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しおりを挟むどしゃり、と不格好に転倒したセリウスは一瞬自分の身に何が起きたのか分からず、瞳をパチパチと瞬かせた。
「──え、?」
足が縺れたのだろうか、と自分の足の方へ視線を向けてセリウスは僅かに瞳を見開く。
セリウスの足首辺りには白く輝く薔薇の蔦のような物が絡み付き、それは地面からしっかりと生えているようでぐいぐいと足を動かしてもびくりともしない。
セリウスが混乱していると、後方から声が掛けられた。
「──何、をしようとしたんですかセリウス様……」
その声に嫌と言う程聞き覚えがあり、セリウスはぎりっと奥歯を噛み締めると上半身をそちらの方向に向けて吠える。
「──メニア!俺に何をした……っ!これ、を外すんだ……!」
ぎゃんぎゃん、とセリウスはメニアに向かって声を荒らげるとメニアはセリウスを睨み付けるように鋭い視線を向けた。
「何故、シャロン様を残してセリウス様はこの場を離れようとしているのですか……!」
「メニアには、関係ないだろう……!?早くこの拘束を外せ……っ」
セリウスは叫びながらぐいぐいと足を動かすが、メニアは自分の腕を持ち上げると手のひらをきゅっと握り締める。
瞬間、蔦のような物がきゅるっ、と更にセリウスの足をキツく縛り拘束を強めた。
「──メニアァァ……っ!」
セリウスが叫ぶ声を聞き、ネウスと話していたアーモがちらり、と後方に居るセリウスに視線をやり、関心したように唇を開く。
「ほう……。薔薇の蔦か……美しいな」
「──メニアに興味を持たないで貰えるか……」
ネウスはメニアを自分の後ろに隠すと、アーモに鋭い視線を向ける。
アーモはネウスからの視線を受けて軽く肩を竦めると、シャロンに視線を向けて唇を開いた。
「──アーモ様っ!」
アーモから視線を向けられたシャロンはキラキラと期待に満ちた表情を浮かべるが、アーモは平坦な声音でシャロンに向かって唇を開く。
「シャロン・タナヒル。血の契約により、そなたの願いは叶った。二つ目の願いに関してはそなたはネウスの名を得られなかった為に契約不履行だ。ネウスの名に関しては大きな対価が必要となる」
「──え、?待って、アーモ様。でも、その方のお名前は知ったでしょう?だから……っ」
「私を喚んだ時点で血の契約はもう既に切れていた。対価はしっかりと頂くからな」
アーモは狼狽えるシャロンに向かってふわり、と空中に浮いたまま移動するとシャロンの額に自分の指先をつん、と当てる。
シャロンはアーモの言葉を理解したくないのか、理解出来ないのか、瞳を彷徨わせ、周囲に視線を巡らせる。
アーモの声は、不思議と良く響き渡り、周囲に居た者達にしっかりと聞こえてしまっている。
先程まで自分を包み込んでいた高揚感がすぅっと一気に冷めて行くような感覚を覚え、シャロンはさあっと顔色を真っ青にさせた。
「あ、待って……っ、違うの……っ、違うのよっ、セリウス……っ!」
シャロンはそこでやっとセリウスの存在を思い出したかのようにバッと自分の隣に視線を向けるが、先程までそこに居たセリウスの姿が無く、驚きに瞳を見開く。
「シャロン・タナヒル。確かに対価は頂いたからな。私は戻る」
アーモはシャロンから興味を無くしたように視線を外すと、くるり、と振り返りネウスへと体の向きを変えてにんまりと笑みを浮かべる。
「ネウス、気が変わったら私を呼べよ。貰ってやるからな?」
「──大きなお世話だ」
アーモはネウスの後ろに居るメニアを覗き込むように上半身をひょい、と傾けるがネウスはメニアの姿をしっかりと自分の腕の中に隠す。
顔すら見せたくない、と言うように自分の胸元にメニアの顔を抱き込むとアーモに向かって「さっさと帰れ」とでも言うように睨み付ける。
アーモは小さく何事かを自分の唇の内で呟くと、メニアに向かって自分の指先を軽く振った。
キラキラ、とした光の粒がメニアに向かって進んで来るが、ネウスがその光の粒を素早く自分の手に魔力を込めて散らすが僅かな光の粒がメニアに辿り着いてしまう。
「──ちっ、忌々しい……!」
「ネ、ネウスさん……?」
些か焦ったようなネウスの声に、メニアがネウスの腕の中から顔を上げてネウスに声を掛けると、ネウスは「顔を隠していろ」と再度メニアを自分の胸に押し付ける。
「──ぅぷっ、」
「……もう、その女との血の契約は消滅しただろう……?さっさと自分の世界線に戻ったらどうだ……?」
「ふふ、必死だなネウス。──まあ、微弱ながら印は付けたしな……そろそろお暇しよう」
ネウスの言葉にアーモはゆったりと笑みを深めると、ふわり、と空中に漂わせていた自分の体を更に上空へと浮遊させる。
「ま、待ってアーモ様……っ!もう一度、もう一度契約するから……っ!戻らないで!この場に居る人達の記憶を消してよっ!」
上空に向かい浮遊するアーモの姿が次第に透けて行くのを目にして、慌ててシャロンがアーモに向かって言葉を叫ぶ。
アーモの姿に向かってシャロンは必死に手を伸ばすが、当然アーモを引き止める事は出来ず、シャロンの言葉が虚しくその場に響く中、アーモの姿はその場ですぅっと水に溶けるように消え去った。
後に残ったのは、足首をメニアの拘束魔法で拘束され、地面に転がるセリウスと、顔面蒼白にしてその場にへたり込むシャロン。
そして、遠巻きに事の成り行きを見ていた野次馬達と──。
この国の宰相であるラド。
そして、メニア達がその場に残っている中、重苦しい空気の中、ラドが一歩足を踏み出すと、いつの間にか増えていた護衛達に向かって唇を開いた。
「──セリウス・レブナワンドと、シャロン・タナヒル両名を拘束せよ」
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