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しおりを挟むネウスの言葉を聞いた周囲の大人達がざわざわと騒ぎ始める。
周囲からは「宰相が関わっているなんて聞いていないぞ!」と言った声や、「罰せられるんじゃないか!?」と言った焦った声が聞こえて来て、ネウスは苛立ち混じりに舌打ちをする。
ネウスの言葉の詳細は分からずとも、何か不味い事になっていると言う事が雰囲気で分かるのだろう。
ネウスの前に居た子供達はオロオロとお互いに目を見合せて「どうしよう」と焦っているようだ。
「──お前達も、良くない大人に騙されて踊らされてる……。何でもかんでも大人の言う事を信じるんじゃねえぞ」
「──っ」
呆れたようなネウスの表情と、声音でそう告げられて子供達は逃げるようにその場から駆けて行ってしまった。
子供達の後ろ姿を見ながら、ネウスは頭を乱雑にかくと先程居た男性貴族達が居た方向へ視線を向けるが、先程までそこに居た貴族達はいつの間にか姿を消していた。
「しまった。逃がしちまったか……」
ネウスはぽつりと呟くと、周囲の野次馬達はそのままに馬車へと戻って行った。
馬車へと戻ると、心配そうな表情を浮かべたメニアがネウスに向かって唇を開く。
「──先程、子供達の声が聞こえました……。もしかして……昨夜の夜会での事が?」
悲しそうに目を伏せてネウスに聞いてくるメニアの隣にネウスはどさり、と腰を下ろすとちらり、とメニアに視線をやってからネウスは唇を開いた。
「ああ……。何でかは分からねえが、メニアが偽の聖女だなんだって喚いてたな。周囲にも人が集まって来ちまってたから国民にも今後知られる可能性がある」
「そんな……何故そんな事に……」
「まあ……十中八九、あいつらの仕業だろうよ。……これからラドの元に行って、先ずはこの対応をどうするか確認しねえとだな。メニアが外に出る度に馬車の窓を割られちゃあ堪んねえだろ?」
ネウスは俯くメニアの顔に掛かるひと房の髪の毛を掬ってやると耳に掛けてやりながら、穏やかな口調で話す。
メニアはネウスの言葉に眉を下げて頷くと、再び馬車が動き始めた事に気付いて不安そうな表情で窓の方向を見詰めた。
王城の正門へと到着すると、そこで馬車から下ろされる事になる。
メニア達三人が馬車から降り立ち、御者に馬車の待機場所に戻っているように、とメニアが御者に伝えていると、ロザンナがネウスに近付いて来る。
「──ネウス様……、これ……」
「ああ。……ちらほらと昨日の事を鵜呑みにしてる人間がいやがる……」
ロザンナが周囲を注視しながらネウスに話し掛けると、ネウスも頷きながら低く唸るような声音で言葉を返す。
王城に務めている者達の中には、昨夜の夜会会場に居た貴族も居るのだろう。
ラドと関わりのある上層部の人間や、国王陛下の側に着く者はしっかりとメニアの事が伝えられているだろうが、王城に出入りする商人や、下位貴族の間にはまだメニアの事柄に関しては周知されていないのだろう。
周囲からあからさまに冷たい視線を向けられている事にネウスは何度目になるか分からない舌打ちをする。
「御者に伝えてきました……!──、どうしましたか……?」
メニアがパタパタとネウスとロザンナに駆け寄って来ると、ネウスはメニアの方に向き直りメニアが周囲の視線に気付かないようにメニアの肩を抱いてくるり、と体を王城の正門の方向へと向けさせる。
正門さえ早く通り過ぎてしまえば、下手にメニアに突っかかって来る者もいないだろう、とネウスは考えて足を進めるが、そう考えている時に限って良くない事が起きるとは良く言ったものだ。
「──あれ、は……セリウス様と、シャロン様……?」
メニアがぽつり、と呟いた声に反応してネウスがメニアの視線を追うと、正面から──。
王城の方向からセリウスとシャロンが親密さを少しも隠そうとせず、体を寄せ合い歩いて来ているのが見える。
「このタイミングでかよ……っ」
ネウスが面倒臭そうに呟くと、正面から歩いて来ていたセリウスとシャロンもメニア達に気付いたのだろう。
セリウスは眉を顰め、シャロンはネウスの姿を見て喜色一杯に表情を輝かせるとこちらに向かって足早にやって来た。
「──メニア、昨夜ぶりね!」
「シャロン、様……そうですね……」
シャロンから機嫌良さげにそう話し掛けられて、メニアは曖昧に微笑みを浮かべると返答する。
昨夜ぶり、と言う言葉を聞いてセリウスは嫌そうにネウスに一瞬だけ視線を向ける。
シャロンが、自分以外にも興味を持っているのが面白くないのだろう。
あからさまなセリウスのその態度に、メニアは何故今までセリウスに簡単に騙されてしまっていたのか、と嫌になってしまう。
「そちらの方も……!昨夜はいらっしゃらなかったですよね……。メニアの邸にお邪魔したのですよ?メニアの護衛であるあなたがいらっしゃらないとは……どちらに行かれていたんですか?」
まるで媚びるようなシャロンの甘ったるい声音に、メニアは自分の眉間に皺が寄ってしまう。
何故、セリウスが隣に居ると言うのにネウスに話し掛けるのだろうか。
(ネウスさんは、私の──……っ、)
メニアがそう心の中で考えてしまっていると、セリウスの隣に居たシャロンがふいにネウスに近付いて腕を伸ばし、ネウスに触れようとしている。
「──シャロン様っ!」
その姿を見た瞬間、メニアは物凄い嫌悪感が湧き上がり、ネウスの腕を引いてシャロンから離れさせた。
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