴れているからある程度片付いて来たよ」
ノルトはそう言うと、ネウス達の方へ視線を向ける。
ミリアベルもその視線が向けられた方向へ顔を向ければ、ロザンナもネウスと離れた場所で魔法を放ち魔獣達を倒している。
戦闘は苦手だ、と言っていたがある程度の戦いは出来るのだろう。
ネウス程傍若無人に暴れ回っている訳ではないが、人間が襲われそうになる度に手助けをし、自分が攻撃されない距離を保ち上手く立ち回っている。
視野が広いのだろう。
カーティスの浮かれ具合が酷く、見ていられない。
「──っ、ミリアベル嬢っ」
「……あっ!」
ノルトから声が上がると同時、ぐっと腰を引かれて抱き寄せられるとそのまま横に跳ぶ。
ノルトもいつの間にか身体強化の魔法を自分に掛けていたのか、軽々とその場を跳んで場所を移動すると、ミリアベル達が居た場所に飛び掛って来ていた魔獣が大きく開いた口をガチン、と音を立てて閉じた。
ミリアベルは聖魔法で光の矢を生み出すと、生み出されたミリアベルの矢に、ノルトが自分の雷魔法を乗せる。
討伐任務で救援に向かった時のように複合魔法を発動すると、その場から自分達に向かって来る魔獣や、団員達に襲い掛かる大型獣に向かってその魔法を放った。
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