33 / 80
連載
第八十七話
しおりを挟む「壊れた……?」
ネウスの言葉にノルトは呆然としたように小さく呟く。
だが、そのネウスの言葉に妙に納得してしまう程の有様で、ノルトは戸惑う。
目の前ではネウスの言葉の通りに人としての何かが壊れたような者達が居てミリアベルやノルトはぞっと怖気を感じる。
人としての何かが壊れてしまう程の何か。
しかもそれが奇跡の乙女関連である事は明確で、そしてその奇跡の乙女は国が作っていた存在。
自分達の国が人を壊す事にまで手を染めていた事に信じられない気持ちになる。
「──これ、は……ミリアベルにも治す事は出来ねぇだろうな……」
ネウスが自分の顎に手を添えながら興味深そうに臨時団員達を見る。
ネウスの言葉にラディアンは焦ったようにネウスに視線を向けると唇を開いた。
「それは本当ですか……誰にもこの状態をどうする事も出来ないと?」
「ああ。ここまで壊れている人間を元に戻すのは無理だろ……多分利用する為に壊したんだろうよ」
ネウスはそう言うとチラリとノルトに視線を向ける。
利用する為、と言われ視線を向けられたノルトはネウスに向かって頷く。
この場にいるラディアンにも、魔法騎士団の面々にもまだ甦りの魔法の事は伝えられない。
まさか、国王陛下が教会から禁術を教えられて甦りの魔法を使おうとしている何て事をこの場で話すなんて事は出来ない。
この場で話してしまえば悪戯に混乱を招き、国へ不信感を覚えてしまう。
混乱は混乱を呼び、国民にまで広がってしまう可能性がある。
国が乱れれば周辺諸国に攻め込まれる可能性もある。
その前に、国が割れれば王族である第三王子の身にも危険が及ぶかもしれない。
そうなってしまうのは避けたい為、ノルトはラディアンへは詳細を伝えないようにネウスに視線で制す。
ノルトの視線で意図を汲んだネウスは黙って頷くとどうしたものか、と悩む。
「──壊れた人間を、国で罰するまで拘束し続けるのは厳しいと思うが……だが、罰する為には拘束し続けなきゃならねぇんだよな?」
「──ああ。直接ネウスに危害を加えようとした奇跡の乙女やベスタ・アランドワの処遇はネウスに任せる事は出来たが……この臨時団員達はそこまでの罪を犯していないから無理矢理無力化する事が出来ないんだよな……」
ネウスの言葉に、ノルトも頷く。
そこで、ミリアベルはふと考え付いた事を言葉にした。
「それならば、第三王子に判断をして頂くのは如何ですか?」
「──ランドロフ殿下に?」
不思議そうにそう聞き返してくるノルトに、ミリアベルはこくりと頷くと、周りに聞こえてしまわないように声を顰めて言葉を続ける。
「ええ。今後の事を考えて、臨時団員の方達の身柄は殿下の元に預けた方がいいと思います。拘束ならば、多分私の力でも行う事が出来ると思いますので……」
「なるほど……証拠として身柄を拘束しておくのは良い手ではある」
ミリアベルの言葉に、ノルトは頷く。
「証拠」として。その言葉を聞いてミリアベルは一瞬だけ表情を歪ませるが、瞳を閉じて息を吐き出すと「はい」と頷く。
「拘束、だけならば私の上位聖魔法を使用すれば無力化出来るかもしれませんし……」
「だが、そうすると軍法会議までフィオネスタ嬢は魔力を使いっぱなしになる。体への負担は相当になるが……君にそんな酷な事は──」
ノルトの気遣うような言葉にミリアベルは微笑み大丈夫だ、と答えると臨時団員達に視線を向ける。
「ミリアベルの魔力が尽きそうになったら俺が代わる」
ネウスがミリアベルの隣でそう呟くと、驚いたようにノルトが視線を向ける。
「いいのか……今回の事は完全にこちら側の事情だぞ……?ネウスには旨味も何もないと思うんだが……」
「いーや、お前達人間側に恩を売っておけば何かしら利益があるかもしれない。王族に恩を売れるのであれば協力するのもやぶかさではない……それに、ミリアベルの魔力が無駄に消費されるのは俺も困るんでな」
「──分かった。ラディアン、一度この者達の処遇をランドロフ殿下に相談してみる。それまで、少しだけ待ってて貰ってもいいか?」
ノルトからの言葉に、ラディアンは戸惑ったようにしながらも頷くと、唇を開く。
「あ、ああ。俺達は構わない……だが、今回の討伐任務については全部そっちに任せっきりになっちまうが……大丈夫か……?」
気遣わしげなラディアンの視線にノルトは苦笑すると、頷く。
「ああ、大丈夫だ。たまたま対応出来る人間が今うちにいるから対応しているだけだ。今後もしこっちで出来ない事は魔法騎士団にぶん投げるから宜しく頼む」
ノルトの言葉に、ラディアンは申し訳なさそうに笑うと、「任せてくれ」と答えた。
臨時団員達の拘束をしっかりしておくように伝えて、ミリアベルとノルト、ネウスは一度ランドロフに報告をする為魔道士団の宿舎へと戻る事にした。
11
お気に入りに追加
7,554
あなたにおすすめの小説
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
ラララキヲ
恋愛
長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。
しかし寝室に居た妻は……
希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──
一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……──
<【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました>
◇テンプレ浮気クソ男女。
◇軽い触れ合い表現があるのでR15に
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい…
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)
殿下、側妃とお幸せに! 正妃をやめたら溺愛されました
まるねこ
恋愛
旧題:お飾り妃になってしまいました
第15回アルファポリス恋愛大賞で奨励賞を頂きました⭐︎読者の皆様お読み頂きありがとうございます!
結婚式1月前に突然告白される。相手は男爵令嬢ですか、婚約破棄ですね。分かりました。えっ?違うの?嫌です。お飾り妃なんてなりたくありません。
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
婚約者が私以外の人と勝手に結婚したので黙って逃げてやりました〜某国の王子と珍獣ミミルキーを愛でます〜
平川
恋愛
侯爵家の莫大な借金を黒字に塗り替え事業を成功させ続ける才女コリーン。
だが愛する婚約者の為にと寝る間を惜しむほど侯爵家を支えてきたのにも関わらず知らぬ間に裏切られた彼女は一人、誰にも何も告げずに屋敷を飛び出した。
流れ流れて辿り着いたのは獣人が治めるバムダ王国。珍獣ミミルキーが生息するマサラヤマン島でこの国の第一王子ウィンダムに偶然出会い、強引に王宮に連れ去られミミルキーの生態調査に参加する事に!?
魔法使いのウィンロードである王子に溺愛され珍獣に癒されたコリーンは少しずつ自分を取り戻していく。
そして追い掛けて来た元婚約者に対して少女であった彼女が最後に出した答えとは…?
完結済全6話
【完結】もう辛い片想いは卒業して結婚相手を探そうと思います
ユユ
恋愛
大家族で大富豪の伯爵家に産まれた令嬢には
好きな人がいた。
彼からすれば誰にでも向ける微笑みだったが
令嬢はそれで恋に落ちてしまった。
だけど彼は私を利用するだけで
振り向いてはくれない。
ある日、薬の過剰摂取をして
彼から離れようとした令嬢の話。
* 完結保証付き
* 3万文字未満
* 暇つぶしにご利用下さい
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。