【完結】偽りの聖女、と罵られ捨てられたのでもう二度と助けません、戻りません

高瀬船

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 シークを連れて謁見の間に姿を表したネウスに、謁見の準備を行っていたラティージルとマティアスはぎょっ、と目を見開いた。

「──えっ、!?ちょっ、何故シーク様をここに……!?」
「これからあちらの国の者が来るのですよ?シーク様には刺激が強すぎるのでは……!?」

慌てた様子でラティージルとマティアスがシークを受け取ろうと腕を伸ばして来るが、ネウスに抱きかかえられたシークは「やっ」と声を上げると二人の手をぺちり、と叩いて唇を尖らせて二人に向かって口を開く。

「とうさまと、一緒にいるの。とうさまのお仕事を、見るの」
「──だそうだ」

ネウスは自慢気に二人に胸を張ると、シークに笑いかける。

「だがな、シーク。これから父様は客人と大事な話をするんだが、その客人との話は母様に話しちゃ駄目だ」
「かあさまには内緒なの……?どうして?」
「母様に聞かせるには、酷い内容だからな。──母様は優しいだろう?優しい母様がこれからここでの話を聞くと、悲しくて辛くて、笑ってくれなくなるかもしれない」
「かあさまを悲しませないように、内緒なの?」
「ああ、そうだ。母様が悲しんだら、笑ってくれなくなったらシークは嫌だろう?」
「……うん、かあさまにはずっと笑ってて欲しい」
「じゃあ、今日これからここで起きる事は、シークと父様との秘密だからな?」
「──はいっ」

まだ、一歳と数ヶ月。
それなのにシークはしっかりと大人の言う事を理解し、返事をしている。
ネウスは口端を吊り上げて笑むと、シークの頭を乱暴に撫でた。

シークはネウスに撫でられた事に喜び、きゃっきゃと声を上げてネウスの手を自分の小さな手で追っている。

その光景を、ラティージルは感慨深げに瞳に涙をぶわりと溜めて口元を覆っている。
マティアスは「家族って良いなぁ」などとぼやいている。

ほのぼのとした光景に、ラティージルも肩の荷が降りたようにぽつりと本音を零すように呟いた。

「──ネウス様に、やっと愛する人が現れて……心が通じ合われて……本当に良かった。後継が居なければ、数年前のようにネウス様に仇なすような馬鹿な者がまた度々出てきたかもしれんしな……」
「数年前のような者が、ですか……?それは……心配し過ぎでは……?」

そんな馬鹿な、とマティアスが口にするもラティージルの表情は晴れないままで。
ラティージルは言葉を続けた。

「──いや、実際問題既に起きた事だからな……。元近衛騎士団の師団長補佐であるディシアードと、師団長のフィエンが第二師団の団員を唆し、ネウス様の弑逆しようと狙っていたんだ。……人間に甘い対応を取るネウス様が、人間を餌にしようとする輩にとっては邪魔な存在だったんだろう。──だが、ネウス様は今最愛の奥方を迎え、後継であるシーク様もいらっしゃる。それに、奥方は今現在身篭っていらっしゃるだろう?」
「ええ、それは、そうですが……」
「守る者が出来たあの方は、もう二度とあのような失態を犯さないだろう。……今後、御身よりも大事な存在がこれからも増えて行くのだからな」
「──そう言うもんなんですかね……?」
「ふん、お前はまだ独り者だから分からんのだろう?」

訳知り顔のラティージルに、マティアスはいやいや、と呆れたように言葉を零す。

「ラティージル様も独身でしょう……?何、ご自分には家族が居る風に話してるんですか……」
「──っ、私はまだっ独り身だがっ!今まで家族を得て変わっていった者達を大勢この目で見ているっ!」

ロザンナや、お前の父君であるカーティスだってそうだったぞ!と声を荒らげるラティージルに、マティアスは久しぶりに自分の父親と母親である二人の馴れ初めを近くで見ていたラティージルに聞こうと、話を続けたのだった。





そうして、時間が経ち準備が整った謁見の間にはアリティネイア国の重罪人であるセリウスとシャロンを連れて、エリシュオンが姿を表した。
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