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しおりを挟む──ロザンナが、攻撃されてしまう。
ネウスとマティアスがやってくる少し前。
メニアは自分の腕を掴んでこの場から離れようとする父親の腕に抗いながら、ロザンナに視線を向けたまま、届かないとは分かっているが自分の腕を精一杯伸ばしていた。
(何でっ、私には魔力が少ないの……っ!強い攻撃魔法が使用出来ないの……っ!)
折角適性のあった風属性魔法ですら、強力な攻撃魔法を発動する事は出来ない。
聖属性魔法は、守りに特化した性質だ。
その為、聖属性の魔法を全て使用する事が出来れば自分の大切な人達を守る事が出来る。
だが、メニアには繊細な聖属性魔法の構築式を魔力を制御して構築する事も、理解する事も追い付かず、そして致命的な魔力の少なさのせいでその場で強力な守りの聖属性魔法を発動する事が出来ない。
(先程、ユリナさんを守った魔石の魔法は、あと一個分は発動してくれるけど……、次にロザンナさんが攻撃されてしまったら……っ)
守りの効果がある魔石は、もう無い。
ロザンナを襲う二度目の攻撃はもう防ぐ事は出来ないのだ。
メニアはぶわり、と自分の視界が滲んで行くのを感じる。
どうにかして、この状況を打破しなければいけないのに、何もいい案が浮かんで来ない。
ロザンナに向かってフィエンが吠え、攻撃魔法を繰り出そうとした瞬間、メニアの視界の先に見慣れた姿が突然出現した。
「──えっ、」
メニアが瞳を見開いた瞬間、見慣れた紅い瞳が瞬時にメニアの居る方向に振り向いた。
姿を現した人物は二人居て、その内の一人がロザンナの元へ向かうのを見て安心したのだ。
メニアは、自分の膝から力が抜けてしまい、その場にカクン、と崩れ落ちそうになった。
その姿を見た瞬間、紅い瞳が見開かれ
その男──ネウスは真っ黒い髪の毛を靡かせて一瞬でメニアの元へとやって来ると床へ崩れ落ちてしまう寸前だったメニアを力強く抱き留めた。
「──メニアっ!」
「ネ、ウスさん……っ」
ぎゅう、と強くネウスに抱き締められて、ネウスが来てくれた、と言う安堵感からメニアも震える腕をネウスの背中に回してぎゅっと抱き締め返す。
密着したネウスの体からばくばく、とけたたましく鼓動を刻む心臓の音が聞こえて、メニアはその心音に縋るようにネウスの胸元に顔を寄せた。
メニアの行動に、僅かにネウスの体がびくり、と強ばったのは一瞬で、安心させるように更に強く抱き締められてメニアは思わず小さく息を吐き出した。
「もう大丈夫だ……。遅くなってすまないな」
ネウスの低く、優しげな声音がメニアの耳に入り込みメニアの瞳に膜を張っていた涙がとうとう零れ落ちる。
涙を流すメニアに、ネウスはぎょっとして瞳を見開くと慌てて落ち着かせるようにメニアの背中をぎこちない動きで何度も摩ってやる。
そのぎこちないながらも気遣ってくれるネウスの優しさに、メニアはふふっと笑みを零すと唇を開いた。
「──ごめんなさい、安心して気が緩んでしまったみたいです」
「そうか……何処にも怪我は無いか?精神干渉も受けていないな?」
心配そうに聞いてくるネウスに、メニアは微笑んで頷くと、メニアの表情を見てネウスも安心したように表情を緩めた。
そうしている内に、マティアスとフィエンのやり取りが進んだのだろう。
前方でロザンナを助けたマティアスが、ネウスに向かって問うような言葉を発した。
「──この男を、殺しては駄目なんですか……?」
普段聞き慣れているマティアスの優しげで穏やかな声音では無く、何処か冷たく突き放すような声に、メニアがびくりと体を震わせると、ネウスはメニアを抱いたまま立ち上がると、自分の腕でメニアを支えながら床に降ろしてやる。
腰に回ったネウスの腕に支えられながら、メニアが前方に視線を向ければ、マティアスと対峙しているフィエンの姿が見える。
ネウスはマティアスの言葉に、冷たい表情と声音で言葉を返した。
「……ああ、生け捕りにしろ。そいつからは聞きたい事がたっぷりとあるからな?」
「──かしこまりました」
ネウスの言葉を聞き、マティアスが返事を返してから直ぐ。
返事と同時に動いたマティアスは、一瞬だけ軸足に力を込めると反動を付けて軸足と反対側の足を振り上げフィエンの死角から重い蹴りを繰り出す。
「──っ!」
マティアスの蹴りが飛んで来た事に一拍遅れて気付いたフィエンは急いで自分の肘を持ち上げて蹴りを防ごうとしたが、マティアスとフィエンの力の差なのか、それともマティアスが攻撃を仕掛ける時に自分自身に身体能力強化の魔法を掛けたのか。どちらかは分からないが、防御の為にフィエンが上げた肘ごとマティアスの足が肘に当たった瞬間、フィエンの体がぶれて真横に吹き飛ぶ。
カーナとユリナが居ない方向をしっかりと狙って吹き飛ばしている辺り、マティアスにはまだまだ余力がありそうで、師団長であるフィエンと、一つの騎士団を統率する騎士団長であるマティアスの間にはかなりの力の差があるのだろう、と言う事が伺える。
マティアスは吹き飛んで行ったフィエンの体を追うように素早くフィエンの元へと向かうと、床に叩き付けられ、痛みに呻きながら起き上がろうとするフィエンの頭を鷲掴んでもう一度床に叩き付けた。
「──が……っ、!」
「大人しくしてろよ」
フィエンが自分の頭を掴むマティアスの腕を掴んで自分から引き剥がそうとしているが、マティアスの腕はびくりともしない。
フィエンがもがいている内に、近くまでやって来たネウスはメニアをロザンナに任せるとフィエンの側にしゃがみこみ、唇を開いた。
「──首謀者はお前だな?餓鬼共を焚き付けて俺を狙わせたな。目を背けさせて、メニアを狙う──……。いい案だったが、メニアを狙う本当の理由は何だ?」
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