【完結】偽りの聖女、と罵られ捨てられたのでもう二度と助けません、戻りません

高瀬船

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「──え、?」

メニアは、自分の目の前で起こっている出来事が信じられなくて瞳を見開く。

「……っ、!」

ネウスの名前を叫びたかったが、シャロンが居る手前ネウスの名前を呼んではいけない、と言う考えが働きメニアは何とかネウスの名前を飲み込むが、目の前に居るネウスの口からこぷり、と真っ赤な血が零れ落ちてメニアは急いでネウスとシャロンに近寄ると、風属性魔法を発動してシャロンを吹き飛ばした。

「──きゃあっ!」

メニアの風魔法によってシャロンが後方に吹き飛ぶ際に、ネウスの体からシャロンの手首がずぶり、と抜き出てセリウスの居る方向へと飛んで行った。

「シャロン……っ!」

セリウスは青い顔をしたままシャロンを受け止めると、恐る恐るネウスの方へと視線を向けた。

普通の人間ならば、致命傷だ。
何故、シャロンがそのような事が出来たのかは分からないが、シャロンの手首から先が深々とネウスの体に突き刺さって居た。
普通の人間であれば、直ぐに膝を折り地面に崩れ落ちるだろう。

だが、目の前のネウスは地面に崩れ落ちる事無く、自分の腹に空いた穴に手のひらを添えて抑えると忌々しげにシャロンを睨み付けて居る。

「ね、ネウスさん……血が……お腹に穴が……」

瞳に涙の膜を張りながらか細い声で話し掛けて来るメニアに、ネウスは視線をやると「大丈夫だ」と小さく声を掛ける。

「──俺達は腹に穴が空いた程度では死なねえ……。だが……回復を阻害してるな……。あの女が握っていた魔石に込められた魔力が邪魔をしてやがる……」
「え……えぇ……」

けほっ、と苦しそうに呼吸を乱しながらネウスが口にする言葉に、メニアは戸惑いを顕にシャロンへと視線をやる。

シャロンはメニアの風属性魔法を正面からまともに受けてしまったせいであちこち傷だらけでセリウスの腕に支えられながら伏している為、意識があるのかどうか、メニアとネウスが居る場所からは伺えない。

遠目からなのでハッキリとは分からないが、シャロンの手に何かが握られたままなのを確認したメニアは、先程ネウスが話していた魔石がシャロンの手にあるのだと知ると、ネウスに向き直る。

「──ネウスさん、その魔石はシャロン様が持っているみたいです……!今、ネウスさんに治癒魔法を掛けますから……!」
「ああ……、悪いが頼む……」

普段よりも些か弱々しいネウスの声に、ネウスが負った傷は軽い物ではないのだろう、とメニアは判断すると聖属性の治癒魔法を発動する為に魔力を込め始める。

メニアがネウスに治癒魔法を発動しようとしていると、セリウスの元で倒れていたシャロンが目を覚ましたようだ。

「シャ、シャロン……?大丈夫か……?」
「うぅ……」

シャロンはふるふると頭を横に振るとセリウスの手を借りてその場にフラリ、と立ち上がる。

セリウスはちらちらと周囲の様子を伺いながら、こそりとシャロンに耳打ちした。

「──シャロン、このままだと不味いぞ……。周囲に人が集まり始めていて、シャロンや俺が人に危害を加えた所をしっかりと見られている。それに、その良くわからない魔石は何処で手に入れたんだ……?あの魔の者から貰ったのか……?」
「だって……いつまでもメニアがあの人の名前を教えないから……っ!もう時間が無いのに……っ」

シャロンが絶望したように表情を歪めて悲痛な眼差しでセリウスに告げる。
シャロンはセリウスに縋るようにセリウスの袖の裾をきゅう、と握るとセリウスはキッとメニア達を睨み付けるように鋭い視線を向けた。

「──シャロンがここまで言ってるんだ……!名前くらい良いだろう、メニア!」

自分勝手な言い分を、メニアは聞き入れるのが当然と言わんばかりに語気を荒げるセリウスに、ネウスを治癒していたメニアは眉を顰めるとセリウスの言葉を無視する。

メニアとネウスの様子を心配そうに見ていたロザンナが、呆れたようにセリウスに視線を向けると信じられない、と言うように呟いた。

「あの男、凄いわね……。何故メニアが言う事を聞くと思っているのかしら……?」
「──今まで、私がセリウス様の言う事を疑いもせず、喜んで聞いて来たからだと思います……。魅了の魔法って、本当に恐ろしいですよね……。当時はセリウス様が全て正しいんだ、と思い込んでいましたから……」
「なるほどねぇ……。それであの男は今も尚、メニアが自分の言う事を聞くとばかり思い込んでいるのね……」

能天気な考え方ね、とロザンナが苦笑する。

セリウスの言葉に全く反応を返さないメニア達に焦れたセリウスは、シャロンを支えながらその場に立ち上がるとメニア達に向かって責めるような口調で叫ぶ。

「メニア……!何とか言ったらどうなんだ……!俺に捨てられ、嘘を暴かれたからと言って、何の罪も無いシャロンに危害を加えるなんて……!君を心配して、友人として力に成ろうとしてくれているシャロンに対して君はこんな仕打ちをするのか……!」

セリウスの的外れな言い分に、メニアはふつふつと怒りが込み上げて来る。

「──っ、私が……っ何も言わないと思って……!」
「おい、メニア……?」

メニアが怒りに震える声を出して呟くと、ネウスが声を顰めてメニアに小さく話し掛ける。
この場で暴れるな、と言うネウスの制止をメニアは分かってはいるが好き勝手言われ続けていたメニアにも、我慢の限界がやってきた。

「おい……、待て……。今この場で聖属性魔法を使用するなよ……?治癒魔法とは違って、聖属性魔法をこの場で発動しちまえば周りにバレるぞ……っ」

ネウスが慌てたような声を上げるが、メニアはネウスには言葉を返す事無く、セリウスに向かって唇を開こうとした。
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