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しおりを挟むネウスの低く冷たい声音にフィエンはびくり、と恐れ体を震わせるがさっとネウスから視線を逸らすと口をしっかりと引き結ぶ。
「──簡単には話すつもりはねえ、か……。良い度胸だ」
背を向けている為、メニア達からネウスの表情が見えない事をいい事に、ネウスは恐ろしく冷たく酷薄な笑みを浮かべるとフィエンの魔力供給を絶つ。
激しい痛み、苦しみに床をのたうつフィエンを無理矢理床に押さえ付けているマティアスに、ネウスは一言だけ言葉を発した。
「──こいつはこのままロンの元に送る。一緒に戻って、……どんな事をしてもいい。こいつと、先に戻したあいつらから情報を持ち帰れ」
「かしこまりました」
「昼前にはこっちに戻って来いよ。──ロザンナが王城からくすねてきたこの転移の魔道具を使え」
「ありがとうございます」
「ああ」
ネウスはマティアスに転移の魔道具をしっかりと握らせると、そのままマティアスとフィエンを自分の国に転移魔法を発動して送る。
一瞬の内に目の前から姿を消した二人に背を向けて、ネウスはメニア達の方へと戻って行った。
時刻は深夜、と言う事もあり夜会で騒ぎが起きた後にシャロンとフィエンの予想外の訪問と強襲を受けて、メニア達はへとへとになっていた。
ネウスは自分の邸に戻る事も考えたが、この邸が魔の者にも割れている為メニアを連れてこの邸を出てしまったら最悪、メニアの家族が危険に晒される可能性もある。
その為ネウスは下手に動く事を避けてメニアのハピュナー子爵邸に留まる事にした。
自分が居れば、その他の魔の者の襲撃があった場合や、メニアの元婚約者の訪問があったとしても直ぐに対処出来るだろう、と考えての事だ。
「──だからって……!これは、流石に駄目です……!」
「は?何が……?」
メニアは顔を真っ赤に染めて精一杯目尻を釣り上げてネウスに抗議する。
ネウスはメニアの言葉に首を傾げると、バサバサと自分が身に纏っていたこの国の騎士服を脱ぎ、ソファの背にぽいっと放る。
些かラフな格好になると、ネウスは襟元を緩め袖を捲って駄々をこねる子供に言い聞かせるようにメニアに向かって唇を開いた。
「メニアの父親にも許可は貰っただろ?当主が良いと言うなら問題はねえし、なによりメニアを狙っている奴がいるなら同じ室内で過ごしていた方が守りやすい」
「うっ、ぐ……それは……そうですけど……。っでも……!」
「何をそんなに駄々こねてんだ?別にこの場でメニアに手を出す程俺は空気を読めない男じゃねえぞ?」
「──手を出っ」
元から赤かったメニアの顔色が、更にぶわり、と真っ赤に染まる。
あまりの羞恥に感情が制御出来なくなっているのだろう、瞳には薄らと涙の膜が張りネウスを睨み付けているつもりだろうメニアの態度はネウスに取っては逆効果だ。
ネウスはにやり、と嫌な笑みを浮かべるとからかうように唇を開く。
「こんな時に何を考えてんだ?俺はただ、メニアを守る為に同じ部屋で寝るだけだぞ。父親も、俺と同室でメニアが寝てくれる方が安心だっつってたろ?」
「だ、だけど……!流石にそのっ、未婚の男女が同じ部屋で眠るのは……っ」
「そんなに気にする事ねえだろ……そろそろ本当に寝るぞ」
ふあ、と眠そうな欠伸を噛み殺し、ネウスはメニアの手首を掴むとベッドへとスタスタと歩いて行く。
足に力を入れてネウスの行動に抗おうとするメニアだが、そんなメニアのささやかな抵抗もネウスにはなんて事は無く、そのままベッドへと辿り着いてしまう。
「──わ、分かりましたっ!同室で就寝するのは分かりましたが……っせめてソファとか……っ!ネウスさんソファで寝てくれませんか……!?」
「は?ベッドがあるのに何でソファで眠らなきゃならねえんだよ?」
「そ、それじゃあ私がソファで──……っ」
「部屋の主で、女のメニアをソファで眠らせるわけねえだろ」
二人でベッドに入るつもりなのだろうか。
それは流石に、と思いなおもメニアは食い下がろうとするが、ひょい、と軽々とネウスに体を抱き上げられてそのままぽいっとベッドへと放られる。
どさっとベッドに体を落とされた衝撃でメニアが思わず目を閉じると、ゴソゴソとベッドに入り込んで来るネウスの気配がして慌ててメニアは起き上がろうとする。
「ああ、もう暴れるなメニア。まだ何もしねえよ。明日も早いんだから、寝るぞ」
「──"まだ"!?」
ぎょっとしてメニアがネウスに視線を向けると、思ったよりも近い距離にあるネウスの顔にぎくり、とメニアは体を強ばらせる。
メニアの態度に苦笑したネウスは「寝るぞ」とメニアに声を掛けるとそのままあっさりと瞼を閉じてしまった。
この状況に、動じず平常心を保っているネウスにメニアは何だか釈然としない気持ちを抱きながら、じっとネウスの顔を見詰めるがネウスは反応しない。
(だ、男女がこんなに近い距離で……そのっ、密着してると言うのに……ネウスさんは何とも思わないの……?)
ドギマギしているのは自分だけなのか、とメニアは若干悲しいような何とも言えない複雑な気持ちになってしまう。
飄々としたネウスの態度に、様子に、「慣れているのか」とさえ思ってしまって。
メニアは何故だか自分の心臓が軋んだような痛みを覚えて、その痛みに気付かない振りをして自分も瞼を閉じた。
メニアの呼吸音が整って来た頃──。
すうすう、と規則正しい寝息が自分の胸元から聞こえて来てネウスはパチリ、と瞳を開いた。
「──マジかよ……本当に安心して寝やがった……」
確かに手を出さない、とは言ったがそれにしても寝付くのが早すぎないか?とネウスは呆れてしまう。
ネウスははー、と深く溜息を吐き出すとメニアの背中に手を回し、自分の腕で引き寄せるとぎゅう、と抱き締める。
「メニア……もう、分かってんだろ……?」
ネウスの気持ちも、メニア自身の気持ちも察している筈だ。そうでなければ流石に同じベッドになんか入らない筈。
ネウスは自分の胸元にぎゅう、とメニアの頭を抱き寄せると「眠れそうにねえなあ……」と何処か嬉しそうにぽつりと呟き、起きてからどう行動するか、と考え始めた。
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