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連載
第九十三話
しおりを挟む「──駄目だ」
ミリアベルの信じられない言葉に、ノルトはきっぱりと却下するように言葉を放ち首を横に振る。
「それは、効果的かもしれないがミリアベル嬢がとても危険な橋を渡る事になる……それは許可出来ない」
ノルトはそう反対しながらも、その方法が一番効率的な事だと言う事は分かっていた。
ミリアベルに教会の人間と、国王陛下に直接接触して貰って、教会と国王陛下の意識がミリアベルに集中している内に自分が王城内部を探り、証拠を得る。
それが出来たら一番早く、犠牲も少なくこの事件を解決出来そうな気がする。
「──ノルト様も、分かってますよね……?」
ノルトの心を見透かしたかのようにじっと濁りの無い真っ直ぐな瞳で見つめて来るミリアベルの視線を真っ向から受け止めてしまって、ノルトは口篭る。
「……っ、だが。奇跡の乙女をあのような人間に変えてしまった相手だ……人を傀儡にするのにも心を痛めない、他の人間の人格を破壊するのに躊躇いのない相手なんだ……ミリアベル嬢をそんな危険な場所には置いておけない」
だから、聞き分けてくれ。と言うようにノルトはミリアベルの両手を自分の手のひらで包み、ぎゅう、と握る。
ノルトの懇願を聞きながらも、ミリアベルはしっかりとノルトを見つめ返しながら唇を開く。
「私には最高位の聖魔法が使用出来ます。ノルト様が私の為に忙しい中、沢山指導して下さったお陰で私、今どんな洗脳にも打ち勝てそうなんです」
「──……っ、だがそれは討伐同行の時にミリアベル嬢の身が危険に晒されないようにと、その為に覚えて貰ったんだ。今回の件は想定していなかった出来事だ」
どうしてもノルトは、ミリアベルの身を危険に晒したくない。
討伐同行の時のように常に自分がミリアベルの側に居て守ってやれるかどうか分からない。
王城にはカーティスも居ない。
もし、ノルトは自分が証拠を得ている間にミリアベルの身に何か起きてしまったら、と考えると頭が真っ白になってしまいそうだった。
「ノルト様の責任感の強さはとても尊敬出来ますが、無理はしないと約束しますから……」
「──っ、俺は責任感とかじゃなく、君が心配で──!」
ノルトが思わず声を荒らげてしまった瞬間、馬車ががたり、と大きく揺れて停車した。
ミリアベルとノルトの声が一瞬詰まった瞬間に、馬車の外から声が掛けられる。
「──到着致しました」
御者が声を上げ、馬車の中にいるミリアベルとノルトに馬車から降りるように促すと、ノルトは自分の額に手を当てて溜息を零すと「分かった」と声を上げた。
馬車の扉が開き、ノルトが先に馬車から降り立つのを見届けると次いでミリアベルが馬車を降りようとステップに足を掛ける。
ミリアベルが降りるのに手を貸してくれるように、ノルトがすっ、と手のひらをミリアベルに差し出した。
ちらり、とミリアベルがノルトに視線を向けると、まだ馬車内の件で納得してくれていないのだろう。
難しい表情を浮かべてじっとミリアベルに視線を向けている。
「──ありがとうございます……」
降りずにこのまま固まっている訳にもいかない。
ミリアベルは心の中でノルトに謝罪をすると、ノルトの手に自分の手のひらを乗せた。
途端、ぎゅっとミリアベルの手のひらを強く握り締めたノルトが驚いた表情を浮かべたミリアベルの手のひらをそのままぐいっと引っ張る。
「──っ!」
そのまま、馬車からノルトの方へ飛び込むように落ちてしまったミリアベルを、ノルトは怒りの感情を顕にしてそのまま強く抱き留める。
目を白黒させて慌てるミリアベルに、ノルトはミリアベルを抱き留めた自分の腕を背中に回して一度強く抱き締めると、地面へ下ろしてぱっと腕を離した。
「──大丈夫ですか!?お怪我は?」
「……っ、いえ、大丈夫ですっ」
焦ったように声を掛けてくれる馬車の御者に、ミリアベルはドキドキと早鐘を打つ自分の心臓に手をやり何とか言葉を返した。
その様子を見ながら、ノルトはミリアベルへにこりとゾッとするほど綺麗に微笑むと、「行こうか」と声を掛けて王城へと向かい始めてしまう。
「──っ!」
ミリアベルは、頬を真っ赤に染めると背を向けて歩いて行ってしまっているノルトの後を慌てて追い掛けた。
「こちらの控の間にて暫しお待ち下さい」
「分かった」
城内へと入り、長い廊下を進み、途中何度も右へ曲がったり左へ曲がったり、としながら案内された控の間に到着すると、案内をしてくれた者がぺこりと一礼してその場を離れてしまう。
「──入ろう」
「はい……」
常より低いノルトの声音に、ミリアベルはちらりとノルトを盗み見しながら返事をすると、扉を開けたノルトに促されて室内へと足を進める。
豪華な調度品がセンス良く配置された室内で、ミリアベルが所在なさげに立ち尽くしていると、ノルトがミリアベルの隣に歩いて来て腰に腕を回すとソファに座るように促す。
「少し待つ事になると思う。座って待っていよう」
「わ、分かりました」
二人の間に流れる変な空気に、ミリアベルは緊張してしまう。
ミリアベルがソファへ歩み寄り、腰を下ろすとノルトもミリアベルの隣に腰を下ろした。
今までであれば、ミリアベルの真向かいに腰を下ろしていたノルトのその行動に、ミリアベルがぎょっとして目を見開くと、ノルトは瞳を細め不貞腐れたような表情をしてミリアベルに向かって唇を開いた。
「──何が起きるか分からないから、ミリアベル嬢の近くに居る」
「え、ええ……ありがとうございます……」
何だか先程の一件から変な空気になってしまった、とミリアベルが頭を抱えたいような気持ちになり、現実逃避をするように室内をぐるりと見回して窓へ視線を向けた所で、その視線がぴたり、と止まる。
「え、ええ……!?」
ミリアベルの驚いたような声音に、隣に座っていたノルトがびくりと肩を震わせると、ミリアベルと同じ方向へと視線を向けて、そこで呆れたように笑った。
「──何やってるんだ、ネウス……」
ノルトは、窓の外からこちらを口端を上げて眺めているネウスの元へ向かう為、ソファから腰を上げるとネウスの元へと歩いて行った。
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