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連載
第八十八話
しおりを挟む魔道士団の宿舎へと急ぎ戻って来たミリアベル達は、すぐさまランドロフが居る応接室へと向かった。
扉を開けて入ってきたミリアベル達の姿に驚いたような表情を見せたランドロフは、「何だ、早かったな」と声を掛ける。
「いえ、申し訳ございませんがランドロフ殿下──殿下のご判断が必要な事態に陥っております」
「私の判断が……?」
ノルトの言葉に、ランドロフが訝しげに表情を変化させるとノルトは魔法騎士団で拘束している臨時団員達の現状を説明した。
「──お話した通り、信者達の異常性を考えるとうちの魔道士団で身柄を預かった方が宜しいかと……それに、信者達から教会や甦りの禁術について何か分かる可能性もあります」
ノルトの説明を黙って聞いていたランドロフは、最後の言葉を聞くと、「なるほどな」と言葉を零す。
「父上が犯した罪の証拠となるし、上手くいけば教会が介入した証拠も見つかるかもしれない……私が継承権を得る為の近道にもなる……」
「ええ。一つ一つ解決して行かねばいけませんが、今回の異常性は必ず行った者へ罪を償わせる事が出来るほどの所業でした……人を壊す行為等、許される事ではない」
「分かった。此度の件は私が預かろう」
ノルトの言葉に、ランドロフは頷くと室内の張り詰めて居た空気が緩む。
そして、ノルトと話していたランドロフは徐にミリアベルに視線を向けると申し訳なさそうに表情をくしゃり、と歪めて唇を開く。
「──フィオネスタ嬢にも、大変申し訳ない……常に拘束魔法を使わせてしまうのはかなりの負担になるだろう」
眉を下げてそう告げてくるランドロフに、ミリアベルは慌てて唇を開く。
「で、殿下とんでもございません……!国の為に私達貴族がご協力するのは当然の事ですし、私自身もお力になりたいと思い、自らスティシアーノ卿に申し出たのです」
「──そう言ってくれると有難い……全てが済んだ暁には相応の礼を約束しよう」
ミリアベルはランドロフの言葉にますます身を縮こませると「勿体無いお言葉です」と返すのが精一杯だった。
それからランドロフから許可を得たノルト達は、再度魔法騎士団の宿舎へと向かい、拘束済の臨時団員達を自分達の魔道士団の宿舎へと連れて来た。
宿舎の地下には、かなり昔に作られた堅牢な地下牢があり、その地下牢の出入口は特殊な魔道具で施錠されていて、その魔道具を使用出来るのは魔道士団の団長であるノルトと副団長であるカーティスしかいない。
錯乱状態で騒ぐ臨時団員達を文字通り、物理的に眠らせたノルトとネウス、カーティスは全員を昏倒させると団員達の手を借りて地下牢へと運び入れた。
そうして、地下牢へ入れた臨時団員達をミリアベルが聖魔法の上位拘束魔法を掛けて拘束すると、一日交代でその拘束魔法をネウスが担ってくれると言う事になった。
何か礼を、と言うランドロフにネウスは「今はいい」と告げると楽しそうに地下牢に繋がれている臨時団員達を眺めている。
そして、眺めていたネウスが「あ」と声を上げた。
「──?何だ、ネウス。何か不審な所でもあったか」
錯乱した状態の臨時団員達を見て胸を痛めていたランドロフには上の応接室で待っていて貰っていて、この場にはもうミリアベルとノルト、ネウスしか居ない。
カーティスには一足早くランドロフを応接室に案内させる為にこの地下牢から出て貰っている。
「いや、何のために人間を壊しているのか分からなかったんだがな……」
ネウスが、昏倒している一人の臨時団員の胸元へと自分の手のひらを翳すと、臨時団員の胸元から真っ白い清廉な魔力がキラキラと輝きネウスの手のひらへと渡ってくる。
その魔力を、ネウスは自分の手のひらで絡め取ると手のひらで握り締めた。
「この魔力、あの女の物だな……?こいつら全員にあの女の魔力が深く根を張ってるぞ。核に悪影響を及ぼして人格を歪めてる」
「あの、女とは……奇跡の乙女か!?」
「え……っ、そんな事が出来るのですか……!?」
ノルトと、ミリアベルは驚きに目を見開くとネウスに視線を向ける。
自分達にはティアラ・フローラモの魔力が巣食っている事など分からなかった。
人の人格を歪めてしまう程、悪影響を及ぼすなどそんな事が聖魔法に出来てしまうのかと、半信半疑でネウスに問う。
ネウスは二人の問いに不思議そうにしながら「当たり前だ」と頷く。
「精神干渉の魔法があり、精神干渉を弾く魔法だってお前達は使えるだろう。この魔法だって人の人格を歪める魔法だ。掛け続ければ人の核だって破壊される。聖魔法だか他の属性の魔法だか、そこは関係ない。今回は手っ取り早く人格を壊す為に微量の自分の魔力を対象の人間に潜り込ませ続けてたんだろう。魔法を発動すればすぐにバレるから自分の魔力を人に流し込み続けた」
ネウスはミリアベルに視線を向けると、ミリアベルに近付いて行き、手を取ると自分の手のひらでミリアベルの手を握り込む。
「ミリアベルは規格外だが、自分の膨大な魔力を無意識の内に垂れ流しているからこうやって側に居るか、直接触れ合うだけで俺達の種族は簡単に対象の魔力を吸収出来る」
ネウスは、ミリアベルから流れて来る魔力に心地よさそうに瞳を細めると自分の唇を笑みの形に持ち上げる。
「俺達は人の魔力を糧にしている所もあるからな……だから流れは簡単に分かるが──人間には見えにくいか?」
ネウスはミリアベルの手をにぎにぎと尚も握りながら話し続ける。
未だにミリアベルの手を取り続けるネウスに、ノルトはネウスの腕を掴んでミリアベルから離すとネウスに向かって唇を開く。
「少なくとも俺にはその流れと言う物は見えないな……その感覚は魔の者特有の物なのかもしれない」
「ならば気付かなくても仕方ない。──人の体内に魔力を流し込み、歪めて破壊する。それは俺達の種族が良く使う手段だ。これだけの人数を破壊した目的は十中八九甦りの禁術関連だろうな?」
「──それが証明出来れば、国王陛下と教会を公式に罰せるな」
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