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第八十六話

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ノルトの言葉にランドロフは「構わない」と頷く。
ランドロフが頷いた事を確認すると、ノルトはミリアベルへと視線を向けて唇を開く。

「──フィオネスタ嬢、申し訳ないがこの宿舎に最高位防御結界を張ってもらってもいいだろうか?殿下が居られるので、外部からの攻撃を無効化したい……一応うちの団員とカーティスは置いていくから大丈夫だと思うが、憂いは無くしたい」
「え、俺置いてかれんの?……まあ、いいけどさぁ……」
「はい、分かりました。防御結界と、皆さんにそれぞれ精神干渉無効化を掛けておきますね」

ミリアベルが心得たと言うように頷き、発動の準備を始めている間に、ノルトは応接室の外に居た団員に声を掛ける。

「俺達が宿舎を離れた後は頼む。殿下以外の王族が訪ねて来た場合はすぐに俺に知らせてくれ。それと、教会関係者が訪ねて来た場合もだ」
「畏まりました、団長」

ノルトは団員に伝えながら通信用の魔道具を渡すと部屋の出入口に申し訳なさそうに立っているラディアンに向かって歩いて行く。

「ネウスも、一緒に来てくれ」
「俺もか……?めんどくせぇなぁ……」

ソファで興味がなさそうに寝転んでいたネウスに視線を向けてノルトが言うと、ネウスは悪態を付きながら、それでもソファへと身を起こした。

──キン、と応接室を含む宿舎全体に最高位の防御結界が張られ、その後ミリアベルは室内に居る全員に精神干渉の無効化魔法を一括で掛ける。

ミリアベルの手際の良さに、ノルトが驚いたように視線を向けるとミリアベルは微笑んで頷く。
ノルトと公爵邸の私邸で制御訓練を始めてから欠かさず魔法の訓練を行って来ていたミリアベルは、今では発動時に自分で魔術を構築する際に複数人に同時に発動する事が可能になっている。

「──驚いたな……精神干渉の無効化は元々制御が難しい部類だと聞いていたが、それを複数人に展開出来るようになっていたんだな」

素直に驚き、ミリアベルを褒めるような態度のノルトに、擽ったいような気持ちになってミリアベルは照れたように笑う。

「──ありがとうございます。これも、分かりやすく指導して下さったスティシアーノ卿のお陰です」

ノルトは眩しそうに目を細めてミリアベルに笑いかけると、頭を一撫でしてから「行こうか」と唇を動かして、部屋を出て行った。










ミリアベル達は宿舎の中庭に出て、転移の魔道具の場所まで来ると魔道具にノルトは自分の魔力を流し込む。

国にとって重要な場所には予め転移用の魔道具が設置されており、その魔道具はその場所の最高責任者の魔力を注ぐ事によって魔法が発動する。
魔道士団の最高責任者はノルトの為、ノルトの魔力を注げば王城を除く国に関連する要所や機関に転移する事が可能だ。

恐らくラディアンも魔法騎士団にある転移魔道具を使用して移動して来たのだろう。

ノルトが魔力を流すと、ノルトの魔力に反応して魔道具が輝き始める。

「──術式の枠から出ないようにしてくれ」

ノルトは、ミリアベルとネウスに告げるようにして声を発すると、少し離れた場所にいたミリアベルの腕を掴んで自分の方へと引き寄せる。

「──わっ、」

ミリアベルが小さく声を零した瞬間、転移の魔法が発動して四人を真っ白い光が包み込んだ。






「──?」

視界を覆う真っ白い光に思わずぎゅっと強く目を閉じていたミリアベルだが、光が収まり周囲がざわめいているのを感じ取り、そっと瞳を開いた。

ミリアベルが瞳を開くと、そこは魔法騎士団の宿舎のようで、魔道士団の宿舎と作りは似ているが中庭では複数人の団員達──恐らく信者と呼ばれていた男達がその場で拘束されている様子が視界に入り驚きで思わず一歩下がってしまう。

「──拘束しているんだな……?それで、異常な様子とは……?」

ノルトがすかさずミリアベルを支えるように肩を抱いてラディアンに声を掛けると、ラディアンもどう説明していいのか分からないようで、「見てくれ」と呟くと臨時団員達に視線を向ける。

ラディアンが促した先を視線で追ったミリアベル達は、不思議そうに拘束された臨時団員達を見つめるが、その団員達の様子の可笑しさに目を見開く。

「──おいおいおい、何だあれは」

ネウスが掠れた声で呟く。

ネウスが驚くのも無理はない。
臨時団員を拘束する為にいたこの魔法騎士団の正規団員達も戸惑うようにラディアンに視線を向けていて、当のラディアンは意見を求めるようにノルトに視線を向けると、唇を開く。

「──最初、は……奇跡の乙女を早く出せ、返せと暴れていたんだ。暴れるからすぐに拘束命令を出して、軍法会議までこのまま拘束しておこうとしていたんだが──突然苦しみ出してこの状態だ」

臨時団員、今回軍規を違反した者達は全部で十七名。
恐らくその全員が今目の前で拘束されているのだが、その様子がラディアンの言った通り異常でありミリアベルは顔色を悪くすると何故こんな事に、と心の中で呟く。

拘束された者達の反応はそれぞれまちまちで。
ある者は感情を無くしたかのような能面のような顔でただただ虚空を見つめる者。
ある者は半狂乱状態で暴れ、叫んでいる者。
錯乱状態で自傷行為をしている者、等様々だが十七名それぞれがそのような状態になっていてミリアベルはじり、と後ずさる。

呆気に取られるノルトとミリアベルの側から興味深そうにネウスが一歩足を踏み出すと、その臨時団員達をじっと見つめながらぽつりと呟いた。

「──あいつらの魔力に、良くない物が混じってるぞ……?それ、があいつらの魔力を喰ってるように見えるが……?」
「──は?」

ネウスの言葉に、ノルトが反応すると「どう言う事だ」と言葉を続ける。
ノルトにそう言われたネウスは、眉を寄せながらじっと臨時団員達を見つめ、唇を開いた。

「──紛いモンでも作ろうとしてたのか……?それとも、他者の魔力に依存させようとしてたのか……良く分からんが……自分達の核になってた物が無くなり壊れたみたいだな」
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