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しおりを挟む転移魔法が組み込まれた魔道具により、謁見の間に姿を表したエリシュオンの体が淡い光に包まれており、その光が収まるのを待ち、エリシュオンは俯き閉じていた瞳を開いた。
「──我が国の罪人をネウス殿の国に引き渡しに参りました。アリティネイア国、第一王位継承者のエリシュオンと申します。この度は、お時間を頂きありがとうございました──」
口上を述べると、すっと顔を上げたエリシュオンは、目の前に居るネウスを目にし、そしてそのネウスの腕に抱かれた存在を目にして驚きに瞳をぎょっ、と見開いた。
「──っ!?……っ、??」
「ああ、ご苦労だった。そいつらの事はあとはこちらで全て引き受ける」
狼狽え、周囲に視線を向けるエリシュオンから視線を逸らすようにラティージルやマティアスはさっ、と自分の顔を背ける。
エリシュオンが狼狽えるのも分かる。
罪人の引き渡し、と言う些か重い内容の話をする場に何故幼子がいるのか、とエリシュオンが慌てるが顔を逸らしたネウス達の部下達を見て、エリシュオン自身も悟る。
彼らも止めたが、ネウスが良いと考えこの場に連れて来たのだろう。
それに、とエリシュオンはちらりとネウスが腕に抱くその幼子に視線をやる。
(──髪色も、瞳の色も……ネウス殿の色を受け継いでいる、が……あの顔立ちは……)
明らかに血縁関係があるであろう見た目の幼子に、エリシュオンは昨年ネウスの国で跡継ぎが生まれた、と大きな生誕祭が行われた事を思い出してネウスの腕の中の幼子がネウスの息子なのだろう、と言う事を察する。
艶のある髪色や美しく煌めく紅い瞳はネウスと同じだが、顔立ちは何処かネウスの妻であるメニアを彷彿とさせる程似ているように感じる。
それを感じたのは、エリシュオンだけでは無いのだろう。
エリシュオンが引き渡しの為に連れて来ていたセリウスとシャロンも同様に気付いたらしい。
「──いやぁっ!あの女っ!あの女が幸せになるなんて信じられないっ!私がこんな目に合ってるのに、何であんな女がっ!」
シャロンは取り乱したように叫び、体を拘束されながらも、髪を振り乱して喚く。
シャロンとは違い、セリウスは呆然としたままネウスの腕に抱かれているシークに視線をぴたりと合わせたまま、わなわなと唇を震わせている。
「──シークがこいつらの視界に入るのは不愉快だな」
ネウスがぽつり、と呟くとその呟きに反応したのはマティアスで。
ネウスはマティアスに視線を向けると一言マティアスに向けて言葉を発した。
「マティアス、跪かせろ」
「御意に」
マティアスは素早くセリウスとシャロンの元へと向かうと、二人の足元を自分の足でさっ、と払いバランスを崩した二人の後頭部を掴んでそのまま謁見の間の床へと膝を着かせ、頭を頭上から押さえつけた。
「──いっ!」
「ぐぅっ」
シャロンの苛立ち混じりの声が聞こえ、セリウスの呻き声が聞こえる。
ネウスは腕の中に居たシークに視線を向けると、言い聞かせるように唇を開いた。
「シーク。父様は少しあそこに居る罪人と話してくるから、ラティージルと一緒に居るんだ。いいな?」
「──はい」
シークがこくこくと頷いた事にネウスは満足すると、自分の傍までやって来たラティージルにシークを託し、壇上から下りると二人に近付いて行く。
「──そっちの女は、そろそろ限界だとは聞いていたが、まだまだ元気そうで安心した。これなら、この国で心ゆくまで採掘作業を行えるな?」
「なっ!」
ネウスの言葉に、シャロンはマティアスに頭を押さえつけられている状況にも関わらず拘束から脱しようと暴れ藻掻いているが、ぴくりとも動かないマティアスにその内体力が限界に達したのだろう。
両手を背後で縛られた状態のまま、シャロンは前方にどしゃりと崩れ落ちた。
「──おっ、と……」
マティアスは前方に倒れるシャロンに引っ張られぬようぱっ、と手を離して直ぐに倒れたシャロンの縛られている手首を握ると無理矢理体を起こさせる。
「ネウス様のお言葉を床に寝そべったまま聞こうとするなんて……何て女だ。しっかりと、姿勢を正してお聞きしろ」
「──ぅ、うぅ……っ」
前方に倒れ込んだ際に、顎を強かに打ち付けたのだろう。
シャロンは硬い謁見の間の床に顎を打ち付け、切れてしまったようで薄らと血を流している。
その光景をシークに見せないよう、ネウスからシークを託されたラティージルはさっと素早くシークの目元を自分の手のひらで覆うと、近場に居たマティアス以外の騎士をシャロンの元に行かせる。
手荒い仕草で血を拭い、シャロンの顎に布を巻いて応急処置をした騎士が下がるのを待って、ネウスは唇を再び開いた。
「──そこの女に言った通り、お前達二人には今後残りの刑期の年数十七年と、俺が科した年数、この国で採掘作業を命ずる。──喜べよ?あの場所には高い魔力が宿り、体も老いる事無く健康体のまま作業を続ける事が出来る。良かったなぁ?あの場所に居る限り若さを保ったまま健康体なまま、俺の国に貢献出来るぞ」
「──なっ!ま、待て、それは……っ!」
ネウスの言葉に、嫌な予感を察したのだろう。
セリウスが慌てて口を開くが、直ぐにネウスがマティアスに言葉を掛ける。
「マティアス、塞げ」
「──はっ」
ネウスの言葉に即座に動き出したマティアスに、セリウスは自分の口を布で覆われ強く縛られ、言葉を発せなくなる。
くぐもった声で何事か喚いているセリウスだが、その声は言葉になる事は無く、セリウスの目の前では話は終わった、とばかりに自分の息子に手を伸ばしラティージルからシークを大事そうに腕に抱えるネウスがエリシュオンと共にこの謁見の間を出て行く姿がセリウスの瞳にはいつまでも焼き付いていた。
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