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しおりを挟むメニアが悲鳴を上げる前にセリウスの体が後方へ吹っ飛んで行ってしまった事に、周囲に居たラドの護衛達を始め貴族達もぽかん、とセリウスが落ちた方向へ視線を向けている。
護衛の数名は、メニアを庇おうと手を伸ばしていたがメニアの側には一瞬目を離した隙に既にネウスがメニアを守るように立っており、護衛達はメニアとネウス達の前に自分達の体を入れるとセリウスから再度メニアが攻撃されないように自分達の体を盾にして並んだ。
「……随分吹っ飛んだな。そんなに効果の高いのを仕込んでたのか、メニア……?」
些か呆気に取られたように唇を開くネウスに、メニアは「おかしいですね」と自分の懐にしまい込んでいた魔石を取り出す。
「ネウスさんから頂いた書物に載っていた、普通の防御結界を魔石に掛けて、発動したんですけど……」
メニア自身も何故あれ程までセリウスが大きく弾かれてしまったのかは分からないらしく、首を捻っている。
その様子を後ろから眺めていたロザンナがゆったりと二人に近付き、背後からメニアの手の中にある魔石をひょい、と覗き込んだ。
「──元々メニアが掛けていた魔法に、咄嗟に魔力を乗せちゃったんじゃない?本能で自分を守る為に魔力を放出したのだったら、効力が上がっても頷けるわ」
「そんな事が出来るのか?」
ロザンナの言葉に、関心したようにネウスが言葉を返すとロザンナは吹っ飛ばされたセリウスの倒れている方向へ視線をやって「あれがいい例じゃありませんか?」と笑った。
セリウスは、自分自身に起きた事が理解出来ていないようで戸惑いの色濃く、狼狽えている。
セリウスの元へ駆け付けた護衛達に再び地面へと押さえ付けられると、今度は自由に動けないよう行動制限を与える枷を手足に嵌められている。
「ハピュナー嬢、ネウス様、ご迷惑をお掛けしてしまい申し訳ございません。お二人共お怪我はございませんか?」
「え、ええ……、私は大丈夫です。ネウスさんは?目に土が入ってしまってはいませんか?」
ラドが申し訳なさそうな表情を浮かべてメニアとネウスに近付くと二人に声を掛けて来る。
メニアは大丈夫だ、と返事をしてネウスへと視線を向ける。
メニアとラドの視線を受けたネウスも「俺も大丈夫だ」と言葉を返すと、ラドは素早く護衛達に指示を出してセリウスとシャロンを連れて行くように声を掛けた。
その後、ラドはくるりと体を反転させるとメニア達に向かって一礼し、今度こそ国王の待つ場所へと案内をした。
「お待たせして申し訳ございません……。陛下の元へご案内致します」
ラドの案内に従い、王城の中を進んで行く。
謁見の間や、裁きの間がある王城の中心地では無く、王族の居住区に迷わず進んで行くラドの背中を追いながら、メニアはそわそわと周囲を見回した。
メニアの隣を歩いていたネウスは、そわそわとしているメニアに苦笑して、軽く頭を小突いてやると唇を開いた。
「──あまりキョロキョロとしてると迷子になるぞ」
ネウスに小突かれたメニアは、むうっと不満そうに唇を尖らせるとネウスから視線を逸らして唇を開く。
「子供扱いしないで下さいよ……っ、しっかり着いて行きますもん……!」
「子供扱いはしてねえんだけどなぁ……」
笑いながらネウスはそう言うと、自然な流れでメニアの手をさっと自分の手のひらで攫う。
思いの外、力強く握られた自分の手のひらを驚きに見開いた瞳で見詰めてから、メニアは頬を染めてネウスを見詰めた。
ネウスはメニアの視線に口端を持ち上げて笑むと、そのまま指を絡めて再度手を繋ぎ直す。
「──……っ、ネウスさんっ」
「何だよ?別にいいだろ?」
頬を真っ赤にするメニアに、ネウスは手を繋いだまま躊躇うメニアを引っ張り、ラドの後を着いて行った。
ラドが案内してくれたのは、王族が住まう居住区にある私的な来賓室だ。
王族にとって、とても重要な人物を個人的に招く際に使用されるその場所は絢爛な装飾が施された扉を開けると、室内も品良く豪勢な調度品が設置されていて目が眩む程の豪奢な室内に、メニアはくらりと目眩を覚えてしまう。
「──へえ、ここには入った事は無かったが……こんな創りをしてんだな」
ネウスは何処か懐かしむように愉しげに呟くと室内をぐるり、と見回す。
メニアの手を引いたまま室内に一歩足を踏み入れると、先に室内に居た数人がメニアとネウスが姿を表した事に気付き、腰掛けていたソファから腰を上げて頭を下げた。
「メニア・ハピュナー嬢、魔の者の王であるネウス殿。良くぞ居らしてくれた」
落ち着いた重厚な声音で言葉を発した人物こそが、この国の国王陛下であり、名をヘンリー・イービス・アリティネイアと言う。
ヘンリー国王の隣に居るのは王妃だろう。王妃も恭しくドレスの裾を摘み、膝を曲げて礼を取る。
そして、二人の少し後方に控えて同じく頭を下げる青年は、この国の王太子が居て、メニアは国王陛下のみならず、王妃と王太子が同じ室内に居る事に頭の中が真っ白になってしまう。
王家主催の夜会などで、遠くからご尊顔を拝見した事はあるが、このような室内で、近い距離でまさか顔を合わせる事になるとは思っておらず、思考が停止してしまう。
その最中、ネウスはこの場所に何故か同席している王太子に眉根を寄せた。
その王太子は、年齢的にメニアととても良く合いそうな年頃に見えて、ネウスは不快感を覚えたのだった。
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