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最終話
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そうして、時は更に経つ。
セリウスとシャロンがこの国に連れられて来て三つの季節が巡った。
ネウスの国では、セリウスやシャロン達が来た時以外に特段大きな騒ぎが起こる事無く、緩やかに穏やかに日々が過ぎて行った。
そして、今日は早朝からそわそわと落ち着きなくネウスがとある部屋の前をうろうろと行ったり来たりと繰り返していた。
「ネウス様……!お気持ちは分かりますが、落ち着いて下さい……」
「──だが……っ!」
ネウスと同じく、昨夜からその部屋の前にやって来ていたロザンナとマティアスが、うろうろと彷徨くネウスに呆れ、ロザンナがネウスを叱責する。
ロザンナに叱責され、しゅんと項垂れるネウスの姿にメニアの家族達は苦笑してしまう。
国の王であるネウスを叱責するなど、ロザンナくらいだ。
「もし出産の最中にメニアの身に何かあれば……!」
「万が一、何かあったとしてもメニアが事前に治癒魔法を魔石に込めておりますし、生前ミリアベルが完全回復の魔法を魔石に込めて残してくれているでしょう……!父親が情けなく狼狽えてどうするのですか……!」
ロザンナにピシャリ、とそうすげ無く告げられ、ネウスは未だに心配そうな視線を部屋の扉へと向ける。
ネウスの腕の中にはキョトン、とした顔のシークが収まっており、シークは自分の母親であるメニアが何やら大変な事になっているのだ、と察するとぐしゃり、と表情を歪ませた。
「──あっ、シーク様が泣いちゃいそう……っ!」
「シーク様大丈夫よ、メニアお姉ちゃんは大丈夫よ!」
メニアの甥っ子と姪っ子であるマルクとリリーも、自分達より小さいシークが不安そうにしているのを見て「励ましてあげなければ」と言う感情が湧き上がったのだろう。
ネウスの腕の中で泣き出してしまいそうなシークをネウスの足元でちまちまと体を跳ねさせて励ましている。
「──ああ、畜生っ。俺に治癒魔法が使えれば……!それ所か、中に入ってメニアを励ます事も出来ねえなんて……」
「それは仕方ありませんよ……。ネウス様の膨大な魔力が過干渉してメニアさんのお腹にいるお二人の御子に悪影響を及ぼす可能性がありますからね……」
マティアスの言葉にネウスが項垂れた瞬間。
扉の奥から赤子の声が響き渡り、ネウスはその扉を壊す勢いで中へと突入した。
「──メニア!」
「……、あ、ネウス、さん……」
ぐったり、とした様子のメニアにネウスはシークを抱いたまま近付くと、そっとメニアの頬を労わるように手のひらで撫で摩ってやる。
ネウスの手のひらにメニア自身も擦り寄るようにしながら、幸せそうに瞳を細めてちらり、と視線を少し離れた場所に向ける。
「──女の子、だそうですよ」
「──!」
メニアの言葉に、ネウスが瞳を見開いて振り向くと、部屋にいた数人の医師の内、女性の医師がスワドルに包まれた赤子を笑顔で連れて来てくれる。
ネウスが恐る恐るスワドルに包まれた自分の子供を覗き込むと、生まれたばかりでしわくちゃな肌で、髪の毛もちょっぴりとしか生えていないその赤子がとても愛おしく感じる。
髪の毛は、メニアの色を引き継いでいるのだろう。
シルバーの髪の毛がちょろり、と生えていて瞳はまだ閉じられているが、どちらの色を継いでいるのだろうか、とネウスは自然と笑顔になる。
きゅう、と握られている赤子の指先にネウスが自分の指先をそっと添えると、反射的に赤子がネウスの指をきゅう、と握り締める。
ふやふやと小さく泣きながら、それでもしっかりとネウスの指を握り締める赤子に、ネウスは自分の視界が滲んで来るのを感じると、慌てて自分の腕で目元を拭った。
「──シーク。お前の妹だ。これからは、お前が妹をしっかりと守ってやらねえとな?何れは、お前がこの国の民を率いて行くんだ。しっかりと守ってやれよ」
「いもうと……」
シークは、優しくネウスにそう言われ、ネウスの腕に抱かれたまま生まれたばかりの妹へとそっと手を伸ばす。
すると、シークの指をネウスの時と同じくきゅっ、と握った赤子にシークは瞳を潤め、「はいっ」と大きく返事をした。
ネウスは、ベッドでくたり、と体を横たえているメニアに近付くと、赤子をそっとメニアの横に横たえてメニアの額にそっと口付ける。
「メニア……俺の家族を産んでくれてありがとう……ゆっくり休んでくれ……」
「ふふ、どう致しまして。暫くお休みさせて頂きますね」
メニアとネウスは幸せそうに瞳を細めると、そっと軽く唇を触れ合わせた──。
それから。
ネウスの治める国の国王夫妻の仲の良さは周辺諸国へも伝わり、諸国からも二人の子供が誕生する度に祝いの言葉や、祝いにやってくる者が後を絶たず、また国王であるネウスは家族の為、国の為となればあらゆる危険を排除する苛烈な王として周辺諸国に恐れられた。
メニアとネウスに三人目の子供が生まれた際、ひっそりとネウスの国の裏で二人の罪人が息を引き取ったが、国では三人目の子供の誕生に生誕祭が開かれ、重罪人二人は母国へと返された。
メニアの母国であるアリティネイア国では、年々暴動が悪化し、激しさを増して内乱すら起き始めており、数十年の内に国は滅びるだろう、と思われていたがある年に生まれた女の子が聖属性魔力と二属性の魔力を持ち、男の子が全ての属性に適性を持って生まれた事により、次第に国の立て直しが図られるようになってくる。
が、それもまだ数十年も先の事。
その男女が生まれた際に、魔の者の国の王であるネウスは懐かしそうに瞳を細めて笑ったそうだ。
魂は巡るものらしい。
メニアとネウスの間には三男二女の子宝に恵まれ、二人と子供達はいつまでも仲睦まじく過ごし、国はいつまでも平和で、後を継いだシークも国民からとても慕われ、良き王として語り継がれてた。
瞳を閉じて、穏やかに微笑んだまま眠るように息を引き取った女性に、その男はそっと額に口付けると、宝石のように美しく煌めく紅い瞳から一筋涙を零すと、囁くように震える唇で話し掛けた。
「おやすみ、メニア……。これからも、ずっと一緒だ……。俺が滅びた後も、一緒に生まれ変わろうな……?」
ネウスは、メニアのキラキラと輝く魂を大切そうに自分の手のひらの上に移動させると幸せそうに瞳を細めて目詰めた。
魂は、巡るものである。
だが、男は無理矢理輪廻の理から愛する人の魂を外し手中に収めると、自分自身へ術式を展開した──。
自分の肉体が滅びた後、再び愛する人と巡り会えるように。
──終──
***************
ゴエティア72柱の悪魔を参考にさせて頂いております
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