66 / 80
連載
第百二十話
しおりを挟むランドロフの侍従はノルトへ手紙を渡し、伝言を伝え終わると頭を下げてその場から去って行く。
早歩きで戻る侍従の姿から、ランドロフの周囲も慌ただしく動いているのだろう、と言う事が察せられる。
ノルトは深い溜息を吐きながら、扉を閉めてしっかりと施錠まで行うと部屋全体に念の為防音結界を掛ける。
王城内の慌ただしさから、ミリアベルとノルトにまで気が回らないだろう事は予測出来るが万一の事に備える。
軍法会議の前に、魔の者の王であるネウスの存在をこの場で悟られるのはよろしくない。
ノルトは乱雑に自分の前髪をかき上げるとランドロフからの手紙を開封する。
侍従の姿が無くなり、室内に再び姿を戻したネウスやロザンナも興味深そうにノルトの手の中にある手紙に視線を向けた。
「──で、ランドロフのぼっちゃんからは何て連絡が来てんだ?」
「……やはり、軍法会議の件について、だな。それと勝手に動いた事への謝罪も記載されているが、もう仕方ない。動いてしまったのはどうしようもない」
「それで、軍法会議はいつになる、などの言葉が記載されているのですか……?」
ミリアベルの言葉に、ノルトは手紙から視線を上げるとミリアベルとネウスに視線を向けて唇を開いた。
「──ああ。やはり、軍法会議が開かれるのは明日。時刻は昼前だ」
その手紙が届いてからは、軍法会議で裁くに必要な証拠の確認や、やはり王都で発生した小さい暴動の数々の処理に駆けずり回り、慌ただしくその日を過ごした。
暴動についてはカーティスから事後報告、と言う形で報告が上がって来るがその処理でも時間を割く事になり、忙しさに目が回る。
その為に、現在の国王陛下や王太子や第二王子の状態を確認する時間も無く、教会の大司教の動向を確認するにも自ら赴く事も出来ずにただただ報告を受けるのみとなってしまう。
そして、国の機関が一時的に麻痺してしまっている事から臨時的に軍事面は魔法騎士団と魔道士団の団長達へ指揮権が移り、その対応にも追われる。
王族や要人の警護を行う近衛騎士団もこの混乱の渦中に居るため頼る事は出来ない。
「──くそっ、一段落着いたら絶対に長期休暇を申請してやるからな……!」
ノルトにしては珍しく言葉を荒らげてそう小さく叫ぶ姿を見て、ミリアベルはネウスと共に洗脳の魔法について確認していたがノルトへと近寄ると暖かい紅茶をそっと用意し、ノルトの前に置く。
「ノルト様、全部終わったら皆でゆっくり休みましょうね……!」
「──うちの国にも、景色のいい所あるぜ!」
ノルトは、自分を気遣ってくれるミリアベルとネウスに力なく笑い返すと、お礼を告げた。
慌ただしくその日を過ごしている内に、いつの間にか寝落ちてしまったのだろうか。
ふ、と意識が浮上してノルトはぱちりと瞳を開けた。
室内が真っ暗になっていて、窓の外に視線を向ければ日はとうに暮れていて真夜中なのだろう事が分かる。
「──っ、……?」
気付かぬ内にソファに横になってしまっていたのだろう。
ノルトは体を起こそうとして、そこでギジリ、と体が固まってしまった。
(ミリアベル嬢……!何で──!)
自分が横になっているすぐ隣にミリアベルが座っていて、ミリアベルも寝てしまっているのだろう。
かくり、と頭が下がっている。
そして、ノルトは自分の後頭部にある柔らかい感触に自分の頬が真っ赤に染まって行くのを感じる。
柔らかい、と感じたのは当たり前でノルトの頭の下にはミリアベルの脚があり、おかしな体制で寝てしまう所だった自分の体をミリアベルが気遣ってくれたのだろう事が分かる。
そう、理解するとノルトは自分の心の中が何とも言えない暖かい感情に包まれるのを感じる。
討伐任務に出てから、予想外の事が起きすぎていてとても久しぶりにこんなにじっくりとミリアベルの顔を眺めた気がする。
(ミリアベル嬢も疲れているだろうに……隈が出来ている……)
ノルトは無意識の内に自分の腕を持ち上げると、そっとミリアベルの閉じられた瞳の下を自分の親指で優しくなぞる。
「──んん、」
「……っ」
その瞬間、こそばゆさを感じたのか、ミリアベルが小さく呻くような声を上げてノルトはばっと自分の手を離した。
「──寝ている女性に触れるなんて、何て事をしてるんだ俺は……っ」
ノルトは下げた自分の腕で顔を覆うと耳まで赤く染めて唸る。
室内が真っ暗で良かった、とノルトは小さく感謝するとミリアベルに膝枕をして貰っていた体制から起き上がる。
すると、向かいのソファにはネウスが寝転ぶように体を預けて寝息を立て、ロザンナはそのネウスの足元ですうすうとこれまた寝入っている。
「──皆に負担を掛けてしまったな……」
だが、それも明日で全て片がつくだろう。
ノルトはソファから立ち上がると室内の奥へと視線を向ける。
この部屋は元々王城内で客室として作られている部屋だ。
その為に、一人分のベッドもある。
ノルトはミリアベルを起こさないようにゆっくりと丁寧に自分の腕で抱き上げると、ベッドの方向へと向かい足音を立てないように気をつけながら歩いて行く。
ベッドに辿り着くと、ミリアベルをそっと下ろして掛け布をかけてやると寝入っているミリアベルの瞼に掛かっている髪の毛をそっとどかしてやる。
ノルトはそのままミリアベルの頭を撫でてやると、明け方までの数時間自分ももう一度睡眠を取るためにソファへと戻り、横になった。
12
お気に入りに追加
7,552
あなたにおすすめの小説
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます
冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。
そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。
しかも相手は妹のレナ。
最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。
夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。
最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。
それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。
「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」
確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。
言われるがままに、隣国へ向かった私。
その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。
ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。
※ざまぁパートは第16話〜です
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
妹がいなくなった
アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。
メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。
お父様とお母様の泣き声が聞こえる。
「うるさくて寝ていられないわ」
妹は我が家の宝。
お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。
妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?
決めたのはあなたでしょう?
みおな
恋愛
ずっと好きだった人がいた。
だけど、その人は私の気持ちに応えてくれなかった。
どれだけ求めても手に入らないなら、とやっと全てを捨てる決心がつきました。
なのに、今さら好きなのは私だと?
捨てたのはあなたでしょう。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。