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連載
第七十二話
しおりを挟む転移の魔道具を利用し、王都から近い場所にまで戻って来たミリアベル達はその場から魔道士団の宿舎へ向かう馬車に乗る事になる。
帰還の連絡を国王陛下にはしている為、宿舎に戻った際すぐに報告に向かう必要があるかもしれない。
ミリアベルは国王陛下と直ぐに直接話す機会はないかもしれないが、ノルト達が今回どう動くかを確認しておく必要がある。
「スティシアーノ卿、今後はどう動かれる予定なのでしょうか?」
ノルトの側まで行き、ミリアベルがボソボソと小さな声で呟いて聞くと、ノルトはちらりと周囲に視線を巡らせた後にミリアベルの耳元に自分の唇を寄せて呟く。
「フィオネスタ嬢、その話は帰りの馬車の中でしよう……」
「──っ、分かりました」
耳元で囁かれたノルトの低い声に、ミリアベルはびくりと肩を跳ねさせてしまうと自分の耳元を手のひらで覆う。
こそばゆいような変な感覚がして、何だか変に落ち着かない。
ミリアベルと、ノルトの側に歩いて来たネウスが退屈そうに一つ欠伸をすると、俺達が乗る馬車はまだか?とノルトに話しかける。
「ああ──、もうすぐ到着するはずだから待っていてくれ」
ノルトの言葉通り、暫し待つと王都へ戻る為の馬車が到着し始める。
魔道士団の面々は、それぞれ隊毎に別れて馬車に乗り込むと魔道士団宿舎へと戻って行く。
ノルトも自分達が乗り込む馬車が到着したのを確認すると、魔法騎士団のラディアンの方へ向かい軽く言葉を交わすとこちらへ戻ってくる。
「この馬車には俺と、フィオネスタ嬢、ネウスとカーティス四人で乗って戻る」
ノルトの言葉に従い、ミリアベル達は馬車に乗り込んだ。
馬車が動き出して暫し、ノルトは馬車の内部で防音結界を展開する。
突然ノルトが魔法を使用した事にネウスはぴくりと眉を上げたが、ノルトが使用したのが防音効果のある魔法だった事が分かったのか、すぐに表情を緩めると口の端を吊り上げて愉しそうな表情を浮かべる。
「なんだ、ノルト。密談か?」
「──ああ。これが外に漏れたら俺達は国の叛逆者となってしまうからな」
ノルトは何て事ないようにそう言葉を紡ぐと、足を組んで言葉を続ける。
「王都に戻ったら恐らく俺は国王陛下から今回の討伐任務の途中撤退について問われる為に王城に召喚されるだろう。その際、魔の者の王であるネウスにも同行して貰い、任務中に起きた事象の説明とネウスと和解した事を話す。その際にネウスが奇跡の乙女ともう一人の人間を何故連れて行く事になったかの経緯を陛下に説明して欲しい」
「ああ。それは簡単だな。愚かにもあの人間達が俺に敵意を剥き出しにして襲いかかって来た事を話せばいい」
「ああ。だが、そこで陛下は自分の計画が完全に潰れた事を悟るだろうからネウスに一芝居うってもらいたい」
ノルトの言葉に、ネウスは何をすればいいんだ?と楽しげに聞く。
「そこでネウスは、魔の者の王である自分を謀ったと陛下に敵意を顕にして貰って、謁見の間で暴れて欲しいんだ」
「暴れる……?何だ、それでその場でその陛下を殺せばいいのか?」
「いや、その場で陛下に手を掛けてしまうのは早い。俺が陛下を守るようにネウスと戦闘を行うから俺に怪我を負わせてくれ。そこそこの怪我を負えば俺は王城に治療の目的で居座れる。俺に怪我をさせた後は、ネウスは俺との戦闘で力を消耗した体を装いその場から逃れ魔道士団の宿舎に戻ってフィオネスタ嬢の身を守っててくれればいい」
ノルトの提案に、ミリアベルはぎょっとしたように瞳を見開く。
そこまで体を張って王城に居座る必要はあるのだろうか。
ミリアベルの考えが分かっているのだろう、ノルトはミリアベルに視線を向けるとミリアベルに説明するように言葉を続ける。
「王城に居座る目的は第三王子との接触だ。報告はしてあるが、陛下を廃す時期が早まるのは目に見えているからその件で第三王子としっかり話しておきたい。俺の怪我が完全に治った頃を見計らって第三王子本人に俺を宿舎まで送り届けてくれるように頼むつもりだ。そこで、フィオネスタ嬢との顔合わせとネウスの紹介もしよう」
ノルトの言葉にミリアベルは黙って頷くと、ネウスに視線を向ける。
「分かりました……私がお手伝い出来る事があれば何なりと。──ネウス様、スティシアーノ卿にお怪我を負わせる必要があるのは仕方ない事だと分かりますが、熱が入りすぎて大怪我をさせてしまわないようにして下さいね?」
「ミリアベルが心配するのはノルトだけか?俺もノルトとの戦闘で怪我をする可能性があるぞ?」
面白くなさそうに不貞腐れたような表情でミリアベルにそう言葉を紡ぐネウスに、ミリアベルははっとした表情を浮かべると慌てて唇を開く。
「だ、だってネウス様はこちらに戻って来ますよね?戻られたらもしお怪我をされてしまっていたら私が治癒する事も可能ですが、スティシアーノ卿が大怪我をされてしまっても私が治しに行けないですから……」
最後の方はごにょごにょと小さく呟くような声音になってしまい、ミリアベルが恥ずかしそうに視線を彷徨わせると、ノルトとぱちりと視線が交わってしまう。
怪我をするのが目的で、それを承知している二人はきっと上手くやる事は分かっているのだが、怪我をしたノルトの側に居れない事が不安に感じてしまい、ミリアベルは自分の気持ちが落ち着かない。
ネウスは「あーあ」とつまらなさそうに呟くと馬車の座席に深く腰掛けて自分の膝に着いた手のひらに顎を乗せ、窓の外に視線を向けた。
ノルトは些か嬉しそうに表情を緩ませると、ミリアベルに向かって心配しなくて大丈夫だ、と言葉を紡ぎ、安心させるようにミリアベルの頭を撫でた。
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