【完結】偽りの聖女、と罵られ捨てられたのでもう二度と助けません、戻りません

高瀬船

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ヘンリーの冷たく、凛とした声にセリウスの隣で俯いていたシャロンは遠目にもぶるぶると体が震えているのが分かる。
これから自分達が恐ろしい場所へ連れていかれ、罪を償わされると言う事に恐慄いているのだろう。

メニアは、それを傍目から見ていて瞳を細めた。
自身の胸に満ちてくるこの感情は何なのだろうか、と何処か冷静な自分がふと考える。

身知った者が裁かれる事への憐憫の情か、それとも未だに自分はこの二人に対して友愛や親愛の情を持っていたのか、とメニアは考えてふるふると緩くかぶりを振り、その考えを払い落とす。

(セリウス様とシャロン様は結局、私を言う事の聞く都合の良い人形に仕立てようとしていた……この数年、友人だ、婚約者だ、と大事にして来たのは都合の良い人形を手元に置いておく為──そんな酷い人達を気にする必要なんて……っ)

メニアは自分の唇をぐっ、と噛み締める。

夜会の会場で貴族達から向けられた鋭い視線を思い出す。
自分の家が、自分の大切な家族が窮地に陥った時の感情を思い出す。
王都で平民達から向けられた悪意有る視線と感情を思い出す。
そして、子供達から投げられたこちらを害そうと放たれた石がぶつかった時の痛みを思い出して、メニアはその時の悲しみや、怒りを思い出してセリウスとシャロンへ強い視線を向ける。

メニアの鋭い視線を感じたのか、セリウスが僅かにピクリと体を震えさせてうろ、とメニアの方へと視線を向けた。
瞬間。

──パチリ
と、セリウスとメニアの視線が合ってしまい、メニアは表情には出さないものの、ビクリと肩を震わせる。

メニアとセリウスの視線が合った事に気付いたのだろう。
ネウスが不愉快そうに眉を顰めたが、自分の直ぐ側にいるセリウスを特に咎める事無く成り行きを見守っているようだ。

メニアは、自分とセリウスに視線が集まっている事を感じて、居心地悪く僅かに身動ぎしたが、セリウスはメニアに視線を向けたままじっ、と動かず、何を考えているのか震える唇を開いた。

「メニっ、メニア……っ!──悪かった、悪かった……!俺と、シャロンが悪かった……っ、俺が、減刑されないのは分かるっ、だけどっ」
「──何を……っ、」

メニアが小さく呟いた声はセリウスの耳には聞こえなかったのだろう。
セリウスはメニアが顔を歪めた事を気にもせず、言葉を続ける。

「だけどっ、せめてシャロンと、家族達だけは……!もし家族達が難しいのなら、シャロンだけでも減刑してくれっ!」
「──厚かましいな」

セリウスの側にいたネウスが不快感を顕に口にする。
婚約者であったメニアに、他の女性の減刑を希うなどどれだけ図太い神経をしてやがんだ、とネウスが思い、口を聞けなくしてやろうか、とセリウスに一歩近付いた所で。

メニアが震える声音で言葉を発した。

裁きの間に居た人間達は皆、セリウスとメニアへ視線を向けて固唾を飲んで見詰めていたが、メニアが言葉を発した事でメニアへと視線を向けた。

「──私に、"それ"を言うのですか……。始めに捨てたのは、貴方達でしょうっ!?私の気持ちも、信頼も全て捨てたのは貴方達です!酷い事をしたのは貴方達なのに、自分達が窮地に陥った時だけ救いを求めるなど、許されざる行為です!」

メニアは、悔しさや当時の辛さを思い出し、悲鳴を上げるような声音で叫ぶ。
メニアの声に、セリウスはぐっ、と唇を噛み締めると俯いた。

ネウスはセリウスとシャロンを何の感情も篭っていない瞳で見詰めると、そのままセリウス達に背を向けて踵を返すとメニアの元へと戻る為足を動かした。

その時、ぽつりと小さく、極小さな声音でセリウスがメニアに向かって憎しみが篭った声音で小さく呟いた言葉を聞いた。

「──くそっ、メニアだって……、メニアだって浮気をしたじゃないか……っ、いつの間に魔の者の王と出会って、気持ちを通わせたんだっ、自分だって俺を裏切ったくせにっ」
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