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連載
第百十八話
しおりを挟む子供の頃から良く遊んでもらっていた。
母親であるランドロフの第二王妃が亡くなった後は特にランドロフを心配し、励ましてくれたし、側にもいてくれた。
そんな優しい兄達だったのに、ランドロフはその兄達をすっかり気に掛ける事も無くここ数年過ごしてしまっていた事を思い出してしまい、悔しさや自分の愚かさに必死に嗚咽を上げないように唇を噛み締めた。
「ランドロフ殿下……」
ノルトが、ソファに深く腰掛け項垂れるランドロフに小さく声を掛け、そっと背中に自分の手を置いてやると、ランドロフは耐えきれず胸中の感情を吐露する。
「──ノルト……っ、私は、父上の様子が可笑しい事をノルトより先に兄上達に相談していたのだ……っそして、兄上達も協力してくれて、探ってくれていた……っ毎夜、お互いの意識に変化が無いか、情報を得られたかどうかの確認をしてた……っ」
「それ、は本当ですか殿下……!」
ノルトの言葉にランドロフは何度も頷く。
頷いた拍子に、ランドロフの瞳からはぽとぽとと涙が床に落ち悲痛な叫びが耳に痛い。
「ああ、そうだ──……っ。だが、途中恐らく大司教が怪しいと気付いた兄上達が、もう私にはこの場所に来てはいけない、と仰った……!始めは違和感を覚えていたのだが、日が経つにつれて私もその事をすっかり忘れ、今の今まで兄上達との約束を……っ」
「そんな精巧な洗脳が……」
はたして出来るのだろうか。
ノルトはふと頭の隅に浮かんだその言葉に、戸惑いながらネウスに視線を向けた。
ノルトから視線を受けたネウスは、ノルトの考えている事を察したのだろう。
暫し考えるような素振りをしてからぽつり、と呟いた。
「──まあ、可能だろうな」
ネウスの言葉に、隣に居るロザンナもこくりと頷く。
「ええ。洗脳自体……精神干渉の部類ですから。その道に長けているのであれば対象を絞り、その部分にだけ無頓着にするような洗脳の掛け方は可能でしょうね」
人を甦らせようとしてたくらいですから、それに付随する研究結果の派生で編み出したのでしょう。とロザンナが感情の読み取れない声音でそう告げる。
「──このような外道な、人として道を外した人間をこれ以上のさばらせてはいられまい……っ」
ランドロフは自分の目元をぐいっと拭うと、ノルトに視線を合わせたまま、強い視線をノルトに送り、言葉を続ける。
「何が何でも、近日中に軍法会議を開けるように私が何とかしよう。ノルト達は軍法会議で裁く人間の罪状、証拠をしっかりと用意しておくように。大司教もその場に同席するように仕向ける」
「……ランドロフ殿下、お申し出は有難い限りですが決してご無理はなされないよう」
気遣うようなノルトの視線と声音に、ランドロフはくしゃり、と表情を歪めて笑うと「問題ない」と言葉を発した後、深く息を吐き出すとソファから立ち上がる。
「私はやる事が出来たのでこれで失礼する。申し訳ないが、今日この場で話す予定だった事は後程纏めて、私の執務室に報告書として上げておいてくれ」
「承知致しました」
ノルトが返事をすると、ランドロフは部屋の入口へと真っ直ぐ進んで行く。
途中、ノルトと同じく気遣うように視線を向けたミリアベルにランドロフは眉を下げて情けなく笑みを向けるとそのまま扉を出て行った。
ぱたり、と扉が閉まる音が響き、その場に満ちていた緊張感が僅かに緩む。
深く息を吐き出して、ノルトの隣に力なく座るカーティスが勘弁してくれよ、と小さく言葉を零す。
「──王族がほぼやられてる何て想定外だぞ、畜生……っ」
「ああ……唯一無傷に近かったのはランドロフ殿下のみだ……王太子や第二王子殿下は生きてはいるが傀儡状態か……?それとも最悪陛下のように──」
弑逆されているかもしれない。
その言葉を続ける事が出来ず、ノルトが押し黙ってしまうとその場には嫌な雰囲気が流れる。
その空気に耐えられなくなったかのようにネウスは「あー……」と声を上げると、ノルトの正面に座り、がりがりと頭をかきながら唇を開いた。
「取り敢えず俺達がやれる事を準備してランドロフを待つしかねぇだろう。入手した証拠の静止画や、洗脳されていた奴らからの証言、あの女と男をある程度喋れるようにしなきゃならねぇだろ。やる事は山ほどある。ミリアベルの精神干渉を解除する魔法で掛かりの薄かった奴らを解除しつつ証拠纏めをした方がいい。ロザンナも手を貸せよ」
「ネウス様のご命令でしたらいくらでも」
ネウスの言葉にミリアベルとノルト、カーティスは強く頷くと軍法会議までに全ての証拠を整理する事にした。
しっかりと証拠を提出し、言い逃れが出来ないようにしなければならない。
そして、この日から二日後。
王家から──第三王子、ランドロフの功績で市民の間に起こっていた異変が教会主導で洗脳が行われ、その洗脳が解けた事による意識の混濁、違和感、感情の変化を齎している、と正式に発表された。
その発表は、市民を中心に貴族達の間にもあっという間に広がり、正式な発表の新聞の他にも市民達の間で発行されている娯楽新聞にも瞬く間に取り上げられ、市民達の怒りは自然と王家ではなく、教会へと集中した。
その新聞をぐしゃり、と自室で握り締めたノルトは口端を持ち上げ酷薄さを隠しもせず笑みを浮かべると小さく呟いた。
「──やってくれたな……!ランドロフは教会を潰すつもりだ……!」
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