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しおりを挟むマティアスがそう言い、連れて来ていたネウスの国の近衛騎士団の師団長をその場にぽい、と打ち捨てる。
どしゃり、とその場に転がされたフィエンはもぞり、と体を動かそうとしたが体に痛みが走ったのだろうか、呻き声を上げるとその場に項垂れた。
「良く連れて来てくれたな。自分の仕出かした事を全て吐いて、認めたんだな?」
「はい。ラティージル殿の目の前で全て話しました。兄のロンが映像記録の魔道具でしっかりと自白した映像も記録してます」
「──良くやった。協力者の名前もしっかりと吐いたんだな?」
ネウスの言葉にマティアスは「はい」と頷くと自分がやって来た時に既にこの国の人間に拘束されているセリウスとシャロンに視線を向ける。
視線を向けられたセリウスは、真っ青になって「やめろ」と何やら譫言のように呟きながら首を横に振っていて、シャロンはフィエンから一生懸命顔を逸らし、フィエンの視界に入らないよう悪足掻きをしているが最早そんな事をしても何ら意味は無い。
「ネウス様、マティアス殿……。その、そちらの男性は一体?」
ネウスとマティアスの会話に、ラドが申し訳無さそうな表情を浮かべつつ言葉を挟んで来る。
セリウスと、シャロン以外にも自分達の国にとって害ある人物が居たのだろうか、と思案顔のラドにネウスは向き直ると、マティアスが連れて来たフィエンとセリウス、シャロンの関係を簡単に掻い摘んで口頭で説明する。
魔の者の知恵と闇魔法の力でメニアを長年魅了して来た事。
メニアのみならず、メニアの家族や、果てには王立図書館の貴重蔵書保管庫で衛兵に魅了を使用して権限が無いにも関わらず、その中に侵入した事。
魅了と信用を重ね掛けして一人の人間を孤立させ、自分の意のままに操ろうとした事などが説明される。
ネウスからあっさりとそのような事を話され、ラドは呆気に取られたように口を開いて呆然としてしまう。
「──な……、なんて、事を……っ」
「ああ、それだけじゃねえぞ?そこの男、メニアの元婚約者は、蔵書と引き換えに魔の者が持つ"操縦"の魔法を報酬として手にしているようだ」
「操縦……!」
その言葉を聞いて、ラドのみならず周囲に居た貴族達にも緊張が走る。
「操縦」の魔法は、この国では最早禁忌の魔法だ。
四百年前に、この国の王が愚かにも国民の命と引き換えに魔の者の王──それは、当時のネウスなのだが、当時のこの国の王は自分に私利私欲の為にネウスと裏取引をして「操縦」の魔法を手に入れようとしていた。
結局、その魔法では王が叶えなかった事は叶えられず、王自身も他の者に唆されその者に弑逆されている。
その当時の混乱ぶりから「操縦」の魔法は禁句、禁忌視されて来たのだが、それを再びこの国の人間が得ようとしていたなど、とラドは頭を抱えたくなってしまう。
「……本当に、何という事をしでかしてくれたのか……!他の魔の者と手を組み、この国にとって貴重な蔵書を他国の者に渡そうとするなどと……!これは最早彼ら個人だけの問題では無くなった……」
侯爵家の嫡男と令嬢がこのような事をしでかしてくれたのだ。
個人の問題で収めて置くには些か事が大き過ぎる。
ラドは頭を抱えままチラリ、とネウスに視線を向けると恐る恐る唇を開いた。
「──それで、その……蔵書はどう言った物を持って行ったか、など……ネウス様は知っておられますか……?」
「ああ。魔の者の王に関する情報が載った蔵書を複数持って行って、そこの男に渡したみたいだな。……まあ、あの蔵書に書かれている内容は殆どが偽物だけどな」
偽物、と言う部分だけネウスは声のトーンを落としてラドにだけ聞こえる声音で告げる。
ネウスの言葉を聞いてラドは先程以上の衝撃は無いだろう、と考えていたがネウスからの言葉は先程と同じか、それ以上の衝撃でもってラドの精神をゴリゴリと削って行く。
「……っ、友好、関係をっ築いて下さっている魔の者の王の情報を……っ!」
「まあ、そこは問題ねえし、うちの奴らが人間共を使って俺に歯向かおうとしやがっただけだから、寧ろこっちがこの国を巻き込んだみたいになって悪いな?」
「──とんでもない……っ!そもそも、貴重蔵書保管庫に入る事が重罪ですし、友好関係を結んでいる魔の者の王の情報が記載されている蔵書を魔の者に渡すなど……!我が国とネウス様の国が争う事になっていた可能性があるのです……!これは、ネウス様の国のみならず、我が国でも重大な犯罪行為となります」
ラドの言葉に、後方から「ひっ」と情けない声が上がる。
誰が悲鳴を上げたのか、など顔を見なくとも簡単に分かる。
(これだけの大事になる、と言う可能性を何故憂慮していなかったのかしら……)
メニアは、ラドとネウスの会話を聞きながらセリウスとシャロンの未来が閉ざされてしまった事を悟り、そっと瞳を閉じた。
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