【完結】偽りの聖女、と罵られ捨てられたのでもう二度と助けません、戻りません

高瀬船

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ネウスはヘンリーとラドに伝える事を伝え終えると、上機嫌で応接間を出て行く。

先に部屋を出て行ってしまったメニア達を追い掛けるべく、ネウスは長い廊下を急ぎ足で通り抜けた。



「──メニア!」

少し進んだ所でメニア達の後ろ姿を見付けたネウスは前方に向かって声を掛ける。
ネウスの声に反応したのだろう、一番前を歩いていたメニアが嬉しそうな表情を浮かべて振り返った。

「ネウスさん、もうお話はいいんですか?」
「ああ、ラドにも、国王にも話は済んだ。もう、この国に居る必要はねえな?」

ネウスの言葉にメニアは小さく頷くと唇を開く。

「そうですね、お父様達の出立の準備が終わり次第、ネウスさんの国に移りましょうか」

メニアの言葉にネウスは口元を綻ばせると、そのままメニアの腰に腕を回して王城の正門へと向かって行く。
メニア達が城を出て行くまで、不自然な程他の人間の姿は無くメニア達は王城から邸に戻るまで誰かに呼び止められる事無く、ハピュナー子爵邸へと戻る事が出来た。




メニア達がハピュナー子爵邸に戻る道中、王都の街中は、ハピュナー子爵家の馬車が姿を表し馬車道を通るとチラチラと平民や、商人のような様子の人間が視線を向けて来る。

以前のように、また馬車の進みを止められてしまうのでは、とメニアがハラハラとしているとメニアの隣に座っていたネウスが安心させるように唇を開いた。

「あれ以降、何か悪さをしてくる奴はいねえし、平民達に噂を流し扇動していた貴族の姿も見えやしねえからもう大丈夫だろう」
「そう、ですかね……。もうあの時のような事が起きなければいいのですが……」
「御者の席にマティアスも居るから、何かあればマティアスが対応するだろう」

ネウスの言葉に、メニアはほっと肩の力を抜くと座席に背中を預ける。




怒涛の数日間だった。
メニアが父親や、義兄のハロルドに自分の考えを話して、二人がメニアの考えに賛成してくれる可能性は低かった。

例え、ネウスの国に行ったとしてもあちらの国で仕事が無ければ移住したとて家族を食べさせて行く事が出来ない。
それ故、ネウスがハピュナー子爵家に外交官としての地位を約束してくれた事はとても大きい。

ネウスの国は、魔の者の国であり人間が殆ど居らず、他国との外交に力を入れて居なかった。
魔の者と人間との間に生まれたマティアスやカーナ、ユリナ等の存在は確かに居るがそれでもまだ少ない。
魔の者と人間の間に生まれた子が住み良い国になるように、とネウスは昔から考えてはいたそうだが自分自身昔に出会った人間の仲間達以外とは交流をしていなかった為に頼れる人間も居らず、またマティアス達のような子供が多い訳でも無く、本格的に取り掛かってはいなかったそうだ。

だが、今回メニアを自分の妻として迎え、生まれて来る子供達は魔の者と人間の性質を受け継ぐ子である。
その為にネウスは本格的に他国──人間の治める国とも国交を開始する事にし、そうしてメニアの家であるハピュナー子爵家にその役割を託した。

始めは外交官のような仕事が務まらぬ、と難色を見せたメニアの父親と義兄であったが、人間の国での外交官と言う仕事では無く、魔の者の国での外交官なので手探りで外交と言う仕事を一から作り出し、他国との橋渡し役になって欲しいと言うネウスの説得に頷いた。

メニアも、メニアの家族も、既に魔の者の国に移住する心積もりも覚悟も決まっている。

生まれ育った土地を去る事に、寂しさを感じるだろうか、とメニアは考えていたのだが思っていたよりも寂しさや感傷的な気持ちになる事が無く、そんな自分自身にメニア本人も驚いた。

そうして、そんな事を日々考えていたメニアはついついぽつり、と言葉を零した。



「──この国を去る、と言うのに驚く程悲しさや寂しさを感じないんです……この国が好きだと思っていたのですが、存外私は冷たい人間だったのでしょうか……」

メニアの言葉に言葉に、馬車に同乗していたネウスとロザンナはぱちくり、と瞳を瞬かせるとロザンナがメニアに向かって唇を開いた。

「メニアが冷たい人間だなんて思わないわ。あなたは、自分の大切な人達に対してはとても親身に、こちらが心配してしまう程に心を砕くじゃない。……この国を離れる事に対して、そう思うと言う事は、そうね……長年魅了と信用によって精神に干渉を受け続けて外界との関係を無理矢理遮断されていたからかもしれないわね」
「そう、なんですか……?セリウス様達から受けていた精神干渉が原因で……?」

不思議そうに言葉を返して来るメニアに、ロザンナは当然のように頷く。

「ええ、だってそうでしょう?子供の頃にあの男と婚約を結び、その当時は精神干渉を受けていなかったとは言え、侯爵家からの申し出に子爵家は肩身の狭い思いをしたのじゃない?大人達のそう言った雰囲気は自然と子供にも伝わるし、窮屈に感じる事が常にあったはずよ……。それに、外に友人を作る事も、学院で学友と交流を持つ事もしていなかったのでしょう?他者との関わりを深く持つ事が無ければ、メニアにとって大切な人間は家族と、あの婚約者と女性だけになるじゃない?」

ロザンナの言葉に、メニアは瞳を見開くとロザンナの言葉に納得する。

「そ、そうですよね……。確かに、ネウスさん達と出会う前は私にとって大事な人は家族と、元婚約者と、友人一人だけでした……。その他の人は、その……ロザンナさんが言う通り、興味を持つ事が無かったです」
「ええ、そうだと思うわ。メニアは長年を掛けてそうなるようにあの男達に誘導されていたのだから……。でも、よく考えたら別にそれって不思議じゃないのよ?」
「──え、?不思議な事では無いのですか?」
「ええ、そう。だって、自分にとって大切な人が沢山いる人なんていないじゃない?ネウス様を見て、ネウス様は自分の信頼する部下以外にはとても冷酷で残虐よ?自分が興味を持たない者には無関心だしね」

ロザンナの言葉に、メニアはちらりと視線を向けると、メニアから視線を受けたネウスは嫌そうに眉を顰めて「やめろ」と呟いた。

「あら、申し訳ございません?」

ロザンナが楽しげに笑いながら謝罪をすると、ぶすっとネウスは唇を尖らせて小さく呟く。

「そんな事、メニアにわざわざ知らせなくていい……」
「──ふふっ、そうですね。……メニア、だからあなたもこれから沢山大切な人をネウス様の国で作って行けばいいのじゃないかしら?私達はそうしてくれるととても嬉しいわ」

ロザンナの言葉に、メニアは自分の心がじんわりと暖かくなるような不思議な感情に包まれて、嬉しそうに破顔して頷いた。
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