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しおりを挟むメニアは自分の目の前の温もりにまだ覚醒しきらないぼうっとした思考で擦り寄った。
メニアの反応に、背中に添えられていた手がメニアの背中を上がり、優しく頭を撫でている。
メニアはぽやぽやとした頭で、撫でられている心地良さから再び微睡みの中に意識を手放した。
再びメニアの寝息が聞こえて来た事に気付いたネウスは「危機感がねえな」と呟くと眉を下げて笑った。
窓から差し込む陽の光に、メニアの意識がゆっくりと浮上してくる。
自分の体がすっぽりと何かに暖かく包まれている安心感に、暫く心地良い眠気に瞼を閉じていたメニアだったが、ふ、と昨夜の事を急に思い出してバチリ、と慌てて瞳を開ける。
「──ひっ、」
メニアは自分の目の前に広がる男性の胸元に思わず悲鳴を上げそうになってしまったが、昨夜ネウスと同じベッドで眠りについた事を思い出して何とか飲み込んだ。
メニアが恐る恐る視線を上にあげて行くと、ネウスの端正な寝顔が間近にあってひゅっと息を飲み込んだ。
何故かメニアはネウスの腕に頭を乗せていて、メニアの体ごとネウスに緩く抱き込まれている。
自分の後頭部に回ったネウスの手に、メニアはぶわっと頬を赤く染め上げるが、ネウスの寝顔についつい見蕩れてしまう。
(普段の……勝気なネウスさんの瞳が見えないだけで……何だか不思議な感じね……)
自信に満ち溢れた紅い瞳が閉じられた瞼の奥にあるせいか、眠っている姿だけを見ると普段の不遜な態度や自信家なネウスとは真逆の印象を受ける。
ネウスの闇色の髪の毛がサラサラと瞼にかかり、髪色と同じ睫毛が瞼を縁っており、メニアはネウスの睫毛が意外と長い事に驚く。
(普段はこんなに至近距離でネウスさんの顔を見る事が無いから気付かなかったけれど……待って……、もしかして私より睫毛が長い……?それに睫毛も多くて狡い……)
メニアはじぃっとネウスの寝顔を無言で見詰める。
改めてまじまじと見詰めてみると、これはシャロンがネウスに執着するのも頷ける、と納得してしまう。
人間離れした美貌の持ち主で、長身でスタイルも良い。
声も落ち着いた低く、色気のある声音でメニアは何故こんな人が自分と知り合いになったのだろうか、と不思議な気持ちになって来る。
メニアが暫くネウスを観察していると、メニアの背中に回っているネウスの手のひらがふるふると震えている。
「──え、?」
「……ふっ、」
メニアが不思議に思ってちらり、と自分の背中に回るネウスの手に視線を向けようとした時、目の前に居るネウスの笑い声が漏れ聞こえて来た。
「──どんだけ見てんだよ……穴が開きそうだ」
「ネウスさん……っ!起きていたんですか……!?」
くくっ、と口元を笑みの形に歪めて声を出して笑うネウスに、メニアは自分がじっくりとネウスの顔を観察していた事が知られていた、と言う恥ずかしさで顔を真っ赤に染める。
顔を覆いたいがネウスに抱き締められている状況では上手く腕を上げる事が出来ず、メニアは自分の赤い顔を隠す為に目の前にあるネウスの胸元に顔を寄せて隠す。
「──……、わざとやってんのか……?」
ぼそり、とネウスの声が頭上から聞こえたがメニアは真っ赤な顔を隠す事に必死になりネウスの言葉には何も言葉を返さなかった。
それから暫ししてベッドから這い出したメニアは、眠そうに欠伸をしているネウスを一旦外に追い出して着替えを済ませると、再度ネウスを室内に招き入れる。
「今日はマティアスが戻って来る前にラドの所に行くぞ」
「えっメランド卿の所にですか?」
「──ああ。昨夜の夜会で起きた事を国も把握してんだろ。その結果、国として聖女であるメニアに対するあいつらがやらかした事柄の対処をどうするか、それと昨夜ハピュナー子爵家にやってきたあの女とうちの国の種族の事を伝えておかねえとな」
「なるほど、確かにそうですね……」
ネウスの言葉に、メニアもこくりと頷く。
確かに、この国に災いを齎す可能性のある魔の者の襲撃があった情報は共有しておく必要がある。
「ああ。だから情報共有がてら行くぞ。マティアスが戻ってくるだろうからカーナとユリナはここに残して、ロザンナを連れて行く予定だ」
「分かりました。いつ頃出ますか?」
「朝飯食ったら行くか。ラドももう職場に居るだろう」
「そうですね。朝食を済まして行けば、丁度良い時間帯かもしれませんね」
今日の予定を決めると、ネウスは護衛の騎士服に袖を通す。
メニアとネウスは支度を終わらせると、朝食を取りに食堂へと降りて行った。
食堂でメニアは父親や母親に今日の予定を告げる。
ロザンナ達にも今日の予定を告げて、カーナとユリナはマティアスが戻って来るのを邸で待っていて貰う。
その事を告げると、若干残念そうにしていたカーナとユリナだったが、メニアの母親にメニアの姉の子供達と遊んでやってくれ、と言われると嬉しそうに頷いた。
「まあ、あの子達は自国から出る事が殆ど無かったから、この国の街を散策してみたかったんでしょうね」
ロザンナが呆れたように微笑みながらそう言うので、メニアは落ち着いたら街へ散策しに行こう、とカーナとユリナと約束した。
食事が終わり、メニアとネウス、ロザンナは出掛ける支度を終えると王城にあるラドの職場へと向かう事にした。
父親に子爵家の馬車を用意してもらい、それに乗り込み王城へ行く為に街中を通っていた時だった。
馬車内で世間話を楽しんでいたメニアの横に座っていたネウスがパッと顔を馬車の窓へと向けると、緊張感を孕んだ鋭い声音で叫んだ。
「メニア……!頭を伏せろ!」
「え……っ、きゃあ!」
ネウスが強引にメニアの頭を下げさせ、自分自身の体でメニアを包み込む。
その瞬間、けたたましい派手な音を立てて馬車の窓硝子が砕けた。
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