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しおりを挟むセリウス、シャロン両名が裁かれた後に両侯爵家の当主が名を呼ばれ裁きの間の中央へと姿を表した。
両家にも壇上で玉座に座していたヘンリーは罪状を読み上げ、レブナワンド侯爵家とタナヒル侯爵家の当主は青い顔をしてただ小さく返事を返した。
場所は変わってラドに応接間に案内されたメニア達は、部屋へと通された後この後この国の国王であるヘンリーがやって来る事を説明された。
「メニア・ハピュナー嬢……その、先程魔の者の王であるネウス様より語られたハピュナー子爵家が被った被害の仔細をお伺いしたいのです。まもなく国王陛下が参られますので、その際にご説明頂けると幸いです」
「──分かり、ました。子爵家当主と、次期当主である義兄のハロルドから聞いた内容となりますので、私自身も正確な被害までは把握しておりません。正確な被害状況をご入用の際は、ハピュナー子爵家当主と、ハロルドを王城までお呼びだて下さい」
「承知しました。その際はハピュナー子爵とハロルド卿をお呼び致します」
メニアとラドが会話をしていると、応接間の扉が開けられ、そこからネウスが顔を覗かせた。
「──ここに居たか」
「ネウスさん」
スタスタとメニア達の居るソファへネウスは近付いて来ると、そのままメニアの隣へとネウスは腰を下ろした。
「マティアスには指示をして来た。ラティージルは先に国に帰すが、あいつに何も用事はねえよな?」
ネウスがロザンナに視線を向けてそう問い掛けるが、ロザンナはふるふると首を横に振ると「大丈夫です」と答える。
「寧ろ、ラティージルがこちらに来た事に驚きました。フィエンの拘束には彼の力が必要だったのですか?」
「──ああ。まあ、無いとは思うが暴れた際にあいつだったら無傷で制圧出来るだろう」
「まあ、可哀想に……。彼は帰って、これから色々な準備があると言うのに……」
「あー……、まあそうだな。婚礼の準備や家の手配を任せてたんだった……」
ネウスの「家の手配」と言う言葉に、ラドは「やはり」と背中に嫌な汗が伝うのを感じる。
このままではあっさりと聖属性魔法の使い手をみすみす国外に出してしまう、と焦りを感じたラドはヘンリーが来るのを今か今か、と扉の方角へ視線を向けて待った。
ネウスとロザンナの不穏な会話が聞こえてきて少し。
ネウスが入って来た扉が開かれ、国王であるヘンリーが入室して来た。
「──待たせてしまい、申し訳ない。裁きの間で全てが済んだ……。ネウス殿の側近だろう。王城内で迷っておったので、連れて来たぞ」
「すみません、ネウス様。メニアさん。遅れました……」
眉を下げて笑うマティアスと、些か顔色を悪くしたヘンリーが室内に入って来た事で、この室内に緊張感が満ちる。
ネウスがマティアスに対して「遂行したか?」と聞くと、マティアスはしっかりと頷いている。
その様子を横目で見ながら、ヘンリーは頭を抱える。
まさか、あのような場所で罪人の処刑を行うとは思わず、マティアスがフィエンの首を刎ねた瞬間、裁きの間は阿鼻叫喚に包まれた。
セリウスとシャロンは勿論、周囲に居た貴族達も
騒ぎ、気絶してしまった者まで出た。
何とか事態を収拾し、ここにやって来たヘンリーはぐったりと疲れ果てていたが、今このタイミングで聞かねば、直ぐにでもメニアの子爵家がこの国を出て行ってしまいそうで、ヘンリーは重々しく唇を開いた。
「──先程、ネウス殿が語ってくれた子爵家が負った被害を話して聞かせて貰っても良いだろうか?」
「正確な情報では無いかもしれませんが……当主である父と、義兄ハロルドから聞いた内容をお伝え致します」
ヘンリーの言葉に、メニアはゆっくりと落としていた視線を上げるとヘンリーにしっかりと視線を合わせて唇を開いた。
先日、メニアはネウスと共に父親と被害状況について邸で確認をした時の事を思い出しながら説明して行く。
共同事業を行おうとしていた相手先からは契約を打ち切られ、商人達と進めていた新規商品の開発も突然打ち切られた。
その為、事前投資していた資金の全てを回収し切れなくなり、多額の負債を負い、そればかりか数々の取引のあった商会とも契約解除、良くて縮小の浮き目に合い、今は資金回収と打ち切られてしまっている契約を再び結び直して貰おう、とメニアの父親と義兄のハロルドで個々に動いている最中だったらしい。
その事を順を追って説明し、メニアが全てを話し終えた所で国王であるヘンリーが重くるしい空気の中、唇を開いた。
「──その、結果も……レブナワンドとタナヒル侯爵家が不正を犯してハピュナー子爵家に圧を掛けたのだろう……。王家から正式にその書類は不正作成された物だと発表をしよう。そうすれば、全てとは行かぬかもしれぬが、ある程度の貴族達は納得し、再びハピュナー子爵家と契約を結び直すだろう」
国王であれば、そう言ってくるのが分かっていた。
国内の貴族達に多く報せを出してハピュナー子爵家の名誉を回復してくれるだろう事は分かっていた。
だが、名誉が回復するのは国内の貴族からだけだ。
今までやり取りを行っていた商人や商会の信頼を回復するには長い月日が掛かってしまう。
だからこそ、メニアはきゅっと唇を引き結ぶとヘンリーにしっかりと視線を合わせて唇を開いた。
「──いいえ。結構です。我がハピュナー子爵家の信用の回復は難しい為、我々は新たな地で一から始める事と致しました」
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