【完結】偽りの聖女、と罵られ捨てられたのでもう二度と助けません、戻りません

高瀬船

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「いえ……リュドミラ卿に謝って頂く必要はありませんよ……」

メニアは緩く首を横に振ると苦笑しながらハーランドにそう言葉を返す。
ハーランドはメニアの言葉に申し訳無さそうな表情を浮かべると、メニアの側に居るネウスとマティアスを視界に入れて表情を引き締めた。

「──あなた方の事は、メランド卿から聞いております……我が国の聖女様を守って頂きありがとうございます」
「……何か勘違いしているみてえだが、俺達……俺は、個人的にメニアを気に入ったから行動を共にしていただけだ……。それに、メニアをこの国の聖女として自分達の物のように扱うその言葉は気に入らねえな?」

ネウスのヒヤリ、とした声音と視線にハーランドはひゅっと息を飲むと「も、申し訳ございません」と即座に謝罪の言葉を口にして頭を下げる。

この国の、王立魔道士団の団長が聖女の護衛である男に恐れを抱き、頭を下げている。

その異様な光景に、周囲に居た街の人間達は戸惑い、自分達が聞かされた言葉達は果たして本当だったのか、と疑問が浮かんで来る。

先程、魔道士団の団長の口から聞こえた「聖女」と言う言葉は誰に向けて言われていたのか。
何故、偽の聖女に謝罪をしているのか。
何故、偽の聖女の護衛に敬語を使用し、頭を下げているのか。

周囲に居た平民達は、何か自分達がとんでもない勘違いをして、とんでもない事をしてしまったのではないか、とさあっと顔色を悪くするとメニアへと視線を向けた。

「お、おい……。アレが本当の聖女様だったら……俺達相当不味い事をしたんじゃあ?」
「だ、だが……っ大勢の貴族があの女は偽物だ、と言っていたんだろう……?」
「だけど、それだったらさっきの治癒魔法はどう説明するんだよ……っ」

ざわざわと近場の者達と小声でやり取りをしていると、メニアを見詰め過ぎていたのだろうか。
大勢からの視線を受けて、メニアがふと平民達の方へ視線を向けた。

「──あっ、こっちを見るぞ……っ」
「ほ、本当に聖女様だった、のか……?」

平民達は、自分勝手に期待を込めてメニアを見詰める視線につい熱い感情が籠る。
清廉な聖女様だったら、慈悲深い聖女様だったら自分達の愚かな行いを許してくれるかもしれない、と言う勝手な思い込み。
どうか、自分達を許してくれないだろうか、いや、聖女様だったら許してくれるに違いない、と思い平民達はメニアを見た。


が、メニアから向けられた視線は凍てつくように冷たく、寧ろその瞳には何の感情も宿っていない。

一瞬だけ平民達に視線を向けたメニアは、直ぐにふいっと平民達から視線を外してしまった。



「ハピュナー嬢、貴女も二日後の裁きの日に、その……」

ハーランドはそこで一旦言葉を切ると、周囲に聞こえてしまわないようにメニア達へと近付きぼそり、と小さく言葉を続ける。

「……あの両侯爵家の裁きの際、王城へ、裁きの間へ来られるのだろう?」
「──ええ、陛下にもそのように申し付けられておりますし、あのお二人に協力していた魔の者を捕縛しているのはネウスさんですから」
「俺らが行かねえと証拠が揃わねえだろ?」

メニアの言葉に続くように、ネウスがひょい、とメニアの肩に自分の腕を回してハーランドに言葉を放つ。
ハーランドはネウスの言葉に顎に手を当て「確かに」と呟くと、唇を開いた。

「──それでは、当日は魔道士団の団員に登城の際に警護させます」
「ああ、それなら馬車は二台用意してくれ。マティアスと、その妹達も城へ行かせる」
「かしこまりました。当日の朝一番で迎えに伺いますので宜しくお願いします」

ハーランドとネウスが当日の事を決めている最中、メニアの背中には痛い程に平民達の視線が突き刺さる。

その視線に気付いているマティアスは先程のように平民がメニアに危害を加えないか注視しているが、平民達の様子が先程とは違い、弱々しい。

「──ああ、よろしく頼む」

ネウスとハーランドの話が一段落付いたのだろう。

ハーランドはもう一度メニアへ視線を向けると、胸に手を当てて、再度頭を下げる。

「では、ハピュナー嬢。また、二日後に」
「はい、リュドミラ卿」

メニアもにこり、と笑顔を浮かべてハーランドに挨拶を返す。

メニア達との会話が終わったハーランドは、そのまま集まっている平民達の元に戻って行った。

「あっ!このままだと、事情を聞いてまたリュドミラ卿がこちらに来ちゃうかもしれません!早く馬車に戻りましょう!」
「……いいのか?」

わたわたと慌て始めるメニアに、ネウスは意外だ、と言うようにメニアに声を掛ける。
メニアはネウスの言葉の真意に気付くと「いいんです」と短く言葉を返してネウスとマティアスと共に急いでその場を立ち去った。





王都の大通りにある馬車止めに止めていた子爵家の馬車にまで戻って来ると、メニア達三人はそのまま馬車に乗り込み、邸へと戻る。

馬車がガタガタと動き出して、ネウスが唇を開く前にメニアが「そう言えば」と唇を開いた。

「色々な事が起きすぎて、今更になってしまうのですが……シャロン様が喚び出したアーモ様と言う方は、もう本当に還ったのですか?」
「──ああ、そうだったな。バタバタと色々な事が起きちまったせいでそこをメニアには説明していなかった……。ったく、最後に忌々しい事までしていったからなあの人は……」

邸まで戻るには、馬車ではまだ大分時間が掛かる。
ネウスは一旦馬車を止めると、マティアスを馬車から追い出して御者の隣へと追いやった。
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