【完結】偽りの聖女、と罵られ捨てられたのでもう二度と助けません、戻りません

高瀬船

文字の大きさ
上 下
113 / 155

113

しおりを挟む



メニアは自分の目の前の温もりにまだ覚醒しきらないぼうっとした思考で擦り寄った。
メニアの反応に、背中に添えられていた手がメニアの背中を上がり、優しく頭を撫でている。

メニアはぽやぽやとした頭で、撫でられている心地良さから再び微睡みの中に意識を手放した。

再びメニアの寝息が聞こえて来た事に気付いたネウスは「危機感がねえな」と呟くと眉を下げて笑った。





窓から差し込む陽の光に、メニアの意識がゆっくりと浮上してくる。

自分の体がすっぽりと何かに暖かく包まれている安心感に、暫く心地良い眠気に瞼を閉じていたメニアだったが、ふ、と昨夜の事を急に思い出してバチリ、と慌てて瞳を開ける。

「──ひっ、」

メニアは自分の目の前に広がる男性の胸元に思わず悲鳴を上げそうになってしまったが、昨夜ネウスと同じベッドで眠りについた事を思い出して何とか飲み込んだ。

メニアが恐る恐る視線を上にあげて行くと、ネウスの端正な寝顔が間近にあってひゅっと息を飲み込んだ。
何故かメニアはネウスの腕に頭を乗せていて、メニアの体ごとネウスに緩く抱き込まれている。

自分の後頭部に回ったネウスの手に、メニアはぶわっと頬を赤く染め上げるが、ネウスの寝顔についつい見蕩れてしまう。

(普段の……勝気なネウスさんの瞳が見えないだけで……何だか不思議な感じね……)

自信に満ち溢れた紅い瞳が閉じられた瞼の奥にあるせいか、眠っている姿だけを見ると普段の不遜な態度や自信家なネウスとは真逆の印象を受ける。

ネウスの闇色の髪の毛がサラサラと瞼にかかり、髪色と同じ睫毛が瞼を縁っており、メニアはネウスの睫毛が意外と長い事に驚く。

(普段はこんなに至近距離でネウスさんの顔を見る事が無いから気付かなかったけれど……待って……、もしかして私より睫毛が長い……?それに睫毛も多くて狡い……)

メニアはじぃっとネウスの寝顔を無言で見詰める。
改めてまじまじと見詰めてみると、これはシャロンがネウスに執着するのも頷ける、と納得してしまう。
人間離れした美貌の持ち主で、長身でスタイルも良い。
声も落ち着いた低く、色気のある声音でメニアは何故こんな人が自分と知り合いになったのだろうか、と不思議な気持ちになって来る。

メニアが暫くネウスを観察していると、メニアの背中に回っているネウスの手のひらがふるふると震えている。

「──え、?」
「……ふっ、」

メニアが不思議に思ってちらり、と自分の背中に回るネウスの手に視線を向けようとした時、目の前に居るネウスの笑い声が漏れ聞こえて来た。

「──どんだけ見てんだよ……穴が開きそうだ」
「ネウスさん……っ!起きていたんですか……!?」

くくっ、と口元を笑みの形に歪めて声を出して笑うネウスに、メニアは自分がじっくりとネウスの顔を観察していた事が知られていた、と言う恥ずかしさで顔を真っ赤に染める。

顔を覆いたいがネウスに抱き締められている状況では上手く腕を上げる事が出来ず、メニアは自分の赤い顔を隠す為に目の前にあるネウスの胸元に顔を寄せて隠す。

「──……、わざとやってんのか……?」

ぼそり、とネウスの声が頭上から聞こえたがメニアは真っ赤な顔を隠す事に必死になりネウスの言葉には何も言葉を返さなかった。








それから暫ししてベッドから這い出したメニアは、眠そうに欠伸をしているネウスを一旦外に追い出して着替えを済ませると、再度ネウスを室内に招き入れる。

「今日はマティアスが戻って来る前にラドの所に行くぞ」
「えっメランド卿の所にですか?」
「──ああ。昨夜の夜会で起きた事を国も把握してんだろ。その結果、国として聖女であるメニアに対するあいつらがやらかした事柄の対処をどうするか、それと昨夜ハピュナー子爵家にやってきたあの女とうちの国の種族の事を伝えておかねえとな」
「なるほど、確かにそうですね……」

ネウスの言葉に、メニアもこくりと頷く。
確かに、この国に災いを齎す可能性のある魔の者の襲撃があった情報は共有しておく必要がある。

「ああ。だから情報共有がてら行くぞ。マティアスが戻ってくるだろうからカーナとユリナはここに残して、ロザンナを連れて行く予定だ」
「分かりました。いつ頃出ますか?」
「朝飯食ったら行くか。ラドももう職場に居るだろう」
「そうですね。朝食を済まして行けば、丁度良い時間帯かもしれませんね」

今日の予定を決めると、ネウスは護衛の騎士服に袖を通す。

メニアとネウスは支度を終わらせると、朝食を取りに食堂へと降りて行った。





食堂でメニアは父親や母親に今日の予定を告げる。
ロザンナ達にも今日の予定を告げて、カーナとユリナはマティアスが戻って来るのを邸で待っていて貰う。
その事を告げると、若干残念そうにしていたカーナとユリナだったが、メニアの母親にメニアの姉の子供達と遊んでやってくれ、と言われると嬉しそうに頷いた。

「まあ、あの子達は自国から出る事が殆ど無かったから、この国の街を散策してみたかったんでしょうね」

ロザンナが呆れたように微笑みながらそう言うので、メニアは落ち着いたら街へ散策しに行こう、とカーナとユリナと約束した。




食事が終わり、メニアとネウス、ロザンナは出掛ける支度を終えると王城にあるラドの職場へと向かう事にした。

父親に子爵家の馬車を用意してもらい、それに乗り込み王城へ行く為に街中を通っていた時だった。
馬車内で世間話を楽しんでいたメニアの横に座っていたネウスがパッと顔を馬車の窓へと向けると、緊張感を孕んだ鋭い声音で叫んだ。

「メニア……!頭を伏せろ!」
「え……っ、きゃあ!」

ネウスが強引にメニアの頭を下げさせ、自分自身の体でメニアを包み込む。
その瞬間、けたたましい派手な音を立てて馬車の窓硝子が砕けた。
しおりを挟む
感想 195

あなたにおすすめの小説

こんなに遠くまできてしまいました

ナツ
恋愛
ツイてない人生を細々と送る主人公が、ある日突然異世界にトリップ。 親切な鳥人に拾われてほのぼのスローライフが始まった!と思いきや、こちらの世界もなかなかハードなようで……。 可愛いがってた少年が実は見た目通りの歳じゃなかったり、頼れる魔法使いが実は食えない嘘つきだったり、恋が成就したと思ったら死にかけたりするお話。 (以前小説家になろうで掲載していたものと同じお話です) ※完結まで毎日更新します

居場所を奪われ続けた私はどこに行けばいいのでしょうか?

gacchi
恋愛
桃色の髪と赤い目を持って生まれたリゼットは、なぜか母親から嫌われている。 みっともない色だと叱られないように、五歳からは黒いカツラと目の色を隠す眼鏡をして、なるべく会わないようにして過ごしていた。 黒髪黒目は闇属性だと誤解され、そのせいで妹たちにも見下されていたが、母親に怒鳴られるよりはましだと思っていた。 十歳になった頃、三姉妹しかいない伯爵家を継ぐのは長女のリゼットだと父親から言われ、王都で勉強することになる。 家族から必要だと認められたいリゼットは領地を継ぐための仕事を覚え、伯爵令息のダミアンと婚約もしたのだが…。 奪われ続けても負けないリゼットを認めてくれる人が現れた一方で、奪うことしかしてこなかった者にはそれ相当の未来が待っていた。

【完結】もう結構ですわ!

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
恋愛
 どこぞの物語のように、夜会で婚約破棄を告げられる。結構ですわ、お受けしますと返答し、私シャルリーヌ・リン・ル・フォールは微笑み返した。  愚かな王子を擁するヴァロワ王家は、あっという間に追い詰められていく。逆に、ル・フォール公国は独立し、豊かさを享受し始めた。シャルリーヌは、豊かな国と愛する人、両方を手に入れられるのか!  ハッピーエンド確定 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/11/29……完結 2024/09/12……小説家になろう 異世界日間連載 7位 恋愛日間連載 11位 2024/09/12……エブリスタ、恋愛ファンタジー 1位 2024/09/12……カクヨム恋愛日間 4位、週間 65位 2024/09/12……アルファポリス、女性向けHOT 42位 2024/09/11……連載開始

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―

望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」 【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。 そして、それに返したオリービアの一言は、 「あらあら、まぁ」 の六文字だった。  屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。 ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて…… ※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

悪役令嬢に仕立て上げたいのならば、悪役令嬢になってあげましょう。ただし。

三谷朱花
恋愛
私、クリスティアーヌは、ゼビア王国の皇太子の婚約者だ。だけど、学院の卒業を祝うべきパーティーで、婚約者であるファビアンに悪事を突き付けられることになった。その横にはおびえた様子でファビアンに縋り付き私を見る男爵令嬢ノエリアがいる。うつむきわなわな震える私は、顔を二人に向けた。悪役令嬢になるために。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

処理中です...