【完結】偽りの聖女、と罵られ捨てられたのでもう二度と助けません、戻りません

高瀬船

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周囲に集まっている者達は、メニア達を遠巻きに囲みながら困惑顔で成り行きを見守っている。

いくらメニアが「偽聖女」だとしても、その人物を護衛していた人間を傷付けても良いと言う事では無い。
悪意を持って、メニアに攻撃をしようとしたセリウスやシャロンを非難するような人物も出て来はじめている。

そして、ネウスの腹部をシャロンが手に持った何かで深々と貫いていたのに、ネウスはしっかりと自分の足で立ち、意識もしっかりとしている事に周囲はざわめき始めている。
人間であれば、立っている事など出来やしない。
人間で無ければそれは、と周囲がざわめき始めているのだがセリウスとシャロンは自分達の事で精一杯になっていてネウスやロザンナの正体になど気付きもしない。

周囲の視線が集まって来ているそんな中、メニアもセリウスへの怒りが爆発した。

「──いつまでもっ!そんなくだらない事を……!セリウス様と婚約していたのは確かに事実ですが、始めに婚約を打診して来たのはセリウス様のレブナワンド侯爵家じゃないですか……!それなのに、学院ではシャロン様と仲睦まじく過ごして、人前では口に出来ないような事をして……!何が"私の為"ですか……!」
「──なにを……っ」
「それに、セリウス様が好きだと思っていた気持ちも全部まやかしじゃないですか……!強制的に私の気持ちを変えて、そこまでしてセリウス様は"聖女"と言う権利が欲しかったのですか……!」

メニアの声は大きく響き、周囲に集まっていた野次馬達の耳にもしっかりと届いてしまう。

ざわざわと周囲が騒ぎ始め、セリウスやシャロンに冷たい視線が集まり始める中、それでもメニアの口は止まらない。
今まで我慢に我慢を重ね、セリウスやシャロンに言いたい事も言えず溜め込んでいた不満が爆発したのかのようだった。

「それに、セリウス様を好きだと思っていた気持ちも全てセリウス様とシャロン様が手を組んでいた魔の者から貰った魔石に込められた魅了の魔法のせいじゃないですか……!魅了が解呪されたらそんな気持ちちっとも残りませんでした、セリウス様を好きでも何でもないのに、何故私がセリウス様やシャロン様に嫉妬をしているみたいに言われなくてはいけないんですか、好きじゃないのに!」

メニアが叫んだ瞬間、感情の揺らぎによって魔力制御が狂い、ネウスに掛けていた治癒魔法の光がぶわり、と大きく広がった。

「メニア……!メニア落ち着け……!この膨大な光は光属性魔法じゃあ出やしねえ……!聖属性魔法を使用しているってのがバレるぞ……!」

ネウスが焦ったようにメニアの腕を掴んで自分の方へと振り向かせると、メニアは興奮により頬を真っ赤にしてぜいぜいと息を乱している。

「う……っ、す、すみません……っ。集中を戻さなきゃ……」
「ああ、いや……。大分メニアのお陰で治ったけどよ……」

メニアは恥ずかしそうにネウスの肩に頭を凭れ掛けさせてネウスの腹部に翳していた自分の手のひらに意識を集中し始める。

ネウスの体内に入っていた良くない魔力。
それは、メニアと同じ聖属性の魔力のようだった。
悪意を持ってネウスの体内に聖属性の魔力が込められた魔石が突き刺さり、闇属性と聖属性は相反する魔力同士だった為にネウスの体内に流れる闇属性の魔力と反発し合い、ネウスの治癒力を阻害していたようだ。

「同じ聖属性の魔力なのに、使う人間が違うと効果も違うんだな……」

ネウスが関心したようにぽつりと零すとメニアはこくり、と頷いて唇を開いた。

「──はい。シャロン様から入れられてしまった魔石に込められた魔力は恐らく魔の者に脅された人間が聖属性の魔力を込めたんだと思います。ネ、……あなたの体内に入り込んだ聖属性の魔力を私の魔力で包み込んで浄化しながら体内の傷を修復しました。聖属性魔法って、色々な事が出来るんですね……!」

にっこりと満面の笑顔を浮かべるメニアに、セリウスとシャロンを含めて周囲が驚愕の表情に変わる。

「偽の聖女、じゃなかったのか……!?」
「確かに偽物だと聞いたが……、だがあの清廉な魔力はどう見ても光属性の魔法以上の物だったぞ……!?」
「と、言う事はもしかして、あの二人が嘘を言っていたのか……!?」

周囲の反応が丸っきり逆転してしまった事にセリウスとシャロンは青い顔をしている。

そんな二人に、メニアが視線を戻すとびくり、と反応したシャロンが瞳に涙を浮かべながらキョロキョロと周囲を見渡して、ある場所を見た瞬間、瞳を見開いた。



王城の方向から、険しい表情を浮かべたこの国の宰相であるラドが護衛を引き連れてこの場に向かって来ている姿が見える。

宰相の姿が現れた事に、周囲に居た貴族達も視線を向け、気まずそうに下を向いたり、視線を逸らしている者達も居るがその場を離れようとする者は一人もいない。

「──あっ、あぁ……っ、このままじゃあ……っ、折角ここまで来たのに……っ」

シャロンは悲壮感漂う表情と声音で小さく呟くと、隠し持っていた短剣を取り出した。

「──シャロン……!?何を……っ!」

シャロンが手にした短剣を目にしたセリウスがぎょっと瞳を見開き、短剣を目にしたネウスはメニアを守るように自分の背中へと隠す。

シャロンが自暴自棄になって再び襲って来るのではないか、と周囲が考えたのも束の間。

何を思ったか、シャロンは自らの腕を握り締めた短剣で突然切り裂いた。
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