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しおりを挟む──お前がそれを言うのか。
ネウスは、自分の頭が怒りでカッとするのを感じて、咄嗟に自分の腰に下げている長剣の柄に手を掛けてしまったが、メニアがガタンっと音を立てて椅子から腰を上げた事に気付き、ネウスはメニアへと視線を向ける。
「──メニアっ」
「……戻りましょう、ネウスさん。もう、裁きは下されました。これ以上ここに居て、セリウス様やシャロン様から聞くに耐えない言葉達を聞かされるのはもう嫌です」
「……そうだな。──だそうだ、国王。俺達はこの場を去るが、"約束"は違えるなよ。こっちの国での刑期が終わったら必ず俺の元に連れて来い」
ネウスが国王ヘンリーに向けてそう声を掛け、メニアが立ち上がり待っている所まで戻って行く。
「国王陛下、離席と言う形となってしまい申し訳ございませんが、この場から離れる事をお許し下さい……聞くに耐えぬ言葉をこれ以上耳にしたくないのです」
「わ、分かったメニア・ハピュナー嬢……いや、ネウス殿の王妃よ。だが、先程のハピュナー子爵家への件について、仔細を知りたい。ラドに案内させる故、案内された部屋で待っていてくれ」
「かしこまりました」
メニアとヘンリーが会話をする間も、セリウスはメニアに恨みの籠った視線を向け続け、シャロンも悔しそうにメニアに視線を向けている。
「──メニア。出るぞ」
「はい、ネウスさん」
メニアの隣まで戻ったネウスは、メニアの腰に手を回して退出を促すとラドが素早く近付いて来ており、二人の案内を始める。
「ネウス様、メニア様。それではご案内致しますのでこちらに──」
ラドの言葉に頷いたメニアとネウスは、そのまま裁きの間から出て行こうと足を動かしたが、そこでネウスはピタリと足を止めるとロザンナ、カーナユリナを呼んだ。
「──ロザンナ、カーナとユリナ!」
「っはい!」
ネウスに声を掛けられた三人はメニアとネウスに近付いて来ると、メニアとネウスのすぐ側で静止する。
ネウスが何故突然三人の名前を呼んだのか、意図を図りかねているメニアは不思議そうな表情をしていたが、ネウスはメニアに向かって柔らかい声音で告げた。
「メニア。マティアスに指示してから直ぐにメニア達を追うから先にラドと一緒に行っててくれ。ロザンナ達もメニアと一緒に着いていってくれ」
ネウスはそう言うと、メニアが小さく頷いた事を確認し、メニアの頭を一撫でするとマティアスの元へと歩いて行く。
ラドに促され、裁きの間を出て行くメニア達を見てからネウスはマティアスに近付いて行くと、マティアスもネウスの元へとやって来る。
「──何か、ご指示ですか?」
「ああ。……ラティージルが連れて来たフィエンだが、この裁きが終わり、あの二人がこの場を出る前にあいつらの前で首を刎ねろ。あいつらに、自分達もこうなる可能性がある、と言う恐怖を植え付けろ。後は、そうだな……メニアが出て行った後のこの国の貴族達のメニアに対する態度をしっかりと見ておけ」
「──かしこまりました」
「全て済んだら、ラティージルは国に返せ」
そこでネウスは一度言葉を区切ると、自分の上着の内ポケットから一つの魔石を取り出す。
「この魔石には転移魔法の魔法が封じられている。ラティージルに渡せばそれで済む」
「確実にお渡しします」
「ああ。頼んだぞ」
ネウスはマティアスにそう言うなり、踵を返してメニアの後を急いで追って行く。
そのネウスの後ろ姿を見詰めながら、マティアスはゆったりと裁きの間に視線を巡らせると眉を顰めた。
(──メニアさんに対して、この国の貴族達はあまり良い感情を抱いていないのか……。人間が、魔の者と親交を深める事に忌避感を未だに抱いている……)
この雰囲気をメニアはしっかりと肌で感じ取っていたのだろう。
メニアは、この裁きの間を見渡せる壇上の上からしっかりと見ていた。
魔の者の王であるネウスと、この国の人間であるメニアが一緒になるなんて、と考えている人間も少なからず居るのだろう。
聖女としての職務を放棄して、他国にその力を振るう事も良く思っていない貴族達も居るだろう。
「こちらは人間に対して悪い感情を持っていない、って言うのにな……」
「同感だよ」
マティアスが歩きながら小さく呟くと、マティアスの言葉に返事が返り、マティアスははっとして瞳を見開くと「失礼致しました」と謝罪を口にする。
「ラティージル様がいらっしゃる前で……気が抜けてました……」
「いやいや。マティアスの嫌になる気持ちも分からんでもない。まったく……ネウス様はいつも我々に面倒事を押し付けて何処かに行ってしまう」
「はは……それは、すみません……」
マティアスが苦笑すると、ラティージルもマティアスに対して眉を下げて笑みを返す。
そうして二人は、困惑した裁きの間の空気など気にも止めずにこの国の国王であるヘンリーに視線を戻してこの裁きが終わる瞬間を待った。
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