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連載
第百十三話
しおりを挟むノルトが訓練部屋へと向かい、扉を開けて中へと入ると既にミリアベルとネウスは室内におり、そしてカーティスに話し掛けられ、それをうんざりとした表情でぞんざいに流しているロザンナも既に部屋に居た。
自分が最後だったか、とノルトは室内に居る面々に向かって唇を開いた。
「悪い、俺が最後だったか」
「ノルト様、おはようございます」
おはよう、と言うには遅い時間になってしまったがノルトはミリアベルに「おはよう」と微笑んで返すと先程ランドロフと話した内容を皆に共有する為にソファへと腰を下ろした。
ノルトの様子に話があるのだろう、と察した皆もソファへと集まりそれぞれ腰を下ろす。
ノルトは、室内に防音結界を張り巡らせるとランドロフから聞いた話を説明した。
途中、何度か王城の使用人が部屋へとやって来るというひやりとした事が何度かあったが、気配に聡いネウスやロザンナがすぐに気付き姿を隠してくれた為、事なきを得た。
そうして何度か中断されながらも最後までノルトの話を聞いたミリアベルが唇を開く。
「市民の間に異変が生じているのは……このまま放っておくと暴動へ発展してしまいそうですね」
不安そうにそう呟くミリアベルに、ノルトも頷いてミリアベルの言葉に続ける。
「ああ。ランドロフ殿下ともその危険性は話し合っていて、今日の午後時間を作って貰いこの部屋で話す予定だ。このまま教会へ不信感を抱かれてしまえば、それはそのまま国──王族への不信感を抱かせてしまう」
「それなら、教会の悪事を早く国民へ知らせ、大司教って奴の独断だって事を証明した方がいいんじゃねぇか?」
「そうだな、証拠も集めたしそれをランドロフ殿下に見せて何か国から教会の不正を暴いた、と言うような流れでランドロフ殿下から発してもらおう。ランドロフ殿下が教会の所業を暴き、……陛下が既に、と言う事も合わせて話せば貴族達もこちら側に着くかもしれない」
ノルトの言葉に、ネウスはふと拘束している奇跡の乙女とベスタの事を思い出し、隣に居るロザンナへと視線を向ける。
「──そう言えば、そっちに送った男女のセットはどうなってる?あれから完全に壊れたか?」
ネウスの言葉に、ミリアベルの肩がぴくり、と反応する。
その様子を見たノルトはミリアベルを安心させるように肩を何度かぽんぽん、と叩いてやると大丈夫か?と問い掛けるような視線を向けた。
ノルトの視線にミリアベルは苦笑すると「すみません」と言葉を小さく零す。
「──ごめんなさい、不意打ちであの方達の話が出ると……まだ反応してしまうみたいですね」
「……それは仕方ない事だ。婚約期間が長かったのだし、すぐには忘れられないだろう……」
ミリアベルとノルトの会話に不思議そうな表情をしつつロザンナがネウスの言葉に答える。
「ええ……。あの者達ですが、女の方はめそめそぶつぶつと常に何かを呟いておりますので壊れているような様子でもありますね。男は魔獣達のいい訓練相手になってますよ。あまりやり過ぎると死んでしまうので、大怪我一歩手前で終えるよう部下達には通達してます。男もまだ壊れてはいないのではないでしょうか。……何か訳ありですか?」
「あー……。訳ありと言えば訳あり、か……。男はそこの、ミリアベルの元婚約者で、女はその婚約者が心酔している奇跡の乙女様っつーモンらしいぞ」
「──奇跡の乙女?あれが?それ程の魔力の痕跡も無かったですが、あんな者を人間達は讃え心酔していたのですか?」
世も末だ、と言うように呆れたような表情でロザンナがネウスに言葉を返す。
そのロザンナの言葉にネウスは軽く肩を竦めると苦笑した。
「それに、ミリアベルの元婚約者、と言う事はあの男は婚約者が居ながら他の女に目移りしていたと言う事ですか……。人間は二心ある者が多いのですかね……我々の種族では考えられない。欲を出したら八つ裂きにされる程なのに……」
気楽でいいですね、と呑気にネウスと会話をするロザンナにミリアベルとノルトは何とも言い難い表情をする。
徐々に洗脳が深まっていったとは言え、確かに婚約者が居ながらベスタが他の女性に目移りしたのは確かだ。
学院ではそんな人間達が複数居たのは事実なので何とも言い難い。
恐らく、奇跡の乙女の信者の中でミリアベルのように婚約者が居た者もいただろう。
その者達も恐らくミリアベルとベスタの関係のように婚約は無かった事になっているであろう事は想像にかたくない。
ロザンナの言葉に、向かいに座っていたカーティスは笑顔で唇を開く。
「俺がもしそんな事をしたら八つ裂きにしてもいいからね、ロザンナさん」
「──お前などいらん。……」
ネウスはロザンナに雑に扱われるカーティスに笑いを耐えながらミリアベルとノルトに視線を向けて、問う。
「……で、だ。奇跡の乙女の洗脳が真実だと言う証拠も必要だろう。ここにいるロザンナは俺と共に人間の魔力の研究を行っていて、俺よりのめり込んで研究してるからそっち方面は俺より詳しいだろうから、この場で確認する。ミリアベルとノルトも確実な証拠が必要だろう」
「ああ。それならば映像記録の魔道具も使用する。……ミリアベル嬢、いいか?」
「ええ、大丈夫です」
ノルトの気遣うような視線にミリアベルは微笑みながら力強く頷くと、二人のやり取りを確認したネウスがこの室内にティアラとベスタを転移させる為、転移魔法を発動させた。
ぱぁっと白い光が室内に満ちたと思えば、次の瞬間「きゃあっ!」とか細い女性の声が聞こえ、その後すぐ床に落下するような音が聞こえた。
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