【完結】偽りの聖女、と罵られ捨てられたのでもう二度と助けません、戻りません

高瀬船

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ネウスは、その報告を持って来たマティアスから詳細の記載された書類に目を通しながら溜息を吐き出す。

「──一年少ししか持たなかったか。あっちはどうだ?」
「はい。セリウスとシャロンは"ネウス様の助言通り"、あちらの国の聖寺院に所属している治癒師によって回復されつつ今も尚、鉱山で働いております。セリウスの方はまだ体力があり、持ちそうですがシャロンの方は昨年よりも顔色、体力共に悪化しているらしいので代償の影響が濃く出てきた可能性がある、とあちらの宰相からは報告が上がってます」
「そうか。まだ流石にくたばらねぇな……」

ネウスが自分の顎に手を当てふうん、と声を零すのを眺めつつ、マティアスはネウスに対して疑問を口にする。

「──シャロンが被った、"代償"の期間ですが……ネウス様はあとどれくらい生きられるとお考えで……?」

マティアスの言葉にネウスはちらり、とマティアスに視線を向けると口端をついっと吊り上げる。

「そうだな……あの人を喚び出したんだ……上位の存在の代償はでかいからな……俺であれば十年程残してやるが……。あの人は……四年、いや、三年程か?」
「えっ!でも、それではもう残り二年程になりますよ、人間の国での刑期は始めから無理難題な話だったのですか?」
「ああ。そもそもあの女には残りの時間は少ない。あっちの国に居ればそのまま命を落とすだろう。──だが、それだと死んで終わりになっちまうだろう?だから俺はあいつら二人を弱って来たらこの国に"寄越せ"と言っておいたんだよ」

"メニアを陥れようとした奴は生きてる価値なんてねえだろう?"と至極当然に口にするネウスに、マティアスも頷く。

「それで、時間の経過が遅い魔法が掛けられているうちの国の鉱山にやるんですか?」
「ああ、そうだ。あの中にいる限り、寿命で死ぬ事は無いからな。常に治癒魔法が掛かっている様な空間だから死ねない場所だ。……あの場所がこの国にあって本当に助かった」

愉しそうに笑うネウスに、マティアスは苦笑する。

ネウスは、あの二人を文字通り「死んで楽にさせる」と言う事をさせないつもりだ。
死ぬ寸前まで酷使し、刑期が終わり安堵した所であの場所から出して絶望させるつもりなのだろう。

「──この事を、メニアさんは知ってるんですか?」

ふ、と思い立ちマティアスがネウスに問かければ、ネウスは首を横に振る。

「メニアには話すなよ?精神面に負荷は掛けたくねえからな……。今後、子を孕んだら腹の子に悪影響を与えるかもしれねえだろ?だからメニアにはあまり残酷な話はするつもりはねえ」
「あー……、確かに……。そうですね、胎教に良くないとも聞いた事がありますし。メニアさんには一切知らせない方向で行きましょう。皆にも通達しておきます」
「──ああ。そうしてくれ」

こくり、とネウスは頷き、窓の外に視線を向ける。

今日、メニアは何処に行ってんだっけか、と考えてああそうだ、と思い出す。
確か今日は治療院に行き、怪我人に治癒魔法を掛けてくると出掛けて行った筈だ。

カーナとユリナも、メニアに着いて行っていると記憶している。

「──早く帰って来ねえかな……」
「はい?」








「メニア様メニア様!この間治して貰った傷、すっかり塞がったの、ありがとう!」
「本当?良かったわ」

小さな子供がメニアにたたたっ、と走り寄って来て、メニアのお腹に抱き着くと満面の笑顔を浮かべ、見上げて来る。

メニアはその子供の頭を撫でてやりながら、「でも」と眉を寄せて怖い顔をわざと作ると、唇を開いた。

「兄弟喧嘩で魔法を使ってまで喧嘩するのは良くないわ。大きな事故にならなかったから良かったけど……、魔法を使用しての喧嘩はこれからはしちゃ駄目よ?」
「はあい、ごめんなさい……」

きりっ、と眉を上げて叱るメニアに小さな男の子も素直に謝罪の言葉を口にするともう一度メニアにきゅうっ、と抱き着いてから離れる。

男の子の母親だろうか。
母親がメニアに申し訳なさそうな表情を浮かべてぺこり、と頭を下げるのを見て、メニアは笑顔で手を振った。



「──兄弟喧嘩で、魔法を打ち合ってお腹に穴が開くほどの怪我をして来た時はびっくりしたけど……。本当に魔の者の人達って、体が頑丈ね……」
「へへ、そうなんですよ!お腹に穴が開いたくらいじゃあ私達は死にませんからね」
「ただ、物凄く痛いですけどね」

メニアが後ろにいるカーナとユリナに話し掛けると、カーナは得意そうにへへん、と鼻を鳴らし、ユリナはその時の痛みを思い出したのか、顔を顰めて自分の腹部を摩っている。

治療院には、大なり小なり怪我をした人達が傷の手当にやってくる場所なのだが、治癒魔法を使用する事が出来るのはこの国ではメニアしかいない。
その為、今まで大きな怪我で命を落とす者は居なかったが痛みを耐える人達で治療院はいつも一杯だったのだが、メニアがこの国に来てから魔の者に治癒魔法を掛け始めてから、人間の聖属性魔法は掛かりにくいとは言うものの、格段に傷の治りが早い。
以前までは治療院で働く人達がへとへとになりながら働いていたが、メニアが治療院に訪れるようになってからは休憩時間を取れるようにもなり、手伝いに来ているメニア達とテーブルを囲んでお茶を楽しむ時間が出来たりと、とても楽になった、と感謝された。

「今日は、この方で最後ね」

メニアは、仕事の作業中に腕を裂いてしまった者に治癒魔法を発動した。
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