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第百十九話

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ノルトは王城で与えられた自室から握り潰した新聞を手に急いでミリアベルとの訓練を行う部屋へと急いで向かう。

「──下手をすれば王都で暴動が起きるぞ……!」













──ばたん!
と大きな音を立ててノルトが訓練部屋へと駆け込むと、室内には既にミリアベルとカーティスが居たようで、慌てた様子のノルトに驚き、目を見開いている。

「ノルト、様……?どうしたんですか……!?」
「ランドロフが強硬手段に出た……っ、早ければ明日にでも軍法会議が開かれる……!」

ノルトはカツカツと踵を鳴らしながら二人に近付き、カーティスに向かって新聞を放り投げると、慌ててカーティスがその新聞を受け取り、新聞の中身に目を通す。

そして、カーティスがその文章を目で追っていく度に顔色が悪くなって行く。

「軍法会議が明日……!?ちょ、ちょっと待って下さい……っ、何がどうなってこんな事に……!?」
「ランドロフ殿下が動いたんだ、しかもかなり派手に教会の不正を明かした為下手をすれば市民の不満が全て教会へと向く……!確かに大司教を追い詰める事には成功したとは言えるが、無実の人間が教会に居る為その人間にまで悪意が向く可能性がある」

ミリアベルの言葉にノルトが苦々しくそう言葉を紡ぐと、カーティスが慌てたように唇を開く。

「これ、ランドロフ殿下めっちゃキレてるって事だよな!?その流れのまま本当軍法会議まで力ずくで通すんじゃないか?」
「──まあ、そうなるだろうな……。だが、それよりも今は優先させる事がある」
「優先……?」

ノルトの言葉に、ミリアベルとカーティスがきょとんとした表情を浮かべると、ノルトは呆れたような顔をしてカーティスに視線を向けた。

「暴動が起きる可能性がある、と言っただろう?俺はミリアベル嬢と共にこの場所から離れられない……」
「──げっ」

ノルトの言いたい言葉が分かったのか、カーティスははっと目を見開くと、嫌そうに表情を歪める。

「──これから魔道士団の宿舎に戻り魔法騎士団の団長、ラディアンと連携を取りながら市民の暴動を抑えてくれ」
「りょーかい、団長」

ノルトの言葉にカーティスは返事をすると腰掛けていたソファから立ち上がり「じゃあ行ってきますよ」と言葉を残して部屋から退出して行った。

そのカーティスの後ろ姿を見送りながら、ミリアベルはノルトに視線を向けると唇を開く。

「何だか……大変な事をカーティスさん一人に対応して頂いて……大丈夫でしょうか……?」
「──ああ。カーティスならラディアンより戦闘面では力があるから万が一暴動が起きても鎮圧は可能だし、心配しなくて大丈夫だよ。……それよりも、こちらはこちらでネウスが来たら軍法会議での立ち回りについて話を詰めておこう、ミリアベル嬢」

眉を下げて、ミリアベルにそう話し掛けるノルトにミリアベルも表情を引き締めると頷いた。


国内の貴族や市民にも教会の犯した罪が第三王子によって暴かれた。
それに伴い新聞の内容には、国王陛下の罪にも言及している。
操られていたとは言え、教会の口車に乗り私欲の為に奇跡の乙女を作り出し、国民の命を軽んじていた事は白日のもとに晒された。

最早、軍法会議とは言え参列者は国の貴族上層部や魔法騎士団、魔道士団の上層部だけの参列には収まらないだろう。
注目を浴びた事から教会関係者の身内や最悪の場合、国民まで押し掛けてくる可能性がある。

その人々を室内に収める事も考えねばならないし、関心を持ち参列する高位貴族達の席も用意しなければならないだろう。
人が増えればそれだけ警備の者を増員しなければならない。

その事を考えて、ノルトは頭が痛くなる。
王城は今現在、蜂の巣をつついたような大騒ぎだろう事は想像出来る。
まさか、王族が教会が悪事に手を染めていたと言うのは国がひっくり返ってしまう可能性がある。
内部で騒がれている内に、この騒ぎを収束させなければ、外からの攻撃に備える事は出来ない。

「──軍事面も最悪見直さなければいけないな……」

ノルトが呟いた瞬間、ミリアベルとノルトの居る部屋の扉が開いてネウスが姿を表した。






「この城の中は大変な騒ぎになってるな?」
「──そうだろうな」

愉しそうに笑みを浮かべて開口一番そう言葉を放つネウスに、ノルトはじっとりとした視線を向けて答える。

「まさか、あのぼっちゃんがここまで大胆な手を取るとは思わなかったぜ?」

ランドロフの事をぼっちゃん、とからかい混じりにそう呼ぶと、「見直したけどな」と呟きソファへと腰を下ろす。
ネウスの後ろからはここ数日見慣れた姿のロザンナが続けて部屋に入ってきて、違和感を覚えたのか一瞬周囲に視線を巡らせたが、表情を変える事なくそのままネウスの背後に立つ。

「で、だ。この騒ぎが起こされちまったならもう軍法会議ってのはすぐに開かれるんだよな?」
「ああ。恐らく……時間との勝負だからな。国内でぐだぐだとしていれば国が荒れる。国内が荒れたら外から攻める機会を作ってしまうからな……早ければ明日だろう」

ノルトがネウスの言葉にそう返した時、ミリアベル達が居る部屋の扉がこんこん、と音を立てて叩かれた。
ネウスとロザンナは素早くその場から姿を消すと、ソファから腰を上げたノルトが扉へと足を向け歩いて行く。

「──何か?」

扉を開けてノルトが顔を出すと、扉の前に居たのはランドロフの侍従であり、何度か顔を見た覚えがある。
ランドロフの侍従は、ぴしっ、とその場で背筋を伸ばすとランドロフから預かった手紙を持ってきた、とノルトに説明しそのままノルトの手にその手紙を渡した。




「殿下から、ご伝言です。"勝手に動いて悪い"と」
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