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第八十七話

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「壊れた……?」

ネウスの言葉にノルトは呆然としたように小さく呟く。
だが、そのネウスの言葉に妙に納得してしまう程の有様で、ノルトは戸惑う。
目の前ではネウスの言葉の通りに人としての何かが壊れたような者達が居てミリアベルやノルトはぞっと怖気を感じる。

人としての何かが壊れてしまう程の何か。
しかもそれが奇跡の乙女関連である事は明確で、そしてその奇跡の乙女は国が作っていた存在。
自分達の国が人を壊す事にまで手を染めていた事に信じられない気持ちになる。

「──これ、は……ミリアベルにも治す事は出来ねぇだろうな……」

ネウスが自分の顎に手を添えながら興味深そうに臨時団員達を見る。
ネウスの言葉にラディアンは焦ったようにネウスに視線を向けると唇を開いた。

「それは本当ですか……誰にもこの状態をどうする事も出来ないと?」
「ああ。ここまで壊れている人間を元に戻すのは無理だろ……多分利用する為に壊したんだろうよ」

ネウスはそう言うとチラリとノルトに視線を向ける。
利用する為、と言われ視線を向けられたノルトはネウスに向かって頷く。
この場にいるラディアンにも、魔法騎士団の面々にもまだ甦りの魔法の事は伝えられない。
まさか、国王陛下が教会から禁術を教えられて甦りの魔法を使おうとしている何て事をこの場で話すなんて事は出来ない。

この場で話してしまえば悪戯に混乱を招き、国へ不信感を覚えてしまう。
混乱は混乱を呼び、国民にまで広がってしまう可能性がある。
国が乱れれば周辺諸国に攻め込まれる可能性もある。
その前に、国が割れれば王族である第三王子の身にも危険が及ぶかもしれない。
そうなってしまうのは避けたい為、ノルトはラディアンへは詳細を伝えないようにネウスに視線で制す。

ノルトの視線で意図を汲んだネウスは黙って頷くとどうしたものか、と悩む。

「──壊れた人間を、国で罰するまで拘束し続けるのは厳しいと思うが……だが、罰する為には拘束し続けなきゃならねぇんだよな?」
「──ああ。直接ネウスに危害を加えようとした奇跡の乙女やベスタ・アランドワの処遇はネウスに任せる事は出来たが……この臨時団員達はそこまでの罪を犯していないから無理矢理無力化する事が出来ないんだよな……」

ネウスの言葉に、ノルトも頷く。
そこで、ミリアベルはふと考え付いた事を言葉にした。

「それならば、第三王子に判断をして頂くのは如何ですか?」
「──ランドロフ殿下に?」

不思議そうにそう聞き返してくるノルトに、ミリアベルはこくりと頷くと、周りに聞こえてしまわないように声を顰めて言葉を続ける。

「ええ。今後の事を考えて、臨時団員の方達の身柄は殿下の元に預けた方がいいと思います。拘束ならば、多分私の力でも行う事が出来ると思いますので……」
「なるほど……証拠として身柄を拘束しておくのは良い手ではある」

ミリアベルの言葉に、ノルトは頷く。
「証拠」として。その言葉を聞いてミリアベルは一瞬だけ表情を歪ませるが、瞳を閉じて息を吐き出すと「はい」と頷く。

「拘束、だけならば私の上位聖魔法を使用すれば無力化出来るかもしれませんし……」
「だが、そうすると軍法会議までフィオネスタ嬢は魔力を使いっぱなしになる。体への負担は相当になるが……君にそんな酷な事は──」

ノルトの気遣うような言葉にミリアベルは微笑み大丈夫だ、と答えると臨時団員達に視線を向ける。

「ミリアベルの魔力が尽きそうになったら俺が代わる」

ネウスがミリアベルの隣でそう呟くと、驚いたようにノルトが視線を向ける。

「いいのか……今回の事は完全にこちら側の事情だぞ……?ネウスには旨味も何もないと思うんだが……」
「いーや、お前達人間側に恩を売っておけば何かしら利益があるかもしれない。王族に恩を売れるのであれば協力するのもやぶかさではない……それに、ミリアベルの魔力が無駄に消費されるのは俺も困るんでな」
「──分かった。ラディアン、一度この者達の処遇をランドロフ殿下に相談してみる。それまで、少しだけ待ってて貰ってもいいか?」

ノルトからの言葉に、ラディアンは戸惑ったようにしながらも頷くと、唇を開く。

「あ、ああ。俺達は構わない……だが、今回の討伐任務については全部そっちに任せっきりになっちまうが……大丈夫か……?」

気遣わしげなラディアンの視線にノルトは苦笑すると、頷く。

「ああ、大丈夫だ。たまたま対応出来る人間が今うちにいるから対応しているだけだ。今後もしこっちで出来ない事は魔法騎士団にぶん投げるから宜しく頼む」

ノルトの言葉に、ラディアンは申し訳なさそうに笑うと、「任せてくれ」と答えた。



臨時団員達の拘束をしっかりしておくように伝えて、ミリアベルとノルト、ネウスは一度ランドロフに報告をする為魔道士団の宿舎へと戻る事にした。
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