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連載
第九十二話
しおりを挟むネウスが地下牢の臨時団員達の対応をしていた頃、宿舎前まで迎えに来ていた馬車に乗り込んだミリアベルとノルト二人は、動き出した馬車の中で謁見時の事を話し始めた。
「ミリアベル嬢、今回の召喚は十中八九ミリアベル嬢を第二の奇跡の乙女とする為に聖魔法の使用程度を確認する為だと思う」
「使用程度ですか……その際に、治癒魔法以外、あまり能力が無いと見せれば相手も諦めるのではないでしょうか?」
二人は、王城の馬車の御者に聞こえないようにボソボソと声のトーンを落として密談をするかのように話し合う。
先程馬車に乗った時に、ミリアベルはノルトに防音結界は張らないのか、と聞いたのだがこの馬車自体に魔法無効化と言う物が掛けられており、防音結界を張ろうとすれば御者をしている人間にバレてしまう事からノルトはミリアベルの提案に首を振った。
下手に相手方を身構えさせてしまうのは得策ではない。
先日、ノルトは命懸けと言う体でネウスからの攻撃を防ぎ、国王陛下の命を守った。
まだ、ノルトは国王陛下から信頼されている。
今下手に動いてその信用を失えば王城から帰して貰えなくなる可能性もある。
その事を始めにノルトはミリアベルに説明していた。
その為、二人は御者に自分達の会話が聞こえてしまわないように体を近付け合い、囁くように会話をしている。
先程のミリアベルの言葉に暫しノルトは考えるように視線を馬車の床に落としたが「いや、駄目だ」と呟くとミリアベルに向かって唇を開く。
「奇跡の乙女であったティアラ・フローラモも、大した聖魔法は使えなかった。治癒魔法の効果範囲が広いのと、まぁ……あれだ、男の庇護欲を誘う見た目だったからか、学院で信者が増殖したんだと思う。俺が思うに、ネウスも言っていたがミリアベル嬢の魔力が無意識に放出されている、と言っていたな?」
「ええ、自覚はないのですが……そうみたいです……」
「──うん。……これは俺の予測だが、聖魔法の使い手がそう言った特色を持っていたら?聖魔法は癒しに特化した魔法だろう?だから、ミリアベル嬢が無意識に放出している魔力がとてと心地よくて、常に側に侍りたいような気持ちになると言う特色を持っていたら?」
「──え、でも……ノルト様や、カーティス様、他の魔道士団の方達は始めから私への態度は変わっていませんよ?」
「──ああ。俺達は元からミリアベル嬢を知っているから……だが。これがもしまったく面識が無い奴で初対面だったら?"この人の側は何だか心地良いな"と感じたら無意識にその人物に好印象を抱かないか?そして、心地良くなりたい為にその人物の側に常に居たくなる……そんな事が聖魔法の使い手に可能だったら?」
「──っ」
そんな事は絶対に無い、とは言い切れない。
現に、ネウスは魔の者で種族が違うと言うのに常にミリアベルの側に居たがる。
ネウスははっきりとミリアベルの放出している魔力が目的だ、と言っていたがもしそれを、意図的に、しかも人を陶酔させるような相乗効果がある魔法を使用して常に生活をしていたら?
そこまで考えて、ミリアベルはゾッとした。
それではまるで奇跡の乙女の信者と同じようでないか、と感じる。
学院で、奇跡の乙女であるティアラに心酔している生徒達は皆ティアラに焦がれるような瞳をしていた。
ティアラの言葉が全て正しくて、ティアラに反するような存在には恐ろしい程冷たい。
その当時の様子を思い出して、ミリアベルがぎゅう、と自分の唇を噛み締めるとノルトは慌ててミリアベルの頭を撫でる。
「すまない、ミリアベル嬢。余計な事を思い出させた──」
「いえ……大丈夫です。──ですが、ノルト様のその考えは私も納得出来ます……あの時の学院の様子は異常でしたから……」
「そうだな……。だから、もし──奇跡の乙女が教会で言われた通りに何の疑問もなく何かの行動を毎日欠かさず行っていたら、自らの魔力に寄ってきた人間を徐々に洗脳して行く事も可能だな、と思ってしまった……」
そして、今度はそれをミリアベルにやらせようと思うだろう。
手駒だった奇跡の乙女であるティアラは、魔の者の王であるネウスの怒りに触れてしまいネウスの手中にある。
長年、苦労して作ってきた奇跡の乙女を失ってしまった教会と国王陛下が次に目に付けたのは途中覚醒者のミリアベルなのだろう。
まだ成人前の学生で、魔力の制御も覚束無いと思っているはずだ。
そうなると、恐らく王城か教会で魔力制御の訓練にあたれ、と言ってくるだろう。
だがそんな所にミリアベルを行かせるつもりはない。
ノルトは目の前に居るミリアベルと視線を合わせながら唇を開いて言葉を続ける。
「大丈夫だ。心配しなくてもどうにかミリアベル嬢の身柄は俺達魔道士団で預かれるように陛下を説得する」
安心させるようにノルトがミリアベルに微笑むと、ミリアベルは少し考える様に馬車の上の方に視線を向ける。
「──ミリアベル嬢?」
「──でも、それで本当にどうにかなるでしょうか……?ノルト様達に助けて貰って、隠して貰って……ネウス様が言っておりましたが、時間が経つと今はまだ大丈夫だと言っていた陛下の精神が破壊されてしまうかもしれません……」
「……だが」
ノルトが口篭る中、ミリアベルはいい案を思い付いたとばかりにぱっと表情を明るくするとノルトに向かって言葉を続けた。
「──ここは、私がそのまま王城に残るのはどうでしょうか?」
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