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第百十五話
しおりを挟むロザンナは、言葉を放つとその証拠とでも言うようにベスタの体内から抽出したティアラの魔力を自分の手のひらにふわり、と浮かべる。
真っ白に輝く事から、五元素魔法のどれでもない事がしっかりと分かる。
ネウスは、徐にミリアベルの方へと歩いて行くとミリアベルの周囲に溢れていた魔力を絡めとると、次にティアラの方へと近付きロザンナが行ったようにティアラの顔をネウスは自分の手のひらで鷲掴み、ティアラの体内に僅かに増えていたティアラの魔力を抽出する。
「きゃあぁぁぁぁあ!」
拘束された状態で、その苦痛から逃れたい一心でティアラは足をばたつかせるがネウスに抑え込まれていて、抜け出す事は出来ない。
「──取れた」
ネウスがぽつり、と呟くとティアラから抽出した魔力を自分の手のひらに浮かべる。
「こっち、がミリアベルの溢れ出てる魔力で、こっちのがこの女の魔力だ。見るからに質が違うのが分かるだろう。魔力の輝きが違う」
「──本当、だな……。同じ聖魔法の魔力でもここまで違うのか……」
ノルトが関心したようにまじまじとネウスが可視化させた魔力を見つめる。
ネウスが言うように、確かにミリアベルの魔力の輝きと、ティアラの魔力の輝きには大きな違いがある。
ミリアベルの魔力の輝きはキラキラと神々しい輝きに対して、ティアラの魔力は光ってはいるが、その光も弱々しく頼りない。
「だろ……?それで、ロザンナがあっちの男の体内から抜き出した魔力は誰のだろうな?」
「こちら、ですね。ネウス様の片手にある魔力の光とまったく同じですね?」
「わざわざ見えるようにやったのは、映像記録の魔道具に納める為か……何だか悪いな」
ネウスとロザンナの対応に、ノルトは有難いと礼を述べると証拠として一連の流れをしっかりと魔道具に保存する。
魔力を抽出され、息を絶え絶えなティアラとベスタに気遣うような視線を向けるミリアベルにネウスは気付くと、ミリアベルの腕を取りこちらに歩いてこさせると二人が視界に入らないようにする。
「これで、洗脳についての証拠も出来たな?あとは軍法会議ってやつがいつ開かれるかをランドロフに確認すればいいだけ、か」
ネウスの言葉にノルトも頷く。
規定で決められた事を特例的に早めて貰うと言うのはいくら王族でも難しい。
しかも、今現在はまだ国王陛下が何故かは分からないが自分の意識を保っている為、ランドロフが不審な動きをしているという事が国王陛下や大司教に察されてしまえば軍法会議を早める事が出来ない。
「それじゃあ、逆に市民の不安を煽り、教会への不信感でいっぱいになっている今の状況を逆手に利用すればいいんじゃねぇか?ランドロフに解決させて、支持を集めればあいつに文句を付けるモンを黙らせる事が出来るだろ?」
ちょうどタイミング良く、教会への不信感を煽る証拠は手に入った所だしな。
とネウスが面白そうに笑いながらそう言うと、ノルトも確かにな、と言葉を零す。
「洗脳──奇跡の乙女の傀儡化に言及すれば国王陛下への不信感も同じく煽ってしまうだろうが……もう既に沈んでいるような物だ……この後ランドロフが話に来るタイミングでどうにか国民に広めるやり方を考えよう」
ノルトの言葉に、ネウスとミリアベルは頷いた。
ランドロフは、ノルトとの話し合いに間に合うように急いで自分の仕事を捌いていた。
(──遅かれ早かれ、国が揺れるな……兄上達はどうなるのだろうか……)
自分の父親である国王陛下は既に大司教の手によって帰らぬ人となってしまっている。
それならば、大司教にとって次に邪魔な存在は恐らく次の王位継承者である王太子、第一王子だ。
昔は兄弟仲が良く、三人で過ごす事も多かった。
自分の母親である第二王妃が亡くなってしまった後等、塞ぎ込む自分を想い励ましてくれたのは兄達だ。
「そう言えば、いつから会話が無くなってしまったのか……」
ランドロフはそこでふと思い出す。
母親が亡くなった後、暫くは兄達との仲に異変は生じていなかった。
それが、いつ頃からだろうか。
国王の様子がおかしくなってきた、と気付いた時には既にあれだけ交流のあった兄達との交流が目に見えて減って行っていた。
「──待て待て待て、何故……私は今までその事を不思議に思わなかったのだ……?」
そこまで考えてぞっとする。
そう思わないのが普通、のように疑問等持っていなかった。
寧ろそのような考えになど至らなかった。
「これ、が……洗脳……?」
ランドロフは、もしかしたら自分も気付かぬ内に大司教から洗脳されていたのか、と言う事に思い至りぞっとした。
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