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しおりを挟むラドが発した言葉に、一斉に護衛達がセリウスとシャロン達へと駆け寄り、彼らを拘束し始める。
「離せ……っ!俺はレブナワンド侯爵家の嫡男だぞ……っ!こんな事をしておいて、これがもし間違いだったらお前達護衛如きの首なんて簡単に飛ぶぞ……っ!」
「触らないでっ!私に触っていいのはセリウスだけよ!」
護衛達に地面に押さえ付けられ、両腕を後ろ手に縛られながら、セリウスとシャロンはそれでも悪足掻きをするように怒鳴り散らす。
だが、宰相を含めその場に集まっていた野次馬の貴族達は冷たい視線をセリウスとシャロンに送るだけで、誰も援護に入ろうとはいない。
セリウスが瞳を見開いた事から、恐らく野次馬に集まっている貴族達の中に、セリウスの手足となりメニアを「偽聖女」と街中に流布させた者達も居るようだが、巻き込まれないように口を閉ざしている姿を見てセリウスの表情が怒りに染まった。
「お前達──……っ!」
セリウスは、地面に押さえ付けられた状態からぐっ、と上半身に力を込めて起き上がろうとしたが、セリウスを押さえ付けている護衛が慌てたようにセリウスの頭を再度地面へと押さえ付ける。
その様子を眺めながら、ネウスはメニアの腰に自分の腕を回した状態でぽつりと言葉を零す。
「──醜いな。これだけ大勢の人間がいて、メニアの言葉によって自分達が仕出かした事が周囲にバレたってのに、それでもまだ自分は助かろうとしてやがる……」
「なんて事を……。セリウス様も、シャロン様もご自分の事しか考えておらず、周囲への迷惑など本当に考えていないのですね……」
地面へと押さえ付けられているセリウスの耳にネウスとメニアの声が聞こえて来て、セリウスはハッと瞳を見開くとこの状況を打破する良い案が浮かんだのか、メニアのいる方向へと顔を向けると助けを求めるように唇を開いた。
「──メニア……っ、すまない……!あんな事を言って……本心じゃないんだ……っ、だから……っ」
「──は、?」
セリウスが縋るような視線をメニアに向けて謝罪を口にする。
本心では無い、と言ったのだろうか。
偽の聖女だ、と夜会会場で周囲に吹聴し、王都に住む民達にも流布していたのに、それが本心では無いとはどう言う事なのだろうか。
「何、を……いまさら……っ」
メニアがぐっ、と唇を噛み締め、セリウスへ一歩足を踏み出そうとした所で、隣に居たネウスがメニアの腕を掴んで踏みとどまらせる。
「メニア、あいつの言葉を耳に入れるな」
「ネウスさん……っ、けど、本当に悔しくて……っ」
メニアとネウスが話していると、少し離れた場所に居たラドがメニア達に近付いて来る。
「ハピュナー嬢、ネウス様、この度は我々の国の人間が大変失礼致しました……。ハピュナー嬢も、申し訳ない……貴女が偽りの聖女など、とんでもない妄言です。貴女はこの国のれっきとした聖女です。国王陛下も、貴女を傷付けた件に関して謝罪したい、と仰せです。後日、改めてお時間を頂戴出来ればと思います……」
ラドが地面に片膝を付き、胸に手を当ててメニアとネウスに頭を下げる姿に周囲に居たこの国の貴族達はざわめく。
宰相自ら頭を下げ、国王陛下も改めて謝罪の場を設ける、と言う言葉にメニアが聖女である事が正しく、セリウスとシャロンが偽りを告げていたと言う事が分かる。
そして、メニアだけでなくネウスにまで仰々しく頭を下げるラドの姿に、周囲の貴族達は「ネウス」と言う名前の人物の正体を察して顔色を悪くさせる。
先程までは半信半疑だったが、この国の宰相であるラドがネウスに頭を下げる姿を見て半信半疑だった疑惑が確信に変わった瞬間だ。
周囲がざわめく中、ラドが立ち上がりメニアとネウス、ロザンナを王城へと案内しようとした所で背後から物凄い勢いでメニア達に近付く気配を感じてラドがびくり、と反応する。
ラドと共に居た護衛達も臨戦態勢を取るが、ネウスは良く知ったマティアスの気配に緩く手を上げるとラドに向かって唇を開いた。
「ラド、心配するな……この気配は俺の部下だ」
ネウスが言葉を発すると同時、風魔法を使用してこちらに来ていたのだろう。
砂埃を上げてメニアとネウスが立つ目の前に、マティアスが姿を表した。
「──ネウス様、遅くなってしまい申し訳ございません……!フィエンが全て自白しましたので連れて来ました……!」
マティアスが連れて来た男を見て、セリウスとシャロンはぎょっと瞳を見開くと、気まずそうにそっとフィエンから顔を逸らした。
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