【完結】偽りの聖女、と罵られ捨てられたのでもう二度と助けません、戻りません

高瀬船

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 そうして、季節が巡りメニア達が自国のアリティネイアの国を出てから早いもので一年が経った。
 この国に移動して来た当初は、メニア当人も含め、メニアの家族、甥っ子と姪っ子も環境の変化に四苦八苦していたが甥っ子と姪っ子も環境の変化に慣れたのだろう。

 最近ではネウスの城の庭で元気に走り回る姿が見れる。

 王城では、マルクやリリーと同じ年頃の魔の者の子供達が集まり、遊び回る光景がほのぼのとした平和そのもので、走り回る子供達の様子を見る為に用も無いのに王城に登城する魔の者が居るくらいだ。

 メニアのハピュナー子爵家は、ネウスが期待していた以上に外交官として良く働き、他国との交流も以前よりとても盛んに行われるようになった。





 一人の男が城の煌びやかな廊下を足早に進んでいた。
 その男はこの国の王であるネウスで、ネウスにしては珍しくカチッとした礼服を着込みその礼服のカラーはネウスがいつも好んで選んでいた黒や紺といったカラーでは無く、真っ白だ。
 金糸で繊細ながら煌びやかな刺繍を施された礼服の裾がネウスが足早に歩く度にふわり、と風に靡いて燕尾の裾が舞う。

 ネウスはある部屋の一室の前に辿り着くと、逸る気持ちそのままに扉の取っ手に手を掛けた。

「──メニア!」

 バタン! と大きな音を立てて扉が開いた衝撃と、ネウスに大きな声で自分の名前を呼ばれた事に中に居たメニアはびくり、と体を跳ねさせた。

「ネ、ネウスさん……っ。びっくりしました……もうちょっと静かに入って来て下さいよ」

 メニアが困ったように眉を下げて笑う。
 メニア自身も、ネウスと揃えたような純白のドレスに身を包み、ベルラインのドレスはウエスト部分に切り返しがあり腰辺りから何重にもシルクとレースの生地を重ね合わせボリュームを持たせている。
 レースの半ば辺りから裾までグラデーションでネウスの瞳の色と同じ紅いカラーが入っており、レース部分には小さな宝石がふんだんに縫い付けられており、紅いカラーの色を反射してキラキラと煌めいている。

 ふんわりと結い上げられた髪の毛にはレースに縫い付けられた宝石と同じ小粒の宝石が散りばめられ、その宝石が照明の光に反射してキラキラと輝いている。

 ネウスは自分に声を掛けたメニアに見蕩れるようにじぃっと視線を向けて、同じ部屋でメニアの準備を手伝っていたメニアの母親とロザンナに呆れたように笑われる。

「──っ、あっ、ああ……悪い……。メニアがあまりにも綺麗だったから見蕩れた」
「あ、ありがとうございます……」

 ネウスの素直な賛辞に、メニアが気恥ずかしそうに頬を染めてお礼を述べるとネウスはメニアに向かって手を差し出す。

「メニア、そろそろ時間だ」
「ええ、そうでしたね」

 メニアがネウスの手のひらに自分の手のひらをそっと重ね合わせると、メニアの母親とロザンナも立ち上がり、扉の方へと歩いて行く。

「じゃあ、メニア。私とお母様は先に会場に行っているわね」
「後でね、メニア」
「──あっ、はい! お母様、ロザンナさんお手伝いありがとうございました!」

 手を振って出て行くロザンナと母親にメニアも小さく手を振って二人を見送る。

 メニアは、まじまじと自分を見詰めてくるネウスの視線に「なんですか?」と笑顔で声を掛けた。

「──いや……。こっちに来てから一年くらいだろ……? もう少し時間が掛かるかと思ってたんだが……」
「そう、ですね……。私もそう思ってたのですが……」
「今日に間に合ったのは……まあ、あいつらが急いだってのもあるんだろうけどな」
「ふふ、ロザンナさんやカーナさんユリナさんが早く早く、って急かしてましたもんね」
「ああ……。あいつらに準備は全部丸投げしたからなぁ……ここまで早く準備をしてくれるとはな……」
「沢山お礼を言わないとですね」

 幸せそうに笑うメニアに、ネウスも瞳を細めて笑む。



 この国に当初移住してきた時は、種族の違いからあまり周囲と馴染めなかったメニア達であったが、日が経つにつれて少しずつ人間と魔の者の種族の間にあった距離も縮まって来た。
 それには、メニアやメニアの家族達が努力をしてこの国の国民である魔の者達に受け入れて貰っていったのだが、簡単では無い道のりだっただろう。

 ネウスはこの国の王ではあるが、メニア達を受け入れろと言うのは簡単だ。
 だが、上辺だけの関係を築きたくはない、とメニア達がネウスに相談しそれぞれ各々が努力をして今はしっかりとメニアも、メニアの家族達もこの国の国民達に心から受け入れられている。



 ネウスは、慈しむようにメニアを見詰めると頬に掛かった髪の毛を耳に掛けてやる。

「今日、正式に式を上げれば諸外国にもメニアが俺の伴侶……妻だと認められる。……まあ、既に付き合いのある国はメニアを王妃として扱ってはいるが……国交の無い国にも、王妃としての対応を求められる」
「──はい」
「かなり、大変だとは思うが……。絶対に無理だけはしてくれるなよ?」
「──ふふ、はい。それは勿論」

 ネウスは笑うメニアに一瞬だけ軽く口付けると、部屋の扉の方へと体の向きを変える。

「──じゃあ、そろそろ行くか? 愛しの奥さん?」
「ええ、愛しの旦那さま」

 二人はじゃれあうように笑い合いながら扉から出る直前に顔を見合わせてもう一度口付けあうと笑い声を上げながら皆が待つチャペルへと向かった。



 ──今日は、この国の国王であるネウスと、メニアの結婚式である。
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