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第百二話
しおりを挟む「ミリアベル嬢、どうした!?」
「──あの教会にはやはり何かあるのか、ミリアベル」
後ろから心配するように話し掛けてくるノルトとネウスにミリアベルは振り返るとこくり、と頷き自分が感じた事をノルト達に伝える。
ミリアベルから話された内容に、ノルトはミリアベルから教会へと視線を移す。
だが、いくらノルトがミリアベルが言っていた気配を探ろうとしても何も感じ取る事は出来ない。
隣にいたネウスもじっと教会を睨み付けるように見つめているが、ノルトと同じくその気配は掴めないようで諦めるように瞳を閉じる。
「ミリアベル嬢、その気配がする場所へと向かおう……大司教が残した証拠を手に入れる事が出来るかもしれない」
「ノルトはミリアベルを抱えて走れ。俺は万が一を考えてすぐ攻撃に移れるように両手は空けておきたい」
「──分かった」
ノルトの言葉に、ミリアベルが頷くとネウスがノルトに向かって告げる。
ネウスの言葉には賛成だったのだろう、ノルトは「分かった」と言葉を返すと自分に身体強化の魔法を掛けてミリアベルを抱き上げる。
「俺が先頭を行くからミリアベル、道案内を頼むぞ」
「──ありがとうございます、ネウス様」
「ああ。──気休めかもしれんが、一応認識阻害の魔法を掛けておこう」
ネウスは、自分達に他から認識をずらすような阻害の魔法を掛ける。
自分達の事を良く知らない人間から存在感が希薄になる為、見つかりにくくなる。
夜、と言う事もあり教会内も人気はなくなっているだろうが見つかると面倒な事になるかもしれない。
ネウスは成る可く人の気配がない場所を探りながら、教会の正門ではなく建物の側面から侵入する為そちらの方向へと向かって行く。
丁度人の気配が殆どない場所を見つけ、ネウスはその場所の窓に防音結界を発動すると窓を割り、鍵を空けて室内へと侵入する。
鮮やかな手法に、ミリアベルとノルトが何とも言えないような表情でネウスを見つめているが、ネウスは不思議そうな顔で二人を見つめ直すと「早く来い」と手招きして二人を建物内へと招き入れた。
ネウスを先頭に、室内へと侵入するとミリアベルは先程の不快な気配がどちらの方向にあるのかを瞳を閉じて探る。
自分の肌がざわざわと鳥肌が立ってしまうような不快感。
それの近くには行きたくない、と言うような感覚を探して行く。
「──あった……!ネウス様、南西の方向へ向かって下さい……!」
「南西、こっちか」
ミリアベルの言葉にネウスは頷くとそっと外の気配を確認してから廊下を駆け抜けて行く。
ノルトも、ミリアベルを抱えながら素早く廊下を走り抜け、その間にミリアベルが自分が感じる感覚を頼りに道案内をして行く。
時々人を避けるように遠回りをしながら、何とか教会の関係者と鉢合わせる事なく目的地にどんどんと近付いているのが分かる。
びしびしと負の感情を感じる方、感じる方へと向かう為、ミリアベルは真っ青になりながらネウスに方向を伝えて行く。
そうして、暫くその繰り返しをしていると、教会の端の方、誰も人が足を運ばないような寂しい場所へと辿り着いた。
「──ミリアベル……、本当にここで合ってるのか?ここら辺には何もなさそうだが……」
ネウスが困惑顔で振り向いてミリアベルにそう聞いて来るが、ミリアベルは妙に確信めいた気持ちを抱いていた。
「ノルト様、ありがとうございます……下ろして下さい」
「──え?あ、ああ」
ミリアベルの突然の言葉に、ノルトは戸惑いながらもミリアベルを抱えていた体制から床へと下ろす。
床に下ろされたミリアベルは、先程のネウスの言葉に頷くとそっと壁際へ向かい歩いて行く。
「ええ。この場所で間違いありません。ずっと、ずっとこの先から悍ましい気配を感じてました……ここ、だったのね……」
ミリアベルは目の前の壁に自分の手のひらをぺたり、と付けると上方を見上げるように顔を上げる。
その後に、上方で見つけた微かな切れ込みに視線をぴたりと合わせてその切れ込みをじっと視線で追っていく。
切れ込みは、人一人が通れそうな扉一枚分の形を型どっており、試しにミリアベルが手のひらにぐっ、と力を入れて押してみるがビクともしない。
「──駄目ですね……確かにこの先にあるはずなのですが……動きません。ノルト様とネウス様でこの切り込みのある場所をどうにか開いて頂くのは可能ですか?」
ミリアベルの背後に居た二人が、後ろから覗き込むようにしてミリアベルの手元を見つめる。
そこに、薄らと細い切り込みが入っているのをノルトもネウスも確認すると「これか」と呟いた。
「これだったら俺の魔法で開きそうだな……ミリアベルちょっとどいててくれ」
ネウスがぐっ、と自分の体を乗り出すとミリアベルは後ろへと一歩下がった。
自分の背中を気遣うように支えてくれるノルトに、ミリアベルはお礼を伝えるとネウスに視線を戻す。
力で開けるのでは無く、魔法でどうやって開けるのだろうか、とミリアベルが考えているとネウスは自分の手のひらに魔力を濃縮させて何かの魔法をその扉に向かって放った。
「……、ん……行けそうだな」
ネウスがぽつりと呟くと、先程のミリアベルと同じくぺたりと壁に自分の手のひらを置いた。
ミリアベルとノルトが心配そうに見守る中、ネウスは僅かに腕に力を篭めると、そのままなんて事のないようにあっさりと壁に隠された扉を開けてしまった。
あっさりと簡単に扉が開いた事に、ミリアベルが驚いているとケロリとした様子でネウスが振り向き、唇を開いた。
「何してる?さっさと中へ進むぞ?」
扉の向こうは真っ暗闇で、灯りが無ければ進むのは厳しい。
ミリアベルは聖魔法で灯りを作り出すと先頭を進むネウスの頭上にその灯りを移動させ、後に続く自分とノルトの間にもう一つ、背後を確認する為にノルトの後方にもう一つの灯りを浮かべている。
扉の奥は通路が続いているらしく、自分達が進む先からはどんどんと色濃く悍ましい気配が漂ってくる。
歩みを進める自分の足が震えてしまう程のその気配に、ミリアベルは恐怖心を覚えるが、それでも目の前を歩いているネウスの頼もしい背中と、自分の後ろを歩いて着いてきてくれるノルトの優しい気配が安心感を齎してくれる。
「──階段だ」
先頭を歩いていたネウスがぴたり、と足を止めて伺うようにミリアベル達に振り返る。
ミリアベルの後ろにいたノルトがミリアベルの隣に並び立つと、ネウスに向かって「進もう」と続ける。
ノルトの言葉に頷いたネウスは、ゆっくりと階段を降り始めた。
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