【完結】偽りの聖女、と罵られ捨てられたのでもう二度と助けません、戻りません

高瀬船

文字の大きさ
上 下
127 / 155

127

しおりを挟む

「王太子殿下に気を付ける、って……言質をって……」

メニアが「そんな馬鹿な」とでも言うように眉を下げてネウスに向かって言葉を発するが、ネウスは真剣な表情のままじっとメニアを見詰めたまま、メニアの言葉に唇を開いた。

「……この国にとって、"聖女"と言う存在や、聖属性魔法の使い手は特別なんだろう……?絡め取られないように用心しておくに越した事はねえだろ」
「た、確かにネウスさんの言う通りですが……このような場所でそんな、突然そのような事を……」
「──あっさりとあの男との婚約が歎願書如きで無くなる事がその良い例なんじゃねえか?まぁ、あの馬鹿な元婚約者は国としても聖女であるメニアといつまでも婚約させときたくねえってのはあったかもしれねえが……結局はメニアをこの国に繋ぎ止める為にこの国の誰かと婚姻させればいい話だからな。その相手が王族の誰かであれば願ったり叶ったり、ってなもんなんだろ」

ネウスははあ、と溜息を吐き出すと正面に居るメニアをそのまま自分の腕で緩く抱き締める。
メニアは、ネウスの腕に大人しく収まったまま考え込むように視線を落としていて、熟考が長いメニアに、ネウスは戸惑うように視線をメニアに向けた。

「ま、まさか……今更王族が良い、なんて言わねえよな……?」
「──え、?えっ、そんなまさかっ!」

一瞬、ネウスの胸の中に不安が過ぎったが即座に言い返して来たメニアにネウスはほっと胸を撫で下ろす。

王太子であるエリシュオンの見目は、ネウスとは違い、「王子様然」とした見た目だ。
艶々の金糸の髪の毛は柔らかそうにエリシュオンが動く度にふわり、と揺れ。
宝石のようにきらり、と煌めく碧い瞳は見る者を魅了するような輝きを放っている。
スッと通った高い鼻梁に、柔らかな笑みを浮かべた口元。
体躯も服の上からでも分かる程には鍛えているらしく、身長もネウスよりは低いが一般男性よりはすらり、と高い。

いかにも女性が好きそうな「王子様」を具現化したような見目麗しいエリシュオンに、自分には持ち得ない魅力を持った王太子にメニアが惹かれたらどうしよう、とネウスは一瞬だけヒヤリとしたがそんな事は無いらしい。

「王太子殿下も、とても綺麗なお顔立ちをしていますが、私は殿下よりもネウスさんの方が──……っ」
「……俺の、方が?」

メニアはあわあわと慌てて言葉を紡いでいたが、途中でしまった、とでも言うようにぴたりと言葉を途切れさせると自分の口元を手で覆った。

そんな態度のメニアを見て、ネウスはにんまりと口端を持ち上げて笑むとメニアに向かって楽しげに言葉を掛ける。

「俺の方がなんだよ?」
「ちょ、ネウスさん近いっ!」

ぐっ、とメニアに顔を近付けるネウスにメニアは顔を真っ赤にさせて腕を突っ張る。

愉しげに声を出して笑うネウスにメニアはネウスのクラヴァットを思い切りぎゅううっ、と結んだ。

そうしてネウスの着替えが済んだ頃、まるで見ていたかのようにタイミング良くメニアとネウスの居る部屋の扉がコンコン、とノックされた。

「──誰だ?」

ネウスが扉に向かって声を掛けると、ロザンナの呆れたような声が掛かった。

「ネウス様、着替え終わりました?」
「ああ、もう出る」

ネウスがメニアの手を取って扉までやって行き、扉を開けると呆れたような表情を浮かべてロザンナがチラリ、とメニアとネウスの繋がれた手に視線を向けてから唇を開いた。

「──思う存分いちゃつけましたかね?」
「まだ足りねえがな」

ロザンナの言葉に、ネウスは肩を竦めると不服そうに声を出した。
メニアは真っ赤になってネウスの背中を一度ばちん!と叩くと、そのまま国王達が待っているソファまで歩いて行った。






メニアとネウスが戻って来た姿を確認して、国王ヘンリーに続き、王妃と王太子であるエリシュオンもソファから立ち上がると、戻って来るメニアとネウスの繋がれた手に視線をやって残念そうに瞳を細めた。

「待たせて悪いな」

ネウスがけろり、と三人に声を掛けるとヘンリーが「いえ」と苦笑しながら言葉を紡ぎ、ヘンリーがソファに腰を下ろしたのを見て王妃とエリシュオンもソファへ腰を下ろした。

メニアはネウスに手を引かれるまま、ネウスの隣へと腰を下ろすと、ネウスが徐に唇を開く。

「──で、あらかたマティアスが説明はしたか?」
「はい。国王がご存知無かった事もお話させて頂きました。母から、シャロン・タナヒルが人外の存在と契約を結び、対価を払い願いを叶える召喚を行った事も共有済です」
「なんだ、それならもう殆どこっちが話す内容はねえな?」

ネウスの言葉に、マティアスとロザンナはこくりと頷くと、向かいに座っていた国王達三人がメニアとネウスの名前を口にした。

「メニア嬢、ネウス殿。この度は我が国の者達が申し訳ない。メニア嬢に対する仕打ちは、決して許される物では無い。国民を陽動し、メニア嬢を"偽の聖女"などと宣った事は、聖女を任命した我ら王族への叛逆と同等の罪だと捉えておる。……また、我が国の国民がネウス殿の子細が記載された書物を魔の者に渡す、などという行為も決して許される事では無い。四百年に及ぶ友好の関係を危うく我らの代で無くしてしまう所であった……。何と詫びをすれば良いのか……、本当に申し訳ない」

国王であるヘンリーは、しっかりとメニアとネウスに視線を向けて謝罪を口にすると、最後に頭を下げた。

一国の主が頭を下げた事に対して、メニアはぎょっと瞳を見開くと慌てて「頭をお上げ下さい!」と悲鳴じみた声を上げる。

「……そうだな、俺としてもしっかりあいつらに罰を与えて貰えれば良い。人間の国での罪状が決まったら、メニアの元婚約者と、あの女を俺に寄越してくれねえか?人間は人間であいつらを裁き、こっちはこっちで俺達、両国に混乱を招こうとしたあいつら二人にこちらでも別に罪を科す」

ネウスはゆったりと足を組むと、しっかりとヘンリーに視線を合わせて笑った。
しおりを挟む
感想 195

あなたにおすすめの小説

こんなに遠くまできてしまいました

ナツ
恋愛
ツイてない人生を細々と送る主人公が、ある日突然異世界にトリップ。 親切な鳥人に拾われてほのぼのスローライフが始まった!と思いきや、こちらの世界もなかなかハードなようで……。 可愛いがってた少年が実は見た目通りの歳じゃなかったり、頼れる魔法使いが実は食えない嘘つきだったり、恋が成就したと思ったら死にかけたりするお話。 (以前小説家になろうで掲載していたものと同じお話です) ※完結まで毎日更新します

居場所を奪われ続けた私はどこに行けばいいのでしょうか?

gacchi
恋愛
桃色の髪と赤い目を持って生まれたリゼットは、なぜか母親から嫌われている。 みっともない色だと叱られないように、五歳からは黒いカツラと目の色を隠す眼鏡をして、なるべく会わないようにして過ごしていた。 黒髪黒目は闇属性だと誤解され、そのせいで妹たちにも見下されていたが、母親に怒鳴られるよりはましだと思っていた。 十歳になった頃、三姉妹しかいない伯爵家を継ぐのは長女のリゼットだと父親から言われ、王都で勉強することになる。 家族から必要だと認められたいリゼットは領地を継ぐための仕事を覚え、伯爵令息のダミアンと婚約もしたのだが…。 奪われ続けても負けないリゼットを認めてくれる人が現れた一方で、奪うことしかしてこなかった者にはそれ相当の未来が待っていた。

【完結】もう結構ですわ!

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
恋愛
 どこぞの物語のように、夜会で婚約破棄を告げられる。結構ですわ、お受けしますと返答し、私シャルリーヌ・リン・ル・フォールは微笑み返した。  愚かな王子を擁するヴァロワ王家は、あっという間に追い詰められていく。逆に、ル・フォール公国は独立し、豊かさを享受し始めた。シャルリーヌは、豊かな国と愛する人、両方を手に入れられるのか!  ハッピーエンド確定 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/11/29……完結 2024/09/12……小説家になろう 異世界日間連載 7位 恋愛日間連載 11位 2024/09/12……エブリスタ、恋愛ファンタジー 1位 2024/09/12……カクヨム恋愛日間 4位、週間 65位 2024/09/12……アルファポリス、女性向けHOT 42位 2024/09/11……連載開始

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―

望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」 【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。 そして、それに返したオリービアの一言は、 「あらあら、まぁ」 の六文字だった。  屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。 ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて…… ※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

悪役令嬢に仕立て上げたいのならば、悪役令嬢になってあげましょう。ただし。

三谷朱花
恋愛
私、クリスティアーヌは、ゼビア王国の皇太子の婚約者だ。だけど、学院の卒業を祝うべきパーティーで、婚約者であるファビアンに悪事を突き付けられることになった。その横にはおびえた様子でファビアンに縋り付き私を見る男爵令嬢ノエリアがいる。うつむきわなわな震える私は、顔を二人に向けた。悪役令嬢になるために。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

処理中です...