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第百七話
しおりを挟む「ネウス様、足元に切れ込みがありますっ!」
「あ?俺の足元?」
ミリアベルの言葉にネウスは怪訝そうな表情をしながら足元を確認する。
ネウスが確認すると、確かにミリアベルの言う通り自分の足元に細い線で長方形を型どるような切り込みが入っていて、ネウスはその長方形の形の真ん中あたりに立っていたようだ。
「何だ、これ……」
ネウスは不思議そうにその場で自分の足で床を強く叩くように自分の靴底で床を叩いた。
すると、床を叩いた音が何もないような空間を響くような音を奏でる。
その様子を見ていたノルトは、自分の足元の床も靴底で強く叩いた。
が、ノルトが叩いた時はただの床を叩いた時のような重い音が一瞬上がっただけで、明らかにネウスの足元を叩いた時と音の響きが違う。
「──下に何かあるな。空間、空洞……部屋か?」
ネウスはその場にしゃがみこむと、開く事が出来ないか、とその切れ込みを視線で追うが何か取ってのような物があるようでもなく、簡単に開きそうではない。
ネウスとノルトは、その切れ込みを良く見る為に床にしゃがみ込みその切れ込みに手を這わせて何やらお互い話し合っている。
その様子を見ながらミリアベルは室内に何かその切れ込みに関するような物がないか、と確認する。
ノルトとネウスから離れて室内を確認しに行くミリアベルに気付いたノルトは、視線を上げてミリアベルへ声を掛けた。
「ミリアベル嬢……!何があるか分からない、俺達から離れないでくれ」
「す、すみませんノルト様……っ。何かないかと思ったのですが……」
ノルトの声にミリアベルが慌てて二人の方向へと振り向くと、同じくミリアベルへ視線を向けていたネウスが不思議そうに唇を開いた。
「ミリアベルの後ろにあるのは何だ?」
「──え、後ろですか?」
ネウスの言葉に、ミリアベルが振り向く。薄暗くて見えにくい為生み出した光源を自分の視線の先へと進めると、その光に照らされて見慣れない何かを操作するような機械のような物が目の前に現れる。
「ミリアベル嬢、何があるか分からないから不用意にそれに触れないでくれ」
「俺が見てくるか」
ノルトの言葉に、ミリアベルは伸ばしかけていた自分の腕をぴたり、と止めるとネウスがしゃがみ込んでいた体制から立ち上がるとミリアベルの方へと歩いて来る。
ノルトもネウスに続きミリアベルの方へと近付くと、ネウスがその機械──装置のような物に触れる。
「──何だか良く分からねぇな……さっきの魔道具のように魔力でも流すのか?」
ネウスはぶつぶつと呟くと、試しに自分の魔力をその装置のような物に流し込んだ。
すると。
背後でガコン、と大きな音が鳴る。
三人が驚き弾かれたように背後へ振り向くと、先程ノルトとネウスがしゃがみ込んでいた場所がポッカリと穴が空いていて、ネウスが魔力を流し込んだ物がその場所の開閉装置になっているようだった。
真っ暗なその空間に引き寄せられるように三人は近付いて行くと、その空間を覗き込むようにノルトが地下を確認する。
地下を照らすようにミリアベルが光源を移動させると、ノルトが覗き込んだ先には階段が続いているだけでその先に何があるのかまでは確認出来ない。
だが、ミリアベルは嫌な気配をその先からビシビシと感じており、その先に大司教が「何か」を隠しているのを確信する。
「階段を下らないと分からないな、行ってみよう」
「ミリアベルは真ん中で、最後尾に俺が続く。開閉装置はもう一度魔力を流さねぇと閉じれないみたいだしな」
ネウスの言葉に、ノルトが頷くと階段に足を掛ける。
後方は気配に敏感なネウスが居る為、後ろからの攻撃には備えられるだろう。
ノルトは前方から敵が出て来た時を考えて自分の腰元に下げられた剣をいつでも抜けるように手を添え階段を下って行くが、下に辿り着く間に前方から敵が襲ってくる事は無く、そのまま最下層へと辿り着いた。
「通路の先には一部屋だけ、か」
ノルトがポツリと呟いた声に反応して、ミリアベルはノルトの横から顔を出して通路の先を覗く。
ノルトが言った通り、視線の先には小さめの扉が付いた部屋のような物があるようだ。
薄暗い通路の先、ぽつんとその不格好な扉が浮き出ているように感じてしまい、ミリアベルは背筋に寒気が走る。
この先に、全てを明らかにするような物があるような気がして、ミリアベルは緊張に震える自分の手のひらをぐっと握り締める。
「開けるぞ」
ノルトが緊張した面持ちで、扉の取っ手に手をやり背後に居る二人に硬い声音でそう告げる。
ノルトの後ろでミリアベルとネウスは頷くと、それを確認してノルトは扉を静かに押し開いた。
開かれた扉の先は、小さなこじんまりとした部屋となっていて、真ん中にぽつんと小さな木製のテーブルと椅子が置いてある。
そして、そのテーブルと椅子を囲うようにある壁面にはびっしりと誰か、女性の絵姿が隙間も無いように貼られている。
映っている女性は全て同一人物で、一人で描かれた物のようだ。
その女性は全て笑顔で、部屋の中心地であるテーブルと椅子に座ればその女性の視線や笑顔はその中心地へと向いている事が分かる。
その異質な室内に思わずミリアベルが自分の口元に手をやると、前方にいたノルトがぽつりと呟いた。
「──第二王妃……」
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