【完結】偽りの聖女、と罵られ捨てられたのでもう二度と助けません、戻りません

高瀬船

文字の大きさ
上 下
122 / 155

122

しおりを挟む

ラドが発した言葉に、一斉に護衛達がセリウスとシャロン達へと駆け寄り、彼らを拘束し始める。

「離せ……っ!俺はレブナワンド侯爵家の嫡男だぞ……っ!こんな事をしておいて、これがもし間違いだったらお前達護衛如きの首なんて簡単に飛ぶぞ……っ!」
「触らないでっ!私に触っていいのはセリウスだけよ!」

護衛達に地面に押さえ付けられ、両腕を後ろ手に縛られながら、セリウスとシャロンはそれでも悪足掻きをするように怒鳴り散らす。
だが、宰相を含めその場に集まっていた野次馬の貴族達は冷たい視線をセリウスとシャロンに送るだけで、誰も援護に入ろうとはいない。

セリウスが瞳を見開いた事から、恐らく野次馬に集まっている貴族達の中に、セリウスの手足となりメニアを「偽聖女」と街中に流布させた者達も居るようだが、巻き込まれないように口を閉ざしている姿を見てセリウスの表情が怒りに染まった。

「お前達──……っ!」

セリウスは、地面に押さえ付けられた状態からぐっ、と上半身に力を込めて起き上がろうとしたが、セリウスを押さえ付けている護衛が慌てたようにセリウスの頭を再度地面へと押さえ付ける。


その様子を眺めながら、ネウスはメニアの腰に自分の腕を回した状態でぽつりと言葉を零す。

「──醜いな。これだけ大勢の人間がいて、メニアの言葉によって自分達が仕出かした事が周囲にバレたってのに、それでもまだ自分は助かろうとしてやがる……」
「なんて事を……。セリウス様も、シャロン様もご自分の事しか考えておらず、周囲への迷惑など本当に考えていないのですね……」

地面へと押さえ付けられているセリウスの耳にネウスとメニアの声が聞こえて来て、セリウスはハッと瞳を見開くとこの状況を打破する良い案が浮かんだのか、メニアのいる方向へと顔を向けると助けを求めるように唇を開いた。

「──メニア……っ、すまない……!あんな事を言って……本心じゃないんだ……っ、だから……っ」
「──は、?」

セリウスが縋るような視線をメニアに向けて謝罪を口にする。
本心では無い、と言ったのだろうか。
偽の聖女だ、と夜会会場で周囲に吹聴し、王都に住む民達にも流布していたのに、それが本心では無いとはどう言う事なのだろうか。

「何、を……いまさら……っ」

メニアがぐっ、と唇を噛み締め、セリウスへ一歩足を踏み出そうとした所で、隣に居たネウスがメニアの腕を掴んで踏みとどまらせる。

「メニア、あいつの言葉を耳に入れるな」
「ネウスさん……っ、けど、本当に悔しくて……っ」

メニアとネウスが話していると、少し離れた場所に居たラドがメニア達に近付いて来る。

「ハピュナー嬢、ネウス様、この度は我々の国の人間が大変失礼致しました……。ハピュナー嬢も、申し訳ない……貴女が偽りの聖女など、とんでもない妄言です。貴女はこの国のれっきとした聖女です。国王陛下も、貴女を傷付けた件に関して謝罪したい、と仰せです。後日、改めてお時間を頂戴出来ればと思います……」

ラドが地面に片膝を付き、胸に手を当ててメニアとネウスに頭を下げる姿に周囲に居たこの国の貴族達はざわめく。

宰相自ら頭を下げ、国王陛下も改めて謝罪の場を設ける、と言う言葉にメニアが聖女である事が正しく、セリウスとシャロンが偽りを告げていたと言う事が分かる。
そして、メニアだけでなくネウスにまで仰々しく頭を下げるラドの姿に、周囲の貴族達は「ネウス」と言う名前の人物の正体を察して顔色を悪くさせる。

先程までは半信半疑だったが、この国の宰相であるラドがネウスに頭を下げる姿を見て半信半疑だった疑惑が確信に変わった瞬間だ。



周囲がざわめく中、ラドが立ち上がりメニアとネウス、ロザンナを王城へと案内しようとした所で背後から物凄い勢いでメニア達に近付く気配を感じてラドがびくり、と反応する。

ラドと共に居た護衛達も臨戦態勢を取るが、ネウスは良く知ったマティアスの気配に緩く手を上げるとラドに向かって唇を開いた。

「ラド、心配するな……この気配は俺の部下だ」

ネウスが言葉を発すると同時、風魔法を使用してこちらに来ていたのだろう。
砂埃を上げてメニアとネウスが立つ目の前に、マティアスが姿を表した。

「──ネウス様、遅くなってしまい申し訳ございません……!フィエンが全て自白しましたので連れて来ました……!」




マティアスが連れて来た男を見て、セリウスとシャロンはぎょっと瞳を見開くと、気まずそうにそっとフィエンから顔を逸らした。
しおりを挟む
感想 195

あなたにおすすめの小説

こんなに遠くまできてしまいました

ナツ
恋愛
ツイてない人生を細々と送る主人公が、ある日突然異世界にトリップ。 親切な鳥人に拾われてほのぼのスローライフが始まった!と思いきや、こちらの世界もなかなかハードなようで……。 可愛いがってた少年が実は見た目通りの歳じゃなかったり、頼れる魔法使いが実は食えない嘘つきだったり、恋が成就したと思ったら死にかけたりするお話。 (以前小説家になろうで掲載していたものと同じお話です) ※完結まで毎日更新します

居場所を奪われ続けた私はどこに行けばいいのでしょうか?

gacchi
恋愛
桃色の髪と赤い目を持って生まれたリゼットは、なぜか母親から嫌われている。 みっともない色だと叱られないように、五歳からは黒いカツラと目の色を隠す眼鏡をして、なるべく会わないようにして過ごしていた。 黒髪黒目は闇属性だと誤解され、そのせいで妹たちにも見下されていたが、母親に怒鳴られるよりはましだと思っていた。 十歳になった頃、三姉妹しかいない伯爵家を継ぐのは長女のリゼットだと父親から言われ、王都で勉強することになる。 家族から必要だと認められたいリゼットは領地を継ぐための仕事を覚え、伯爵令息のダミアンと婚約もしたのだが…。 奪われ続けても負けないリゼットを認めてくれる人が現れた一方で、奪うことしかしてこなかった者にはそれ相当の未来が待っていた。

【完結】もう結構ですわ!

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
恋愛
 どこぞの物語のように、夜会で婚約破棄を告げられる。結構ですわ、お受けしますと返答し、私シャルリーヌ・リン・ル・フォールは微笑み返した。  愚かな王子を擁するヴァロワ王家は、あっという間に追い詰められていく。逆に、ル・フォール公国は独立し、豊かさを享受し始めた。シャルリーヌは、豊かな国と愛する人、両方を手に入れられるのか!  ハッピーエンド確定 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/11/29……完結 2024/09/12……小説家になろう 異世界日間連載 7位 恋愛日間連載 11位 2024/09/12……エブリスタ、恋愛ファンタジー 1位 2024/09/12……カクヨム恋愛日間 4位、週間 65位 2024/09/12……アルファポリス、女性向けHOT 42位 2024/09/11……連載開始

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―

望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」 【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。 そして、それに返したオリービアの一言は、 「あらあら、まぁ」 の六文字だった。  屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。 ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて…… ※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

悪役令嬢に仕立て上げたいのならば、悪役令嬢になってあげましょう。ただし。

三谷朱花
恋愛
私、クリスティアーヌは、ゼビア王国の皇太子の婚約者だ。だけど、学院の卒業を祝うべきパーティーで、婚約者であるファビアンに悪事を突き付けられることになった。その横にはおびえた様子でファビアンに縋り付き私を見る男爵令嬢ノエリアがいる。うつむきわなわな震える私は、顔を二人に向けた。悪役令嬢になるために。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

処理中です...