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連載
第八十四話
しおりを挟む「今見た通り、闇と聖の魔法を掛け合わせると不味い結果になる。大方、その、何だ?教会の誰かは古文書か何かを読んでこの考えに行き着いたんだろうよ」
ネウスは、投げやりに吐き捨てるように言うとソファに深く腰掛け、組んだ足に乗せた手のひらに顎を乗せる。
ネウスの言葉を聞いて、次いでミリアベルの頭に浮かんできたのは「何の為に」と言う言葉だ。
始めは国王が奇跡の乙女を支配し、傀儡として信者を増やし、周辺諸国に攻め入る為の駒を量産する為だと思っていた。
だが、ノルトが王城で確認したのは国王事態も傀儡となっている可能性と、国王は死者の甦りについて方法を探している事。
そして、死者甦りの禁術は教会の──恐らく大司教が国王へと教えた事。
何の目的の為に協会は死者甦りの禁術を国王へと使わせようとしているのか。
そして、この甦りのキーとなるのはネウスの闇魔法と聖魔法である事。
恐らくこの考えは間違っていないだろう。
「──そもそも、何故国王陛下は死者の甦り何て危うい禁術に手を出し、第二王妃を甦らせようとしたんだ……?」
カーティスの疑問に、ミリアベルはぴくりと反応する。
(きっとそれは──……)
「国王陛下はランドロフの母上、第二王妃を愛していたようだ。陛下の執務机には亡き第二王妃の姿絵がいくつも飾られていたよ」
「──父上が、母上を……?」
ノルトの言葉に、ランドロフは信じられないと言ったように驚きに瞳を見開いている。
ミリアベルはノルトの言葉に同意するように心の中で肯定する。
第二王妃が身罷られたのは七年程前だっただろうか、とミリアベルは考える。
その際の国葬は壮大に執り行われ、いつも威厳に満ち溢れていた国王陛下の深く悲しみ、悲痛な面持ちをしており、ミリアベルは遠くから国王を一目視界に入れただけだが、その時の憔悴しきった国王の表情に自分まで胸が痛んだ覚えがある。
だが、次に公の場に姿を表した国王陛下は今まで通り威厳に満ちた姿を見せた。
その事から、国の重鎮の中では深い悲しみを乗り越えた、と思われていたのだがそんな事はなかったようだ。
長年、第二王妃を甦らせる事に心血を注ぎ、判断能力が欠如し、教会の大司教の怪しげな口車に乗ってしまったのだろう。
まともな判断が出来なくなってしまっている人間に希望をチラつかせ、その希望に縋らせる。
人を籠絡するには一番簡単な手だ。
ミリアベルが気遣うようにランドロフに視線を向けると、何かを考え込んでいたように俯いていたランドロフは、ふと視線を上げると唇を開く。
「──それならば……兄上……王太子と、第二王子は既に教会の手中に落ちているかもしれない」
「──は……!?どう言う事だ……!?」
ランドロフの言葉に、ノルトが思わず大きな声を上げてしまう。驚きのあまり、第三王子への敬語も忘れてしまっている。
国王陛下以外にも、王族が教会の手中に落ちているのであればこの国は今、水面下で滅びへ歩んで行っているかもしれない。
「──数年前から、父上と兄上三人で非公式な会議が行われている……父上の目的は第二王妃である母上の甦りが目的だとは思うが、兄上達は正妃の子だ……なので、甦りが目的ではないと思うのだが……」
「また、謎が増えてしまったな……」
ノルトが頭を抱えて唸ると、そこまで黙って聞いていたネウスが面倒くさそうに唇を開いた。
「禁術を教えたのは教会の人間だろう?そいつが、裏で糸を引き何かをやろうとしている……それならば、そいつを消してしまえば万事解決じゃないか?」
何でこんな簡単な事をすぐに実行しないんだ、とでも言うように不思議そうな顔をしているネウスに、ノルトは苦笑すると唇を開く。
「人間の国、と言うか統治は面倒でな……現在の国の実権を握っているのは国王陛下だ。そして、その国王陛下を裏から操り、傀儡にしている教会。操られている国王陛下の原動力は禁術である甦りの魔法。その甦りの禁術を教えたのは教会の人間だ。心の支えにしていた甦りの魔法を教えてくれる教会が潰れたらどうなる……?──人間の心は弱いから、よすがにしていた目的が無くなった瞬間恐らく精神的に壊れるぞ」
「──何だ、それ……人間は弱っちいな……」
ノルトの言葉にネウスは嫌そうに眉を顰めると溜息を吐き出す。
「ああ、弱い人間だから、簡単に壊れる。そして国のトップが壊れればその内どんどんとほの崩壊は周囲を飲み込んで国内全土に広がる可能性がある……重鎮はまだ無事かもしれないが、王太子と第二王子が相手の手中にいるのであれば教会が動いて来る可能性もあるしな……」
ノルトの言葉を聞き、ネウスはふとランドロフに視線を向けるとなんて事のないように唇を開く。
「ならば、この目の前にいる第三王子のランドロフって男を国のトップに据えればいいんじゃないか?そうすれば国王陛下って奴が壊れても実権をランドロフが握ればいいんじゃねぇか?」
ネウスの言葉に、ランドロフはぎょっと瞳を見開いて、否定の言葉を口にしようとしたが、ノルトがネウスの言葉に答える。
「ああ、それは俺も考えていた……こんなに早く実行に移す事になるとは思わなかったが、仕方ないだろうな」
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