あなたの事はもういりませんからどうぞお好きになさって?

高瀬船

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第百二十話

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ランドロフの侍従はノルトへ手紙を渡し、伝言を伝え終わると頭を下げてその場から去って行く。
早歩きで戻る侍従の姿から、ランドロフの周囲も慌ただしく動いているのだろう、と言う事が察せられる。

ノルトは深い溜息を吐きながら、扉を閉めてしっかりと施錠まで行うと部屋全体に念の為防音結界を掛ける。
王城内の慌ただしさから、ミリアベルとノルトにまで気が回らないだろう事は予測出来るが万一の事に備える。
軍法会議の前に、魔の者の王であるネウスの存在をこの場で悟られるのはよろしくない。

ノルトは乱雑に自分の前髪をかき上げるとランドロフからの手紙を開封する。
侍従の姿が無くなり、室内に再び姿を戻したネウスやロザンナも興味深そうにノルトの手の中にある手紙に視線を向けた。

「──で、ランドロフのぼっちゃんからは何て連絡が来てんだ?」
「……やはり、軍法会議の件について、だな。それと勝手に動いた事への謝罪も記載されているが、もう仕方ない。動いてしまったのはどうしようもない」
「それで、軍法会議はいつになる、などの言葉が記載されているのですか……?」

ミリアベルの言葉に、ノルトは手紙から視線を上げるとミリアベルとネウスに視線を向けて唇を開いた。

「──ああ。やはり、軍法会議が開かれるのは明日。時刻は昼前だ」











その手紙が届いてからは、軍法会議で裁くに必要な証拠の確認や、やはり王都で発生した小さい暴動の数々の処理に駆けずり回り、慌ただしくその日を過ごした。
暴動についてはカーティスから事後報告、と言う形で報告が上がって来るがその処理でも時間を割く事になり、忙しさに目が回る。

その為に、現在の国王陛下や王太子や第二王子の状態を確認する時間も無く、教会の大司教の動向を確認するにも自ら赴く事も出来ずにただただ報告を受けるのみとなってしまう。

そして、国の機関が一時的に麻痺してしまっている事から臨時的に軍事面は魔法騎士団と魔道士団の団長達へ指揮権が移り、その対応にも追われる。
王族や要人の警護を行う近衛騎士団もこの混乱の渦中に居るため頼る事は出来ない。

「──くそっ、一段落着いたら絶対に長期休暇を申請してやるからな……!」

ノルトにしては珍しく言葉を荒らげてそう小さく叫ぶ姿を見て、ミリアベルはネウスと共に洗脳の魔法について確認していたがノルトへと近寄ると暖かい紅茶をそっと用意し、ノルトの前に置く。

「ノルト様、全部終わったら皆でゆっくり休みましょうね……!」
「──うちの国にも、景色のいい所あるぜ!」

ノルトは、自分を気遣ってくれるミリアベルとネウスに力なく笑い返すと、お礼を告げた。








慌ただしくその日を過ごしている内に、いつの間にか寝落ちてしまったのだろうか。

ふ、と意識が浮上してノルトはぱちりと瞳を開けた。
室内が真っ暗になっていて、窓の外に視線を向ければ日はとうに暮れていて真夜中なのだろう事が分かる。

「──っ、……?」

気付かぬ内にソファに横になってしまっていたのだろう。
ノルトは体を起こそうとして、そこでギジリ、と体が固まってしまった。

(ミリアベル嬢……!何で──!)

自分が横になっているすぐ隣にミリアベルが座っていて、ミリアベルも寝てしまっているのだろう。
かくり、と頭が下がっている。
そして、ノルトは自分の後頭部にある柔らかい感触に自分の頬が真っ赤に染まって行くのを感じる。

柔らかい、と感じたのは当たり前でノルトの頭の下にはミリアベルの脚があり、おかしな体制で寝てしまう所だった自分の体をミリアベルが気遣ってくれたのだろう事が分かる。

そう、理解するとノルトは自分の心の中が何とも言えない暖かい感情に包まれるのを感じる。
討伐任務に出てから、予想外の事が起きすぎていてとても久しぶりにこんなにじっくりとミリアベルの顔を眺めた気がする。

(ミリアベル嬢も疲れているだろうに……隈が出来ている……)

ノルトは無意識の内に自分の腕を持ち上げると、そっとミリアベルの閉じられた瞳の下を自分の親指で優しくなぞる。

「──んん、」
「……っ」

その瞬間、こそばゆさを感じたのか、ミリアベルが小さく呻くような声を上げてノルトはばっと自分の手を離した。

「──寝ている女性に触れるなんて、何て事をしてるんだ俺は……っ」

ノルトは下げた自分の腕で顔を覆うと耳まで赤く染めて唸る。
室内が真っ暗で良かった、とノルトは小さく感謝するとミリアベルに膝枕をして貰っていた体制から起き上がる。

すると、向かいのソファにはネウスが寝転ぶように体を預けて寝息を立て、ロザンナはそのネウスの足元ですうすうとこれまた寝入っている。

「──皆に負担を掛けてしまったな……」

だが、それも明日で全て片がつくだろう。
ノルトはソファから立ち上がると室内の奥へと視線を向ける。

この部屋は元々王城内で客室として作られている部屋だ。
その為に、一人分のベッドもある。
ノルトはミリアベルを起こさないようにゆっくりと丁寧に自分の腕で抱き上げると、ベッドの方向へと向かい足音を立てないように気をつけながら歩いて行く。
ベッドに辿り着くと、ミリアベルをそっと下ろして掛け布をかけてやると寝入っているミリアベルの瞼に掛かっている髪の毛をそっとどかしてやる。
ノルトはそのままミリアベルの頭を撫でてやると、明け方までの数時間自分ももう一度睡眠を取るためにソファへと戻り、横になった。
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