あなたの事はもういりませんからどうぞお好きになさって?

高瀬船

文字の大きさ
上 下
24 / 80
連載

第七十八話

しおりを挟む

(これはフィオネスタ嬢に伝えない方がいいな……)

カーティスはそう判断すると、報告書を自分の懐へと仕舞い込む。

最悪の場合、処刑と言う処罰が科される可能性があると言うのはミリアベルに伝えなくてもいいだろう。
今まで人の生き死にとは縁遠い生活をしていたのだから、このような情報を耳に入れるのはまだ早いかもしれない。

(この報告に関しては、ノルトが戻って来た時に相談しよう……それに──魔の王であるネウス様がどう動くかまだ分からないしな)

カーティスはちらり、とネウスに視線を向ける。

捕らえたティアラとベスタの身柄はネウスが預かっている。
ティアラに関しては、ネウスが体内の魔力の核を破壊した事で聖魔法を使用する事が出来なくなっている、らしい。
そして、ベスタ・アランドワについては下僕の訓練相手にすると言うような発言があった。
下僕、とは恐らく魔獣の事だろう。
その魔獣の訓練相手を正規の魔法騎士でもない見習い程度の力しか持たないベスタが務めればどうなるか。

(死んだ方がマシだと思う程の毎日になるだろう……)

カーティスの視線に気付いたネウスが、つい、とカーティスに視線を向けてくるがカーティスはにっこりと笑顔を浮かべるとそのまま二人に視線を向ける。

カーティスからの報告を聞いていたミリアベルは、やはり暗い顔をしているのがカーティスの座る位置からも伺い見れて、早くノルトが戻って来るといいのに。と心の中で強く願った。












傷の痛みとは違い体が熱を持ち、重だるい感覚がしてノルトはふと目を覚ました。

ネウスからの斬り傷により熱を出してしまっているらしい自分の体をゆっくりと起き上がらせると、ノルトは深く溜息をついた。

(ここまで治癒が効かないとは──)

ミリアベルの治癒魔法であればもう少し傷が塞がり、熱等も出す事はなかっただろう。
ノルトは発熱により痛む頭に自分の手をあてるときょろ、と室内に視線を巡らせる。

どうやら治癒士は既に退出しているらしく、室内にはノルト以外誰も居らず気配を探ると部屋の外、扉の前に二人程護衛が立っているだけのようだ。

「──国王陛下はネウスから庇った俺を随分と信用してくれているみたいだな」

ノルトはぽつりと呟くと、ベッドから立ち上がり側にあった自分の上着を手早く羽織ると扉とは反対方向にある室内の窓際へと歩いて行く。

「監視も付けていないとは、動きやすい」

まだ体は本調子ではないが、耐えられない傷の痛みではない。
窓の外はまだ薄暗く、日が昇るにはまだ時間はありそうだ。

ノルトは窓周辺に対して防音結界を張ると、窓を大きく開け放つ。
結界のお陰で窓を開ける音は外に漏れず、部屋の外にいる護衛には気付かれていない。

(恐らく、夜が開けるまでは室内には誰も入ってくる事はないだろう)

ノルトは窓枠に足を掛けると、自分に身体能力増幅の魔法をかけると窓枠を強く蹴り、上空へと跳躍した。

(大司教はランドロフの影が探る、と言っていたな……それならば俺は陛下の様子を確認しに行こう──)

ネウスとの戦闘の後だ。
本来であればネウスとの取引で見返りを貰う予定だった国王は確実に動揺し、本来の自分の目的だった事を「確認」するはずだ。
操縦の魔法を手に入れようとしていた事、そして長い年月を掛けて奇跡の乙女を作っていた事から国王の目的は何かとてつもなく大きい物だろう。
ただ、戦争の為だけに操縦の魔法を手に入れようとしていたとはどうしても思えない。

ランドロフは、自分の母親が死んでから国王は変わってしまったと言っていた。
その言葉を思い出し、ノルトは禁術にでも手を出していないだろうな、と嫌な予感を感じつつ夜が開ける前の暗い中、上階のバルコニーに降り立つと中の気配を探る。

ノルトが居た部屋の上階は、政務官等が仕事を行なう階のようで、ノルトが降り立ったバルコニーのある部屋も、執務室のようだ。
そっとバルコニーから室内へと入る扉の鍵を開けると中に侵入し、出入口の扉の方向へと歩いて行く。

「見回りとかち合うと面倒だな」

ノルトは呟くとそっと外の様子を伺う。
扉の向こう、廊下で動く人の気配が無い事を確認するとノルトはそっと扉を開けて廊下へと出る。

自分の足音を殺して、人の気配がしない方向へと進みつつ、ノルトは自分の脳内で王城の内部の地図を思い浮かべる。

(流石に国王陛下が休む宮に侵入するのは難しい……それならば、陛下の執務室もしくは王太子や第二王子の執務室を探るか……)

国王と教会の大司教二人だけの企てなのか、それとも第三王子を除く王族ぐるみでの企てなのか。
まずはそこを判明させるのもいいだろう。

ノルトはそう考えると、国王の執務室や王太子の執務室がある方向へと向かって駆け出した。
しおりを挟む
感想 504

あなたにおすすめの小説

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます

冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。 そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。 しかも相手は妹のレナ。 最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。 夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。 最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。 それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。 「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」 確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。 言われるがままに、隣国へ向かった私。 その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。 ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。 ※ざまぁパートは第16話〜です

婚約者を想うのをやめました

かぐや
恋愛
女性を侍らしてばかりの婚約者に私は宣言した。 「もうあなたを愛するのをやめますので、どうぞご自由に」 最初は婚約者も頷くが、彼女が自分の側にいることがなくなってから初めて色々なことに気づき始める。 *書籍化しました。応援してくださった読者様、ありがとうございます。

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす

まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。  彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。  しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。  彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。  他掌編七作品収録。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します 「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」  某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。 【収録作品】 ①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」 ②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」 ③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」 ④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」 ⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」 ⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」 ⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」 ⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。