あなたの事はもういりませんからどうぞお好きになさって?

高瀬船

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第百二十二話

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軍規違反を犯し、連行されて来た人数は総勢24名。
その内の5名は治癒魔法の使い手で半強制的に同行を強いられた者。
残りの17名の内、見知ったベスタとティアラの姿を視界に入れたミリアベルはそっと二人から視線を外した。

連行されて来た者達は皆手首を縄で縛られ、魔法を使用出来ないよう魔道具を上からはめられて腰縄を付けられている。
今回の軍規違反の切っ掛けとなったティアラを先頭に、ベスタ、学院の生徒達と続き最後に治癒魔法の使い手達が続いている。
治癒魔法の使い手達は顔色を真っ青にして俯き、涙を流している。

だが、ティアラやベスタは焦点の合わない瞳で虚空を見つめ、何事かをぶつぶつと呟きただ促されるまま歩いている。
ベスタの後に続いている学院の生徒達は、意識が混濁して歩くのもやっとな者も居れば、未だに反抗的な態度で暴れている者、──そして自分の仕出かした事がどれだけ重大な事だったのかを今更自覚して謝り続ける者が一人居た。

その異質な光景に、国民や貴族達の見物人は初めは憤りを抱いていたようだが、洗脳や信者化の成れの果てを自分の目でしっかりと見てしまい、顔色を悪くしている。

ざわざわと周囲から戸惑いの声が上がる中、魔道士団の団員達の中に紛れ込んでいるネウスが興味深そうにミリアベルとノルトに話し掛けた。

「──殆どぶっ壊れてると思ってたが、あの女の魔力を多量に体内に取り込んでなかった奴は洗脳……信者化が解けてきてるな?」

ネウスの言葉にノルトは勢い良く振り返ると小声でネウスに言葉を返す。

「──本当か……!それならば、ティアラ・フローラモの魔力の侵食が深くなければ、信者化は自然に解けると言う事か……っ」

これは朗報だ。
実際、市民達の間でもこの現象が起きた事で戸惑いが広がったのだろう。
ティアラとそこまで触れ合いの無かった市民達だからこそ洗脳が薄く、信者化しなかった。
結果的に、ティアラの核を破壊してくれたネウスのお陰でこの国はあと一歩の所で助かったのかもしれない。

「それならば、陛下は手遅れではあるが……侵食の度合いによっては王太子と第二王子を助ける事が出来るかもしれないな」
「それでしたらこの後、ランドロフ殿下にお伝え致しましょう……!」

ノルトの弾む声にミリアベルも嬉しそうに微笑みながら言葉を続ける。
光明が見えた気がする。まだ、侵食が進んで居なければ元の王子達に戻れる可能性がある。
戻れる可能性が少しでもあるのであれば、ミリアベルはいくらでも協力するつもりだ。

ノルトも嬉しそうにミリアベルに微笑み返すと、そこでこの軍法会議の軍事司法権を持つ機関の人間が姿を表した。

この国では軍規違反を犯した者を裁く為の専門的な資格を持った者達を集めた機関がある。
実際の魔道士団の団長や魔法騎士団の団長、近衛騎士団の団長達の報告や意見を聞き、その機関に所属している者達が最終的な裁きを下すのだ。
その為、団長であるノルトやラディアン達は機関の人間が姿を表した事を確認すると自分達の席へと向かう。

「──ミリアベル嬢、ネウスを頼む」
「任せて下さい」

ノルトは心配そうにネウスを一瞥して二人から離れて行った。

「──ったく、俺だって時と場合を考えて暴れるっての。今は隠れてんだからそんな無茶はしねぇよ」
「ふふ、ネウス様は目立つからノルト様も心配だったのですよ、きっと」

ミリアベルとネウスが小声でやり取りをしていると、重い雰囲気の中、軍法会議が始まった。





複数の機関の人間の内、一番上段に設置された椅子と机に腰掛けたのがこの軍法会議の一番の責任者だろう。
そして、上段にはその人間しか座らず物々しい柵が作られ、その柵の前に二名の男達が書類を手にして立っている。

ノルト達は左右に場所を作られ、魔道士団の団長と魔法騎士団の団長は右、近衛騎士団の団長は左にそれぞれ用意された席に座っている。
席の前には同じように柵が設置されており軍法会議にかけられている人物が暴れ危害を加えないように配慮されているようだ。
そして、軍法会議に掛けられる者達が左右に別れた中央の空間に立たされ、ミリアベル達のような団員達は中央の空間と区切りを付けるように柵が設置されたその奥に控えている。

国民や貴族達のようなこの軍法会議の見物人達はミリアベル達の更に後ろに距離を取った場所でこの会議を見守っている。

しん、と静まり返っているホール内に書類を手に持っている男の内、一人が声を発した。


「ティアラ・フローラモ子爵令嬢。貴女はこの度の討伐任務にて治癒魔法の使い手として参加し、命令が出ていないにも関わらず戦闘中である中衛部隊へと乱入し、場を混乱に陥れ、また臨時団員である16名の者達を悪戯に戦闘が行われている中衛へと誘導した罪が報告されている。また、その後は和解し魔道士団のノルト・スティシアーノ団長と同盟を結んだ魔の者の王であるネウス殿に襲い掛かったと聞き及んでいる。相違ないか?」
「──……」

男の声に反応を見せず、ぼうっと虚空を見つめるだけのティアラに男は表情を歪めると続けて言葉を続ける。

「──心身損失状態と聞き及んでいるが、無言は肯定と取る。……相違ないか?」

男の声にぴくりとも反応を示さないティアラに、不気味さを感じているのだろう。
ミリアベル達の背後にいる見物人達が再度戸惑いを隠せないようにざわめいた。
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